第3話 夢花火 (2) 夏花火 ①
三行でわかるあらすじ。
「…その内側に秘めた溢れんばかりの性的衝動を現すかのように、艶かしさとエロテックな熱を帯びているのであった。」
「私なんか、本当はいなくていいんじゃないかって。」
「決定…の、ようですなあ。」
光が疾る、矢が走る。闇の宇宙に焔が駆る。
地球からはるけき時間と空間を超えた暗黒の宇宙、その、七連星の初端に浮かぶ、地球と同様じ、青の惑星。
コードネーム:くされチョンマゲマーチ星、その防衛拠点である、機械衛星への奇襲攻撃。
異なる宇宙を隔てて二つ、互いによく似た青き星。天宙の美少女たちの長く険しき旅路は奇しくも、青い惑星同士の戦いで幕を上げた。
「3号機出るぜえ!パイスライドォ!」
「2号機出ます、パイスライド!」
「……………!!………………!!!」
黄、青、緑。異なる色に彩られ、卵型の機体が次々と。発射台から跳び立ってゆく。初手から全力、出し惜しみなし、文字の通りの総力戦。外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、太陽系外宇宙探査機構の一行は。持てる戦力の総てを以て、機械衛星へと強襲をかける。
「前回の戦闘から得られたデータを解析した結果、衛星の防衛にあたっている無人機の前面装甲は防御率200%…pai各機は正面からの攻撃をなるべく避け、敵機の下面…腹側に回り込むように戦ってください。」
タコの科学者、教授・リーがマイクを取る。全裸のぬらぬら触手ボディに白衣を羽織り、その上ネクタイ靴下は完備。絵に描いたような完璧な変態紳士ルックながら教授・リーのアドバイスは的確、かつ、論理的。おまけに無駄に美声である。
「了解!ようはアレだろ?こうやって…。」
3号機。タツミの乗機の巨大な右腕が、唸りを上げて振り上げられる。
「ッラァ!!!」
轟奢鐚。3号機の単純明確な全力パンチが、手近な一機を叩き潰す。防御率200%、鉄壁の防御を誇る敵機の尖角が、見るも無惨に折れ曲がる。
「…気合い入れてブン殴れってコトだろ。」
自慢顔で犬歯を光らすタツミ。目の前で起こったあまりに非常識な出来事に、教授・リーは言葉を失う。
「おラァ!ガンガン行くぜ野郎ども!!」
「了解。」
加速器全開、迷わず真っ直ぐ突っ込む3号機。その、黄色の軌跡に従い、青の2号機が加速する。
鬼奢唖。甲虫が口吻を開き、箒状の牙を剥き出して迫る。
「ッ…!」
青の2号機の加速器が唸り、卵型の機体が滑るように機動く。剣の達人の見切りが如く、狙い澄ました拳闘士のライト・クロスが如く。紙一重。敵機の突撃を肩越しに躱す。
「…連射。」
甲虫の柔腹に突き付けられた、重機関銃が火を噴いた。2号機の搭乗者・アキノ、彼女は隊長であるタツミとはまた異なるベクトルで教授・リーのアドバイスを生かし、既にこの敵機との戦い方を掴みつつある。しかも巨乳だ。
事駕駕駕駕駕巌。音のない宇宙に銃声とともに、鋼鉄で出来た肉片が散る。
「…容赦ね~……。」
己が部下の、精密機械のように的確な攻撃。自分の考える『闘い』とは全く別種のアキノの機動きに、タツミは正直な感情を漏らす。
「うぉ!?」
2号機の戦いぶりに目を奪われ一瞬呆けた3号機の隙へ、逃さじと迫る鉄の甲虫。視界に迫る黒い塊、回避は既に不能である。タツミは衝突の撃に備え両の奥歯を噛み締めた。
巨大な右拳を盾のように構え、防御の姿勢の3号機。しかし。3号機の構えた防盾へ伝わるはずの衝撃が来ない。刹那に早く、タツミの視界の右端から、伸びる長大な機械腕。緑の4号機が展開させた伸縮腕が迫る敵機を捕まえたのだ。
「ゴリラ!!」
3号機は脇を振り返り、己が油断を的確に救った、4号機の姿を顧みる。3号機と同じ卵型の機体、それを核に四方に伸びる、長大な腕、長大な脚。4本の伸縮腕を前方に構え、後方に推進機を背負った姿は鸚鵡貝か、アンモナイトか。4号機がこの航海で初めて見せる空間格闘戦闘特化ユニット、通称「蛸壺」である。
吟、吟、吟。伸縮椀の先端の、蟹鋏に捕らえられた甲虫が軋む。挟む上下に加わる圧力。逃れることも叶わぬままに敵機の装甲が限界をむかえる。
馬吟。遂に圧力に耐えきれなくなった鉄の機体が木っ端微塵の微塵に砕け、綺羅綺羅綺羅と天宙に散る。圧倒的な巨体と圧力。唯一のpai未搭載機であるゴリラの4号機は、皮肉にもそれ故に随一の単純な膂力を誇る。
「ありがとよ!ゴリラ!!」
満面の笑みでウィンクを贈るタツミ。モニター越しの無邪気な笑顔にゴリラは顔を赤らめる。
「ゴリラさん、いかがですか?4号機の新兵器、鍬形虫は。前回戦闘した敵機をヒントに追加してみました。」
無駄な美声でタコの科学者、教授・リーが嬉しげに言う。曲者揃いの外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、そのスタッフの中において比較的常識と良識を持つ彼だが。現在、画面を眺める顔は、自分の作品が戦う姿を満足そうに眺めている顔。彼もまた他の例に漏れず幾分マッド・サイエンティストの気があるように見える。
「ちなみに他の腕にはロケットパンチとドリル、そしてマルチプルランチャーが…。」
「後で聴いてやる、二陣くるぜ!!」
教授・リーの説明を遮り、叫ぶタツミの檄が飛ぶ。黄・青・緑、宇宙に浮かぶ三連星へ、わんさと敵機の一群が迫る。
「派手に暴れんぞ!ッシャァ!!」
飛び出す黄色の3号機。青の2号、緑の4号がそれぞれ続き、ふたたび戦闘の舞台が始まる。
「全砲門開きつつ前進!火力は前方に集中してください!!」
美貌の艦長代理が戦橋で叫ぶ。標的・機械衛星へ、ゆっくりと進む黒い巨山。搭載されたpaiのみならず、本丸である母艦さえも、敵前に晒す総力戦闘。あまりにも無茶に見える突撃、いったい如何なる勝算が、彼女らの胸にあるのだろうか。シホの胸が大きく波打つ。
オペレーション・メテオ。外宇宙探査艦プレジデント・オバマの幼女艦長、ツバサの発案による作戦名だけで既に危ういこの作戦、その概要は。
まず、青の惑星コードネーム:くされちょんまげマーチの防衛拠点である機械衛星をオバマ本艦を含む主力部隊で全力で強襲。そして、それを陽動とした隙に別動隊、pai1号機が大気圏降下、単機によるくされちょんまげマーチ星首都への奇襲を敢行、これを制圧。さらにその際の混乱に乗じて機械衛星も一気に陥とすという、実に完璧な…実に完璧に無理のある二面作戦である。
オバマ轟沈すら普通にあり得るこのひどい作戦、通常の環境ならば異議のひとつも出ようものだが。プレジデント・オバマの艦内は既にツバサの愚行に慣れきっており、「またかよ。」で済ませてしまう程度に感覚が麻痺してしまっていた。
長い航宙の中で乗組員の意思統一をはかるという困難、意識的にせよ無意識にせよ、なんなく成し遂げているツバサ。彼女は案外、艦長としては有能なのかもしれない。
光が疾る、矢が走る。闇の宇宙に焔が駆る。
黄・青・緑の星が舞う。閃光煌めく、爆炎瞬く。
外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、及び三機のpaiは持てる力の限りを尽くし、明日をも知れぬ突撃を続ける。
「(艦長…!よろしくお願いします…!!)」
シホは己と艦の運命をツバサに託し、視線の先の青い惑星を見つめた。
一方。
シホとオバマの命運を託された噂の幼女艦長はその頃、実に楽しげにウキウキと、めぐりんに浴衣を着せてもらっていた。




