第3話 夢花火 (1) サムライの星へ ④
外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、暗黒の宇宙に漂う小島のようなその巨駆に、バビルの塔が如く聳える戦橋。戦闘指令室であり、平時は会議室でもあるそこに、ツバサ、シホ、イソジニール少佐、さらにはタコの教授・リー、ペンギンの機関長ペン太くん。この艦の主たる面々が並ぶ。加え、タツミ、アキノ、ゴリラの3人。主要戦闘兵器であるpaiの搭乗者達である。
彼らの視点は中央正面、幾つかの画像の重なりあった、第一画面に集まっている。映し出されているものは、航宙図…この艦の現在位置と、今後の進路をあらわしたもの。そして、目的地らしき青の惑星。その惑星へと向かう進路の、矢印の上に赤い×点。さらにはどういった訳か、日本の江戸時代のような。更に言えばまるで時代劇のセットのような、現代の我々日本人にとっては非常に既視感のある街並みが点々と、画面の端に撮されている。
「えー、まあ。それで、だ。ここ。この青い…衛星写真で見ての通り、くそふざけくさったチョンマゲ時代の星だが。前回あのくそカブトムシどもに襲撃されたのは、どうやらこの星。くされチョンマゲマーチ星に近づき過ぎたから…らしい。」
中央、画面の前に立つツバサが、バンバンと図解を叩いて見せる。画面の端々に撮された街並みはどうやら、この青の星の地表の様子。地球よりはるけき時間と空間の彼方の暗黒宇宙に浮かぶ惑星としては、確かにふざけた文化習慣を持った星であるようだが。この星の名前はもうそれで固定で本当に良いのだろうか。この場にいる全員は艦長のレクチャーという時点で最初から半分諦めており、それについてツッコむ者も、異を唱える者も存在しない。
「で、だ。このくされチョンマゲマーチ星なんだが。あ、ペン太くん画面切り替えてください。うん。前回、13年前の調査でわかったンだがな?この宇宙はこっから先、7つの星がちょうどこう。北斗七星みたいに並んでて。ゴッツウォーリア。その先にあるコレ…地球の天宙表で言うと北極星だな。ヒルダ様。これがその、己様たち地球人にチョッカイだしてきやがる、くされ変態宇宙人どもの本拠地…で、あるらしい。この艦は鉄砲玉なんで、とにかくこの北極星に向かって、派手に暴れつつ突っ込んでいくのが任務なワケだが。現状はどーかというと、その一歩め。この、くされチョンマゲマーチ星に近づく事すら出来ず、泣かされて帰って来てる状態なワケだ。不甲斐ないぞ、ゴッツウォーリア。」
偉そうに艦長服を羽織った身体をそびやかし、ツバサは搭乗者たち3人を睨む。タツミが忌々しげに舌打ちをし、アキノは興味なさげに眼鏡を光らせ、ゴリラは何故か照れている様子だが。先ほどからツバサの言葉の端々に、かなり危険な単語がちょいちょい混じるのは良いのだろうか。宇宙時代を生きる彼らは、残念ながらその危険さに気付くことも出来ないのだが。誰か止めるべきではないのだろうか。
「…まあ、そんな訳でして。本艦の当面の目標は、この惑星。えー…くされチョンマゲマーチ星ですかな。こちらの攻略となっております。この赤い×点。この赤い×点が、前回我々が襲撃を受けた宙域となるのですが。あ、ペン太くん、望遠でお願いします…はい。これですな。この宙点にはちょうど、くされチョンマゲマーチ星の衛星が存在しておりまして。はい。この様に、見事なまでに武装化されて、防衛拠点となっておるようなのです。この宙域を突破するにはまず、こちらの衛星の防衛網を越えなければならない。前回の戦闘で皆さんお分かりかと思いますが、今回はなかなかに手強い相手のようでして…。」
これ以上ツバサに喋らせ続けるのは危険と判断したのか、イソジニール少佐が説明を引き継ぐ。いつも通りの柔らかい語り口、温厚な様子の少佐であるが、その銀色の瞳は笑ってはおらず。前回の戦闘で不覚をとった搭乗者たちへと冷たい視線を投げ掛けている。
「ソコでだ。この己様の奇想天外、かつ大胆不敵な大作戦…名付けて。オペレーション・メテオを敢行する。いいかお前ら。この作戦、一歩間違えれば艦が沈む。宇宙の旅もここで終わりだ。危険な賭けだぞ、心してかかれ。」
少佐に負けじと前に割り込み、いろいろな意味で危険な作戦名を告げるツバサ。だが、戦橋のこの雰囲気。危険なのは作戦名だけでなく、作戦そのものであるようだ。そもそもこのツバサの考える作戦、ろくなものでないのは間違いあるまい。
「はい。それでですな、この…オペレーション・メテオ、ですかな…作戦ですが。艦長もおっしゃる通り、非常に危険な作戦なのですが。その中でもとりわけ非常非常に重要かつ、非常非常非常に危険極まる役割を担うことになるポジションにpaiを一機、配置する必要があります。繰り返しますが非常非常非常非常に危険なポジションですので…出来ればこちらから指名してお任せするのではなく、自らの意思で志願して頂きたく思うのですが…。」
とぼけた口調とは裏腹に。イソジニール少佐の凍るような銀色の瞳が一同を舐める。その後ろでは少佐の背後に追いやられたツバサが、どうにか前に出ようとして「このヒゲ!ヒゲ!」とあがいている。
「…ったくよぉ。」
しょうがねえな!とばかりに頭を掻きつつ、タツミが一歩を踏み出したその時。場違いに間抜けなエレベーターのチャイムがピンポーンと高い音を立て、扉がガーッと左右に開いた。
「すいません!遅れちゃいまし…た…?」
転げるように姿を現す、ハルカ、そして、次いでめぐりん。戦橋に集まった一同が、心の中でアーメンと唱える。
「決定…の、ようですなあ。」
ハッハッハと楽しげに笑う、イソジニール少佐とツバサ。自分たちに刺さる哀れみの視線を感じ、室内を「え?え?」と見回すハルカ。状況がわからないながらにめぐりんは。自分がまたろくでもないことに巻き込まれたという予感を、確固たる実感へと変えていくのであった。
「プレジデント・オバマ全速前進!目標、敵防衛基地衛星!総員戦闘配備!射程に入り次第砲撃を開始します、各搭乗者はいつでも出撃られる状態で待機を!」
黒のオバマの巨躰が唸る、暗黒の宇宙の風を斬る。ペタペタと。慌ただしく走り回るペンギンの足音、強引強引と脈打つ機械。空気の張った艦内に、シホの凛とした指令が飛ぶ。
オバマはいつでも即断実行、思い立ったが実行日。作戦会議の終了とともに、艦長の下した大号令。有無を言わせぬ己様権限、絶対者による意思決定。外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その本来の目的である暗黒宇宙での陽動・遊撃、平たく言えば殴り込み。その、第一戦の幕開けである。
「へッ…早速のお礼参りってワケだ!前回みてーにはいかねえからなあ!!」
pai3号機。タツミが凶貌な笑みを浮かべ、尖った犬歯を剥き出しにする。
「…了解。射出のタイミングで指示をお願いします。」
pai2号機。アキノの無感動な眼鏡が光り、画面の白を反射している。
「……………。」
pai4号機。ゴリラは案外器用な手つきで、黙々と機体の調整をしている。
…そして、pai1号機。
「野郎ども!気合い入れて逝くぞ!!」
密閉された操縦席、当たり前のように自分の膝の上で威張っているツバサを、困惑顔でハルカは見ている。その隣には彼女に同じく、困った顔をしためぐりん。ただでさえ狭いpai1号機の座席の上は、明確な定員オーバーによる寿司詰め状態。密である。密集、密閉、密着。絵に描いたような三密である。ハルカは操縦棹を握る右腕の肘に、めぐりんの胸の温かさを感じる。
「あの…。」
いろいろと気になる点があり、ありすぎて言葉にできないハルカ。ただひとつ彼女にわかることは、これから自分がとてつもなく、酷い目に遭わされるということだけである。
「1号機!1号機は間もなく砲撃開始とともに大気圏突入ルートで高速射出されます!衝撃に備えてください!!」
「応~よ。ま、そっちもしっかりやんなよ?シホちん。」
シホから最期の指示が飛ぶ。詳しい説明を求める間もなく、ツバサは勝手に返事をしている。これまでにない悪な予感。ハルカの小さな胸のなか、心の鼓動が大きく波打つ。
〈おい、ハルカちゃん。しっかり円環絞めといてちょ?もし外れたら、フツーにしぬから。〉
画面の中。黒いひよこが小首を傾げた。
「おい。しくじるんじゃねーぞ、腐れ金玉。」
〈あ?誰にクチきいてんだこのロリブルマ。〉
憎々しげに悪態を付き合う、腐れ金玉とロリブルマ。そこにはもう、ハルカの質問が許される空気はない。隣を向けば、座席から半分はみ出して座るめぐりんの顔が、既に諦めに充ちている。
「相対距離802…801…800!敵防衛基地衛星、当艦射程圏内!砲撃開始とともにpai各機戦時展開、発射台起動!pai1号機高速射出!オペレーション・メテオ…開戦!」
司令席の前に立つ、シホが掲げた右手を下ろす。暗黒の宇宙に流れる流星、ビーム砲座の一斉射撃。暴音、暴音と華咲く花火、天宙閃く夏祭り。
一拍光に遅れて響く、夕立の空の雷鳴のように。轟往音。無音の宇宙の空間を震わせ、一際高く号砲が鳴る。
「いっくぜぇぇえええええええええええ!!」
異口同音に叫ぶツバサと、画面の中の黒ひよこ。天宙より、青色の星へ、一筋流れた箒星は。
「にゃあぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「きゃあああああああああああああっあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ハルカとめぐりんの叫びを同時に、尾鰭のように曳きながら。
青の騎士の待ち受ける、サムライの星へと流れていった。




