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第3話 夢花火 (1) サムライの星へ ②


青の惑星地球より、いと遥けき宇宙の彼方、時空と次元の壁を超え、銀河、宇宙、銀河を跨ぎ、距離と時間の概念の更に奥遠く。

無機質な鉄に覆われた機械惑星、アンティノラの地は暗黒に浮かぶ。

その、円筒形の機関が林立する最奥。我らが母星、地球で言うところのカソリック教会の礼拝堂を思わせる建物が建つ。響き渡るパイプ・オルガンめいた音色が屋根のステンドグラスを震わせ、七色の透過光が降り注ぐその下。

サイドトライ・セップス。

ダブルフロント・バイ・セップス。

モストマスキュラー。

筋骨隆々。思い思いのポーズを取った、筋肉モリモリマッチョマンの変態の彫像が並ぶ祭壇。

アンティノラ。その名前の示す通り、此処は地獄の最奥その、一歩手前の地であろうか。

綺羅綺羅綺羅と。キン肉像に降り注ぐ陽光、その中に荘厳と構える玉座。御前に一様に片膝を着き、七騎の騎士が跪いて控える。

「暗黒騎士。ダークネス・黒崎が戻ったか。」

玉座の高みから厳かに、座した人物が言葉を発する。地の低きからはごく僅かに、その銀色の口髭の上下に動く、その様子だけが見てとれる。

「…は。」

赤いマントを纏った大男。美帝国(ビューティ・エンパイア)が七星騎士筆頭、赤騎士デスカインが応える。豪放磊落を旨とするはずの彼の口はばったい、言葉少なな返答からは。それが余程彼にとって、答えづらい内容であることが感じて取れる。

「やれやれですなあ!あれだけ大口を叩いておいて。敵に遅れをとり、おめおめ逃げて帰ってくるとは、はあ、まったく。いったいどの面をさげてこの場に列しておられるものか?非常に興味があるというものよ…フン。」

聞こえよがしに長々と。嫌味を垂れて鼻で嗤うのは紫のマントを羽織った紫勲騎士、オカッパ頭のヒルカ将軍である。サディスティックな笑みを浮かべ、さも嬉しげにネチネチと。片側眼鏡(モノクル)の奥の目を細めている。

美帝国(ビューティ・エンパイア)が騎士の鉄則その3。試合が終わればノーサイド、精一杯頑張ったのだから結果は問わない…、の、ハズだぜ?オッサン騎士どの。」

若干不機嫌に眉毛をひそめ、棘のある声で言い捨てる男。青いマントにいなせな着流し、長槍を携えた七星騎士が第二席、青騎士ヘルダインである。七星騎士の若手のホープ、次期筆頭とも目される彼は、古参騎士のヒルカ将軍とはそもそも折り合いがよろしくはないが。本日この場に至っては、明らかな不快感を隠すことなく彼にぶつける。

「愚か者ッ!それは騎士同士の果たし合いの場合じゃ!!」

張りのある怒声が響く。灰色のマントに身を包む、七星騎士の最古参。灰剛騎士ディスグリードである。老いたりとはいえその頑健な肉体に同じく、声に込もった迫力は健在。青騎士ヘルダインは思わずウヘッと、首を竦めて苦笑いする。

「どぉ~でもいいからよう!?ヤらせろよ、あぁ?ヤっちまえばいいんだろお、ヤっちまえばよお、あ!?」

イライラと足踏みを繰り返していた緑のマントの危険な男。凌緑騎士サラマンダイブが我慢の限界をむかえてしまった。闘うこと、敵を叩き潰す事にしか興味のない彼にとって、じっとしている時間ほど苦痛に感じるものはない。その苛立ちをぶつけるように、ディスグリードに言葉を浴びせる。

「この…貴様は…また…!!」

ギリギリと。歯軋りをする灰剛騎士ディスグリードの額に浮き立つ無数の血管。一触即発の空気を察し、赤騎士デスカインが止めに入るべく構えた刹那。

「ハー!」

一同の中からキテレツな、変な叫びを上げた者がいる。ひまわり色のマントをひっかけ、頭にチョンマゲ、胸にはブラジャー、腰に腰ミノ、おまけにはだしのおかしな男。七星騎士がひまわり色騎士、ピッツアマルゲリータ、変な騎士である。

一同は彼を居ないものとし、とにもかくにもその場は収まる。

「…黒崎。陛下に申し開きする事があるなら申し上げろ。」

赤騎士デスカインが困ったように、その太い眉をへの字に曲げる。前回、彼らの侵略対象である地球人に敗れた暗黒騎士ダークネス・黒崎。おおらかで部下の面倒見のよいデスカインはどうにか彼を不問にしたいが。美帝国(ビューティ・エンパイア)が誇る七星騎士が一角が、敵に敗れたその事は事実。彼らが神と崇める美帝国皇帝の、その信頼を裏切った、紛うことなき重罪である。

筆頭という立場上、黒崎を庇うわけにもいかず、とはいえ責める気にもなれない、そのジレンマが。お人好しな彼を困らせている。

「我が偉大なる皇帝陛下に誓って、何一つ申し開きはございません。ただ…。」

この場に集った七騎士が内、今まで口を開かずに、じっと控えていた人影が、黒いマントを翻す。同じく漆黒の髪の中から、美しく整った笑顔が覗く。

「申し上げますれば。かの闘いはとても良い…そう、とても、良い試合でございました。」

夏の風に鳴る風鈴のように。あくまで爽やかに微笑む七星騎士最後のひとり、暗黒騎士ダークネス・黒崎。その表情に気後れはなく、微塵の悔いも感じられない。

残る六星は呆れる者に嘲笑う者、怒りの視線を向ける者。ラジオ体操第二をしている者などその反応は様々であるが。

彼らの頭上、玉座より見下ろす銀河を美と力で支配する超帝国、美帝国(ビューティー・エンパイア)、その偉大なる皇帝陛下は。その銀の瞳に思慮深い光を滔々と湛え。

「(喋らせろって。)」

静かにひとり、思うのであった。



「…なあ?黒崎。例の地球の連中ってな、その、なんだ?あれか、そんなに強ぇーのか?」

悪の幹部会議が終わり。七星騎士は散り散りに、それぞれが居星へ帰っていくが。機械惑星アンティノラが中枢、皇帝陛下の座城を辞した暗黒騎士ダークネス・黒崎を、後ろから呼び止めた者がいる。七星騎士が第二席、青騎士ヘルダインである。柄になく難しい顔をした彼は、どうにも納得がいかぬといった様子で。同期であり、友人でもあるダークネス・黒崎、その敗北の原因を問う。

「如何に言葉で取り繕ったところで敗北したことは事実。ヒルカ殿の言われる通り、本来ならば厳罰に処されるべきを寛大な処置、デスカイン殿や貴公の尽力には頭が上がらぬ…まずは謝意を伝えたい。」

フ、と微笑むダークネス・黒崎、その言葉とは裏腹に、その表情は晴れやかである。青騎士ヘルダインは珍しいものを見るかのように、不可思議そうにその首を捻る。

「…まあ。お前がそれでいいなら別にいいんだけどよ、俺は。」

言外に。「別にいい」わけではないことを感じさせつつ、青騎士ヘルダインが肩を竦めて溜息を吐く。この、一風変わった古風な友人。時折見せる不可解な言動、それは彼には慣れっこであり、それが彼には不快ではない。

「楽しかった、みたいだな。」

「ああ。素晴らしい試合だった。」

二人の騎士に微笑みが漏れる。七星騎士に任ぜられる、遥か以前からの二人の付き合い。お互いにとって伝えたいことは、この微笑みで伝わってしまう。

「ッシャア!!」

パーン!と気のいい音を立て。青騎士ヘルダインが自らの頬を、彼の抱えた逡巡を、張り飛ばすように自ら叩く。ニッと笑った彼の顔、夏を照らす太陽のような、一辺の曇りもない笑顔。

「面白れェ!七星騎士がダークネス・黒崎を満足させ得るほどの敵…相手にとって不足なし!へ、燃えてきたぜ!!」

(ブン)、と空気を巻き込んで、手に持った槍が唸りをあげる。一見気のいい好青年、七星騎士が第二席。青騎士ヘルダイン、案の外にも好戦的な、彼の戦闘モードのスイッチが入った、いつもの決まりの仕草である。

「貴公…?」

暗黒騎士ダークネス・黒崎が、訝しむように視線を向ける。

「なに。ついさっきだが、俺の守護星の防衛部隊(カブトムシ)がよ、敵を迎え撃ったと報告があってな。ったく、銀河を美と力で支配するこの美帝国(ビューティー・エンパイア)、正面切って喧嘩ァ売るなんざ、余程のアホウにゃ間違いねンだが。へへ、久方ぶりに歯応えのありそうな相手じゃねえか、楽しくなってきやがった!」

青騎士ヘルダインの口角が捲れ、野犬の牙が嬉しげに笑う。最早問いただす迄もない、彼は網にかかった獲物を、自ら迎え撃つ気でいるのだ。

「オッサン連中にはナイショな!」

悪戯っぽく片眼をつぶり、青いマントを翻し。青騎士ヘルダインが天宙へと翔ぶ。彼の姿は渦巻く光、その輝きへと呑み込まれ、アンティノラの空から消える。

やれやれ、とひとり残された、ダークネス・黒崎は静かに笑う。その背後。

紫勲騎士ヒルカ将軍がいかにも面白くないと言いたげに、片眼鏡(モノクル)の端を持ち上げていた。




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