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第3話 夢花火 (1) サムライの星へ ①

三行でわかるあらすじ。


「…もうバカンスは終わらない。」


<(ビューティ・)帝国(エンパイア)の七星騎士、暗黒騎士ダークネス・黒崎だとぅ!?>


「(秋野(そっち)は名字なんだけど。)」


宇宙の旅は続く。



「敵襲です!各機、搭乗者(パイスライダー)、戦闘態勢に移行!迎撃してください!!」

けたたましく響く警報(アラート)の中。外宇宙探査艦プレジデント・オバマの艦長代理、アールグレイ・シホンティの指示が各paiへと飛ぶ。緊急事態の中にあってもシホの声は、凛と澄んで、美しく…。

「…その内側に秘めた溢れんばかりの性的衝動を現すかのように、艶かしさとエロテックな熱を帯びているのであった。」

「変なナレーションを引き継がないでください!!」

緊迫した戦橋(ブリッジ)の雰囲気をぶち壊しにされ、思わず立ち上がりかけたシホの足元。二段重ねの司令席(コントロール・シート)が出し抜けに浮音(ウィーン)とせり上がり、シホは大きくバランスを崩す。その胸元に揺らされたふたつの淡いかたまりが、互いにぶつかりまた離れる。

「艦長ッ!!」

振り返り、斜め後ろを見上げる視線、その先に。偉そうに頬杖をつきふんぞり返って小さな身体を艦長席(キャプテン・シート)に埋めているのはこの(オバマ)の艦長。さっきからの一連の騒動(ドタバタ)の犯人、謎の幼女艦長・ツバサである。出鼻を挫かれ憤懣やるかたないといった様子の艦長代理を、彼女はいかにも楽しげに、ニヤニヤ笑いながら見下ろしている。

「ほらシホちん、前見て前。もう戦闘始まっちゃってるぞよ?」

ぞよ?と首を傾げるツバサ。シホはその美しい顔、眉間に最大限の険を集めながら、その感情を飲み込むように、グイと制帽の庇を引き下げる。

「総員、戦闘配置!2番3番12番、光子ミサイル雷撃開始!各銃座は個別に敵機を迎撃、(オバマ)に敵を近づけさせないでください!!めぐりんさん!担当各所に人員の配置、および迎撃の指示を送ってください!!」

正面(モニター)に向き直ったシホは腹の底に溜め込んだ感情を吐き出すかの如く、次々と早口に艦内各所へ指示を出す。眼下の通信席(オペレーター・シート)ではコンビニ制服姿のめぐりんが、画面(モニター)に送られてきた大量の指示(情報)を処理し、おろおろしながら読み上げ続ける。

「そうそう、いいよーそれ開始!うん、やっちゃってー。」

斜め上からシホの後頭部に浴びせられる呑気な言葉。外宇宙探査艦プレジデント・オバマの艦長代理、美貌のアールグレイ・シホンティのこめかみは、今日もピクピキと痙攣を繰り返していた。


「あーん?ゴキ、クワガタときて今度はなんだ、カブトムシさんかよ。」

ポキパキと。気怠(けだ)るそげにゆっくりと回る首、音のなる間接。長時間のいと退屈な訓練飛行、その単調極まる操縦にすっかり飽きていたpai3号機の操縦者(パイスライダー)、タツミ・ウシトラゥは余裕の体で、凝り固まった肩を揉みほぐしている。

「あれ宇宙人の作ったロボなんだろ?宇宙人の癖になんだってこう、地球の昆虫に詳しいのかねェ?虫とり少年かよ。(アタシ)ァ虫って、あんま好かないんだけど…な!!」

南方出身、健康的に輝く美しい褐色の肌を持つ男勝りなタツミの、意外と言えば意外な独白。語尾の「な」と同時に押し込まれる操棹(ハンドル)、急加速した機体(pai)()が全身にかかり左右に広く潰される胸。タツミは心地よさげに口角を吊り上げ、尖った犬歯を覗かせる。

「シャァッ!訓練飛行なぞよりこっちのがよっぽど訓練になんだろ!ハルカ!アキノ!遅れんじゃねえぞ!!」

外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その機動戦闘部隊であるpai第一小隊を指揮するタツミ・ウシトラゥ。彼女は例によって例の如く、その自分の立場も覚えていないのか、はたまたもとより考える気すらないのか。単身単騎、最高速(フルスロットル)で群がり来る敵。黒い装甲に巨大な尖角をもったカブトムシ型の敵機へ突っ込んでいく。

「おらァ!!」

武雲(ブウン)。音のない宇宙空間に、唸りを上げてpai3号機の巨大な右拳が振り下ろされる。虎縞のpai3号機、そのほぼ唯一にして最大の武器、一撃撲殺の拳が疾走(はし)る。

(ガン)

「…あ?」

明らかにいつもと異なる手応え。当たり前に得られるはずだった「叩き潰す」快感が来ない己が拳を、タツミが呆けた顔で見つめる。

ギチ、ギチ、ギチ。

画面(モニター)の正面、眼前に迫る敵機の表情。巨大な尖角の下の口吻が、歯を食い縛るように蠢いている。

pai3号機(タツミ)の右拳と、敵機の尖角。暗黒の宇宙の空にぶつかる、力と力の押しくら饅頭。タツミが絶対の自信もとに振り下ろした拳は、この度の敵機(カブトムシ)のもつ厚い装甲、及び、最大の特徴であるその一本角に、必殺の一撃を阻まれていた。

「…ッ!こ…の…!?」

今までの戦闘ではほぼ無抵抗が如く、潰され砕かれてきた敵機からの反撃。タツミの一撃を「止め」、尚且つ互角に「押し合う」ことの出来る敵が現れたのは、タツミがこのpai(3号機)で戦いはじめて初の事である。それ故に、誰より戦い慣れているはずのタツミに、一瞬の判断の遅れが生じ、無機質な敵はその隙を見逃さなかった。

「うお!?」

カブトムシ型の敵機が暴れるようにその頭を振り、巨大な尖角が横凪ぎに3号機(タツミ)を殴る。不意を突かれた3号機(タツミ)は虚空の端へ押し遣られ、敵機に進路を譲ってしまう。

「げ!?やべ、(わり)ぃ!ハルカ、アキノ、抜けられちった、抑えてくれ!!」

珍しくタツミの顔に動揺が走る。彼女の独壇場であった「力比べ」で押し負けた衝撃(ショック)は、少なからず彼女の精神状態(メンタル)に影響を与えているようだ。

「ハッハー!タンクトップちゃん、高いよ?」

俄君(ガクン)。キテレツな方向へ急加速する1号機、身体に突然のし掛かる()にハルカは大きくバランスを崩す。

「ちょ…勝手に振り回さないでよ!ひよこさん!?」

操縦を奪われたハルカは抗議の声を画面(モニター)に向けるが、黒いひよこは例によって聴く耳を持たず、既に自分の世界に入っている。

「ハッハーいくぜ兜虫!俺様必殺・超、流星斬!!」

純白のpai1号機が大きく振り上げたモップを乱雑に振り下ろす。どのあたりがどう流星斬なのかわからない一撃、3号機(タツミ)の『一撃撲殺』すら通じぬ強固な装甲をもつ敵相手に、必殺となろうはずもなく。(コン)。非常に軽い音を立て、もののみごとに、小野妹子に跳ね返される。

「ぬお!?」

「きゃあ!?」

1号機の操縦席に走る衝撃。『超、流星斬』が跳ね返され、反動で大きくバランスを崩したその隙、見逃さず、敵機が体当たりを仕掛けてきたのだ。昆虫の王、カブトムシを模したかに見える敵機体、その外見に偽りなく、頑強な装甲に加えた圧倒的なパワー。対する1号機のか細い手足、見るからに華奢な機体(pai)に為す術はなく、「あーれー」と間抜けな叫びをあげつつ慣性のままに吹っ飛んでしまう。

「1号機!く…!!」

暗黒の宇宙なお(くら)く、聳える巨山、プレジデント・オバマその船体に向け、殺到していくカブトムシの一群。先発(フォワード)の3号機、中継(セカンド)ぎの1号機が抜かれ、残された(バックス)えの2号機は、重機関銃(ヘビィマシンガン)の砲身を奮わせ応戦するも多勢に無勢。抵抗むなしく次々と、敵機は2号機(アキノ)の脇をすり抜けていく。

「第一小隊…防衛ライン、抜かれまし…あ!!」

哦贋(ガガン)。オバマの船体を揺らす鈍い衝撃。通信手(オペレーター)座席(シート)が揺れる、通信手(めぐりん)のたわわな胸元が揺れる。pai3機の防衛ラインを越えた敵機が、艦体に直接攻撃を仕掛けてきたのだ。機銃掃射をものともしない、装甲の厚さに任せのただ単純な体当たり、それゆえに。巨体のオバマには防ぎようがない物理的打撃である。

「近接戦闘!各砲座、照準をショートレンジへ切り替え!pai4号機も出撃のスタンバイを!めぐりんさん、指示を送ります!各所に伝達してください!!」

オバマの戦橋(ブリッジ)に次々と、シホの早口言葉が飛び交う。通信席(オペレーターシート)のめぐりんの前の、画面(モニター)がアッと言う間に横文字で埋まる。専用の脳改造を受け、(オバマ)の状況を常に端々まで、それこそ自分の身体のように把握出来ているシホにはなんてことない分量であったが。この前までコンビニでレジを打つ以外の社会経験のなかっためぐりんに、シホと同じ感覚で情報を処理しろというのはいささか無茶振りが過ぎるというもの。めぐりんは軽くパニックを起こし、画面(モニター)の前でおろおろと、その豊かな胸を揺すっている。

「?何を…やって…ッ!?」

餓魂(ガゴン)餓魂(ガゴン)餓魂(ガゴン)

(オバマ)に激しい振動、衝撃。迎撃が間に合わないオバマを、敵機が続々とその射程に捉える。額に備えた衝角を構え、機体(からだ)ごと(オバマ)にぶつかる甲虫の群れ。戦橋(ブリッジ)のシホやめぐりんを、足元が覚束ないほどの揺れが襲う。この危急の事態にNo.3(シホ)が懸命に対処するなか、ツバサとイソジニール少佐、この(オバマ)責任者(トップ)二人は。野卑た笑みを口元に浮かべ、「(揺れてるねえ。)」、「(揺れてますなあ。)」、同じ感想を胸中に抱き、この状況をあくまでも視覚的にのみ捉えて楽しんでいる。

「………ッツ!!!」

美貌のシホの表情が歪み、奥歯がギリと音を立てる。この艦長代理が敵意と嫌悪を露わにするのは毎回毎回襲ってくる外敵ではなく、属する(オバマ)の同乗者。主に上司二人に対してであるのは気のせいだろうか?

荒々しい仕草で座席(シート)の後ろから一本の円環(ベルト)を引き出すシホ。襷掛けられた円環(ベルト)が盛られた胸を二ツに()ける。

<PAISRIDE.>

シホの声から抑揚がなくなり、顔から表情が消え失せる。オバマの艦中奥深く、ヒミツの第2☆格納庫、その中に眠る灰色のpai5号機が機動、艦のシステムを掌握したのだ。

<IN THE RUSH‐HOUR,MY LOVER IS PRETTY SCHOOL GIRL WITH ACNES…ONEDAY,I TOCH HERS SMALL HIP,GET A SCREAM CHI‐CAMB!FANISH!>

「ひ!?」

戦橋(ブリッジ)内で唯一、常識的な判断と冷静さを保っていたシホの突然の変貌。『この状態』のシホを初めて目の当たりにしためぐりんは思わず正直な悲鳴を漏らし、理解が追い付かないまま愕然と超高速で意味不明な英文のスクロールしていく目の前の画面(モニター)を眺めている。そうしている間にも且嘸(ガツン)且嘸(ガツン)と船体に響く、命の危険の迫る足音。斜め上からブツブツと、呪詛とも罵声ともつかない英語。挙句にこの期に及んでまだなお、セクハラ視線を突き刺す上司。日頃から「やりたくないこと」に追われ、常に人生ニ対する軽いあきらめを抱いて生きてきためぐりんにあっても、あまりといえばあんまりが過ぎる状況である。彼女がそのさりげなく豊かな胸を揺する以外に何一つ対処できないといっても、それを責めるのは余りに酷というものだろう。

<MY LITTLE SWEET LOVER HAS GONE,BYE-bye-BYE,and,MUSUT TO CHANGE TRAIN,CRY-cry-CRY!>

轟運(ゴゥン)。シホの意味不明な叫びとともに、巨大なオバマの艦体(からだ)が震える。

「お、対・近接防御。射程(エリア)内の味方機は待避~、待避~。」

斜め頭上の艦長席(キャプテン・シート)、いかにも楽しげなツバサの声。ニヤニヤと笑うその顔からは、とても「射程(エリア)内の味方機」の安全を確保しようという意思は見えない。

<fever!>

黒のオバマを中心に、暗黒の宇宙が眩く輝く。外宇宙探査艦プレジデント・オバマの奥の手のひとつ。最大出力で繰り出される高密度バリアフィールド、通称『オバマ・ケアー』である。

本来は『特装砲(チェストバスターカノン)』に使用される予備エネルギーのすべてをバリアーに置換して放出する一撃、オバマの半径1312フィート周囲はプラズマ奔流の地獄と化す。美しくも凄惨な明けの明星、金星(ヴィナス)の美貌と機械の冷徹を併せ持つ、操者(シホ)を体現するような必殺技だ。オバマに群がる敵機(カブトムシ)たちは為す術もなく女神の雷にその身を焼かれ、哀れ宇宙の塵と散る。

「ヒュゥ♪さすがシホちん、お見事ちんちん。」

カラカラカラとツバサが笑う、その眼下。ふうふうふうと、獣の吐息をあげるシホ。pai5号機のシステムを通じオバマの管制システムと繋がる彼女は、その副作用として、オバマの艦体のダメージを彼女自身の体感にフィードバックされてしまう。今のようにオバマを短時間に最大稼働(フルドライブ)させた場合、それは短距離走の速度でフルマラソンを走りきるようなもの。早い話、「すごく疲れる」のである。

荒い息を吐きながら、それだけで人を殺せそうな眼で睨め上げるシホ。その隣ではイソジニール少佐が、「おや、1号機と3号機の反応がありませんなあ。」はっはっは、と笑いながら、のんきな顔で画面(モニター)を見ている。

『オバマケアー』炸裂の瞬間、「にぎゃー!!」「にゃー!!」という二人の悲鳴を耳元で聴いた通信席(オペレーターシート)のめぐりんは。焦点の合っていない虚ろな瞳で、ただただ乾いた危険な笑いを、はは、はは、と漏らしていた。

























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