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天宙の美少女!興響機◎π/s'RIDER   作者: ナルサワパン
第2話 暮しゅうしています。
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第2話 暮しゅうしています。 (3) オバマの天宙塾 ③

外宇宙探査艦プレジデント・オバマ。その、いつでも忙しいはずの第1格納庫。午前中で物資の搬入作業が終わったのか。珍しくシャッターが降り、ひっそり閑と薄暗い庫内を二人の制服女子高生が歩く。ハルカとアキノ、二人はこの(オバマ)乗組員(クルー)であり、格納庫に立ち並ぶ卵型の機体(ロボット)、paiの搭乗者(パイスライダー)であるのだが。武骨な鉄骨が構成する灰色の景色の中にはやはり不釣り合いで、そこに居ること自体が場違いな印象を与えている。

「(え…勝手に入っちゃっていいのかな…?)」

不安げに辺りを見回し、いかにも挙動不審なハルカ。対し、当たり前のように奥へと向かっていくアキノ。二人の美少女の様子は例によってまるで正反対である。

歩調の速いアキノ、遅れてためらいがちに進むハルカ。二人はやがて純白のpai、ハルカの1号機の前に立ち止まる。

無造作に鉄梯子(ラダー)を登り始めるアキノ。慌てて追いかけるハルカの視界にアキノのスカートの中、純白のパンツがいっぱいに映り、余計にハルカを慌てさせるが。アキノはそんなハルカには目もくれず、さっさと先へ進んでしまう。

「立ち上げて。」

1号機の操縦席(コックピット)に座ったハルカをアキノが促す。操縦席(コックピット)の中は華奢な体格の美少女とはいえ二人が入るには多分に狭く、ハルカの顔のすぐ横にはアキノの柔らかそうな胸の膨らみが頬に触れんばかりに迫っており。意味もなくハルカは先ほどからどぎまぎとしている。

「…パイスライドぉ…。」

いまいち気乗りのしない状況ながら、この場はアキノに従う他になさそうなので。仕方なくハルカは座席(シート)の後ろから引っ張り出した円環(ベルト)を胸に襷掛ける。テンションの低いハルカに反し、画面の円グラフのゲージは勢い良く100%の真円(パイ)となり、完成した真円(パイ)を/(スラッシュ)が切り裂く。


<SYSTEM ALL GREEN.>


<"π/s'RIDER" No.1 ACCEPTED.>


画面(モニター)の文字が消えるが早いか。

〈イヤッホウィハルカちゃん!どしたのどしたのどうしちゃったの?待ちきれなくて俺様に、会いに来てくれちゃってくれちゃってくれちゃった系!?〉

呑気に騒ぐ黒ひよこ。ハルカはウンザリと顔を歪める。

〈あれ?そこにおわすはまさかまさか、2号機の眼鏡ボインちゃん!なにこれ天国!?ひょっとして俺様間違えて天国来ちゃってない!?俺様の時代来ちゃってない!?〉

ハルカの隣に寄り添うアキノに気づいた黒ひよこは恥も外聞もなく騒ぎ続ける。

「…液晶割るよ?」

ハルカは4発のハルカパンチの打撃痕の残る既にヒビだらけの画面を恨めしげに見つめる。

「…あなた、『九九』はわかる?」

騒々しく騒ぎ続ける黒ひよこを完全に無視し、アキノはハルカの顔を覗き込むように尋ねる。

「…ッ!馬鹿にしないでよ!!」

馬鹿のような黒いひよことのいつものやりとりを間近で見られ、恥ずかしさと惨めさが入り交じったハルカは遂に、先ほどからのイライラを爆発させて叫ぶ。

「ににんが四!にさんが六!にしが八!」

自棄になって二の段を怒鳴り散らすハルカ。その意味不明な迫力にはさしもの黒ひよこもその嘴を挟めずにいる。

「九九八十八!!」

くわと目を見開いたハルカの九九は微妙に間違っているのだが。アキノの目的は正確な九九を唱えさせる事にはないのか、さらりとそこは流してしまう。

「あなたは『九九(それ)』をどうやって覚えたか…記憶にある?」

「え…?」と答えるに戸惑うハルカ。その目を覗き込むアキノの眼差しは飽くまで真剣であり、ハルカは身体の中で心臓の鼓動が高まるのを感じる。

「小学生は。算数の授業で初めて『かけ算』を習うとき、例えばミカンが3つ、それが2組。だから3×2=6(さんにがろく)で、答えは6個。そういう風に、『かけ算』の仕組みを一応は教わる。でも。そのあとの授業でやることは、子供たちに『かけ算』の仕組みを理解させることじゃない。覚え易いリズムと語呂合わせで、ににんが四、にさんが六。『かけ算』の結果だけを覚えさせることと、それを使って『かけ算』の答えを出すこと。それを身体に条件反射、感覚の域まで刷り込ませる。その繰り返しを何より重視している。大人になって、私たちが『かけ算』の仕組みを十二分に理解出来るようになっても、結局やっていることは同じ。ミカンが3つ、それが2組…とは考えず、にさんが六、だから6個。仕組み、原理の段階(ぶぶん)は跳ばして、反射的に出てくる暗記(おぼ)えた『かけ算』の結果、九九を用いて答えを出してる。私たちは皆、そう訓練されてきたから当たり前に『かけ算』が使えている…わかるかしら。」

唐突に始まったアキノの教育理論。ハルカの顔には「わからないわ。」と書いてあり、画面の中では黒いひよこが「うむ、つまり、おっぱいだな!!」と頷いている。端から理解させる気はないのか、アキノは構わず話を進める。

「私たちが常日頃、当たり前のように使っているもの…。九九もそうだし、五十音、アルファベット、因数分解の公式やフレミング左手の法則…。それらを使いこなすには、結局のところ何故それがそうなっているのか?という理論の部分はさほど重要ではない。それを使って導かれる結果がどうなるのか?それをひたすら暗記するのと、暗記した『それ』を用いて『かけ算』に答えを出す訓練。今のあなたがするべきなのはその部分だわ。」

アキノの語り口は徐々に早口になり、僅かながら熱を帯びてきている。怪しげに爛々と輝くアキノの眼鏡。ハルカは初めて見る饒舌なアキノに完全に気圧され、なすがままに首をガクガク縦に振るだけの人形(オモチャ)と化している。

〈ま!つまり眼鏡ボインちゃんの言いたいのは、『並ぶならヤメロ!!』って例の指針(ヤツ)だべ?〉

ハッハッハッハッハと。画面の中のひよこが嗤う。彼は案外にもハルカよりは頭が良いのか、今のアキノの教育理論(はなし)をことのほか正確に理解出来ているようだ。

「…そうね。あなたも協力してもらえるかしら。」

冷たいアキノの視線が黒ひよこを突き刺し、黒いひよこは「?」と首を傾げる。

「あなたは今、『何故そうなるのか?』、その理屈の部分が理解出来ず、立ち止まっている。前に進みたいなら理論(そこ)は一端捨てなさい。十字を書いて、上が北、右が東、だから北がN、東がE、だから上がN、右がE。いちいちそんな事を考えていたら、とてもじゃないけどイザという時に判断が間に合わない。理屈はいいの、暗記(おぼえ)なさい。あなた、何が得意?何なら覚えられる?」

ぐいぐいと迫ってくるアキノの唇からずいずいと後ろに逃れつつ、ハルカは遠い記憶を手繰る。自分がかつて誉められたもの。自分がかつて得意だったもの。幼稚園の先生。お母さん。幼き頃の自分の声が、ハルカの頭を巡っている。

「どうぶつ…!!」

ボンワリとした意識の中。呟くようにハルカは応えた。

「動物!!私、子供の頃…動物の名前覚えるの得意だって。お母さんにも、幼稚園の先生にも誉められたよ!!」

弾かれたように顔を上げ、ハルカは明るい声を上げる。その開いた唇が、チッとアキノの唇を掠める。

「わかった。動物…ね。」

おもむろにアキノは手を伸ばし、画面(モニター)の前のキーボードをカタカタと叩き始める。ヘラヘラヘラと笑って見ていた黒いひよこの表情が次第に青ざめ、明らかに慌てた様子を見せる。

〈なっ…テメーこらこのクソ眼鏡ボイン女何してんだ!!それはこの俺様の思考系(プログラム)…あの変態タコにだって触らせた事のない、レベル5の機密情報(ブラックボックス)ってやつだぞ!ヤメロ!!〉

取り乱す黒いひよこ、鳥だけに。そんな黒ひよこの意見には一切聴く耳を持たず、アキノは無表情にカタカタとキーボードを叩き、次々と封印(ブロック)を解除。データベースの奥の奥まで小画面(ウインドウ)を開き、「美少女パンチラコレクション!」だの「ノーカトッ世界のポルノ」だののフォルダを眉も動かさずに削除していく。

「だ、ダメぇ!!そんなトコ、タコ先生にも見せたこと無いのに…嫌!駄目!見ちゃ駄目ェーッ!!」

必死に馬鹿な絶叫を上げ続ける黒いひよこ。ハルカはドキドキしながら二人の無駄に背徳感溢れるやりとりを見守りつつ、心の底ではなんとなく「THE ざまあ」と思っている。

「北。北にいる動物は?」

アキノが静かにハルカに尋ねる。

「北…くじら!!」

思い付くまま。アキノの問いにハルカは応える。

良好(シャオ)。それでいい。真っ先に思い浮かんだ、絶対忘れないものを言って。もう、変えられないから。」

キーボードを叩くアキノの指が加速し。黒いひよこが悲鳴を上げる。

〈ヤメッ!やめてお願い!!それだけはヤメ…ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!〉

彼にとっては余程の苦痛に感じられるのであろうか。思考系(プログラム)を改竄された黒いひよこは画面(モニター)の中に見事にひっくり返り、ブクブクと泡を噴いている。

「次。南。南にいる動物は?」

非情にアキノの質問は続く。ハッと目を覚ました黒いひよこはガバと跳ね起き、全力を以てアキノに抗議の意思を訴えかける。

〈ヤメロ!!お前には『人間らしい心』ってモンがねーのか!!ヤメロー!!〉

「ぺんぎん!!」

了解(シャケ)。ペンギン、と。」

アキノの指がカタカタとキーボードを打ち、ターン!とエンターキーでとどめを刺す。

「ウ ボ ア ー ッ !!」

意味不明の叫びを上げ、ピクピクと痙攣するひよこ。

〈…もう許して…堪忍してつかぁさい…。脳が溶ける…溶けちゃうのぉ…。〉

息も絶え絶えに中止を訴えるが。

「東。」

「とら!!」

〈アッ――――――――――――!!!!〉

一度勢いのついてしまった美少女二人、もはや止める者なし。

〈脳が…のーがはちきれそーだぜぇ…。〉

哀れ黒いひよこは今までの愚行の報いを受けるが如く、耐えがたき苦痛にガクガクと身を震わせる。その姿、例うるなれば残りHP1の様相。

そしてタイム・ハズ・カム。黒いひよこに最期の審判が下される時が来た。

「西。」

飽くまで冷静さを崩さずにアキノは問う。

「…おおかみ。」

心なしか。薄暗い操縦席(コックピット)画面(モニター)の灯り。その下で見たハルカの表情(かお)は。

意識を喪う寸前の最期の瞬間、黒いひよこには実に嬉しそうに、醜く歪んで見えたのだった。




慌ただしい一時は過ぎ。

再び静寂の訪れた外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その第一格納庫。立ち並ぶ卵型の機体(ロボット)が一機、純白のpai1号機から、キーボードの音だけがカタカタと響く。

(ボウ)と白い画面(モニター)の灯りに照らされた、白いアキノの横顔がふぅとため息を吐く。

「…終わったわ。」

アキノはハルカの顔を振り向く。狭い操縦席(コックピット)の中、二人の唇が再びチッと掠れる。

「これで…?」

どうなるの?ハルカの顔は不安が半分、期待が半分といった表情。アキノはそれには答える事なく、凛とした声を響かせる。

「くじら。」

一瞬。アキノの意図を図りかねたハルカはキョトンとした顔を見せるが。ハッと何かに気付き、両脇の操縦棹(レバー)をグイと上へ引き上げる。

「そう…最初は四方位だけで慣らすわ。言葉と、動作を関連付けて。完全に身体に教え込むの。ペンギン。」

ハルカは短く頷くと、今度は操縦棹(レバー)を下へ押し込む。

「とら。おおかみ。ペンギン。とら。」

リズム良く、規則正しいアキノの声に。ハルカは応え、上へ下へ、左へ右へと操縦棹(レバー)を動かす。

良好(シャオ)。出来るじゃない。慣れてきたなら次は八方位、組み合わせでいくわ。くじらおおかみ。」

くじらおおかみ(左へ斜め45°上方)。ハルカは迷う事なく操縦棹(レバー)を押し込む。

「(解る…出来る!本当に私にも、どう動けばいいのかちゃんと解る!ちゃんと出来る!!)」

「委員長!!」

ハルカはパッと顔を輝かせ、脇に寄り添う盟友(アキノ)を見上げる。

「…まだまだ。あなたが今やってるのは初歩の初歩。それを今度は180°刻み、さらに動く方向まで指定されてくるんだから。ちゃんと着いて来られるでしょうね?」

薄暗い操縦席(コックピット)(ボウ)と白い画面(モニター)の灯り。アキノの表情(かお)座席(シート)に座るハルカからはっきりとは見えないが。

僅かに見えるその口元は、とても嬉しそうだとハルカは思った。


外宇宙探査艦プレジデント・オバマ。静寂の第一格納庫に女子高生二人の特訓は続く。二人の邪魔をする黒いひよこは今は静かにノビている。

「(またしてもpaiの無断使用…さらにプログラムの勝手な改竄…これはまた。この私の重大な監督不行き届きとして、『艦長』に怒られてしまいますなあ?)」

格納庫の片隅。二人の乗る純白のpai1号機を目を細めて見上げつつ。

「…もぅっ!」と膨れる美貌の「艦長(シホ)」を思い浮かべるイソジニール少佐の表情もまた、何故か嬉しそうに見えるのであった。






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