第2話 暮しゅうしています。 (1) ファースト・ステップ ③
「当艦の置かれてる現状は、だ。」
長い沈黙を破り。背を向けたままのツバサが口を開く。
「はっきり言って準備不足。人員、弾薬、経験。ぶっちゃけどれも足りねえ。知っての通りオバマは『π』動力艦。燃料切れの心配だけはねーんだが。かといって。このまま敵地に突っ込んで、ドンぱちやるにゃぁチと心許ない、とりあえずの補給は必須となる。」
ペン太くんがポッチとボタンを押し。映し出される航宙図を、ツバサが指揮棒でピシッと叩く。
「不幸中の幸い。この先にペン太くんたちの故郷、地球の友好惑星であるペンタゴン星がある。そこで当面の食糧、弾薬、生活物資その他もろもろ、そして追加人員の補充を行う。」
「追加人員?」
ツバサの言葉に。目ざとく反応するのは眼鏡のアキノ。彼女は巨乳である。
「出発に際してだな。地球に半分くらい、ペンギン置いてきちまったんだよ。避難誘導してた連中な。あいつら、1人が何か始めると全部それにくっついていっちまうから…。機関部が人員不足でヤベーんだわ、な、ペン太くん。」
ザッハッハッハッハッハ。アメリカ人のように肩を竦めて笑うツバサ。ペン太くんも同じポーズで肩を竦める。
ス、と教授・リーがその手を挙げた。開いた白衣の袖から3本の触手がふよふよふよとゆれている。
「はい。教授・リーくん。あと、教授・リーくん。あと、教授・リーくん。発言どうぞ。」
ツバサは触手の数に従い、3人分の発言を許可する。
「技術開発部、及び、整備班にも人員の補充を許可願います。現状、ペン太くん班の機関部の人員をお借りして作業に当たっていますが。paiが基本的にメンテナンス・フリーの機体とはいえ、本格的な戦闘ともなれば整備・点検は欠かせなくなります。」
全裸に白衣というクレイジーな外見ながら。このタコの発言は理路整然として無駄がない。おまけに美声である。
「ペンタゴン星に寄港るのであれば。僕の故郷のオクタゴン星にも寄って頂き、同星の技術者を数名、補充して頂ければ、と思います。同じオクタゴン星人であれば技術レベルの共有も容易ですし、各paiの整備担当に、主任として、出来れば1名ずつ。その。なんというか、僕はあまり、1号機に好かれてないようですので…。」
タコの教授・リーは言いづらそうに、チラ、チラ、とハルカを見る。ハルカは微妙な申し訳なさとやるせない気持ちで、んー、とこめかみを押さえている。
「却下だ。タコ助。」
ツバサがキッパリと、タコの主張を切り捨てた。美声で穴のない理論を展開したはずの教授・リーは、納得いかないと言った表情で憮然としている。
「整備担当の主任ってのはな。昔から、人生経験豊富でちょっと酒飲みなのがタマにキズの、渋い太っちょのオッサンと宇宙の掟で決まってんだ。いいか?このオバマに現時点で足りない人員。それはだなぁ…。」
ツバサがペン太くんを促す。ポッチと画面を切り替えるペン太くん。
「ひとぉーつ!気弱でかわいい引っ込み思案の隠れ巨乳、花も恥じらう美少女オペレーター!ふたぁーつ!ナンパで気さくなキザ野郎のイケメン操舵士!オレは女の子の夜の操舵もお得意だぜ?みたいなタイプ!みぃーっつ!筋肉モリモリゴリマッチョな兄貴分タイプの角刈り!熱血でちょっと頑固な砲撃手!よぉーっつ!渋いオッサンの整備班長!江戸っ子職人気質!コイツらだ!!」
ツバサがバァンと叩く画面には、その人物像通りに描かれたイメージ映像による4人の顔写真。「WANTED」「DEAD or ALIVE」の文字に挟まれた4人がアップで映し出されている。ポカーンと眺めるタツミにハルカ。既に真面目に聴く気のないアキノ。イソジニール少佐は何が見えるのか、何故かさっきから頭上をチラチラ覗いている。
「テメーらは次のペンタゴン星で、コイツらを草の根分けてでも見つけてこい!!それが本艦、外宇宙探査艦プレジデント・オバマの、宇宙における第一任務だ!!」
右手を大きく広げ指令を下すツバサ。対し、タコの教授・リーが不服そうに異論を唱える。
「お言葉ですが艦長。艦長のおっしゃる一般的な人員は、この艦には不要な筈です。本艦は今回の計画にあたり、試験的ではありますが、その管制をpaiの操縦系で制御出来るようになっております。さすがに戦艦一隻を、人型機動兵器と同じ感覚で動かすには処理しなくてはならない情報に格段の差があり、操縦者自体に特殊な脳改造、及び訓練が必要ですが…その為の5号機及び人員は既に、必要な処理を施されて艦内に配備…?」
言いかけてタコは、「ん?」と何か、思い出せない何かを思い浮かべ、きょろきょろと一同の顔を見回す。それを受け、ツバサ、タツミ、ハルカ、アキノ。皆も同様に頭上に「ん?」と疑問符を浮かべ、お互いの顔を見合わせる。
「『理論的には』、な!イカにも技術屋のテメーが言いそうな理屈だぜ、タコ!」
ケッ、と吐き捨てるようにツバサが言う。
「ソイツはな、最大稼働での話だろ。いくら脳味噌の中身弄くられてるソレ専用の改造人間だっつってもなあ。常時フルパワーのオバマと同調、接続してる状態でいるワケにゃイカンのよ。ンな事したらさすがのシホちんだって、あっという間に過労でブッ倒れ…?」
言いかけてツバサも、先ほどのタコと同様。「ん?」と何か、思い出せない大切な何かを思い浮かべ、きょろきょろと一同の顔を見回す。オバマの戦橋に集まった一同、皆同様に。実はずっと気になっていたある一点について、「ん?」とここでようやく思い出し、お互いに顔を見合わせている。
ドサリと何かの落ちる音。皆の頭に浮かんだ疑問、「そういやシホはどこ行った?」、その答えは皆の頭上。指揮官席から降ってきた。
5号機の搭乗者。プレジデント・オバマの制御系と同調できる、特殊な脳改造と訓練を積んだ改造人間。
アールグレイ・シホンティは全力でオバマを飛ばし続けること数時間、遂に過労でブッ倒れたのであった。
「…ごめん、シホちん。忘れてた。もう通常航宙に戻していーよ?」
『全速前進』をシホに命じた張本人。ツバサの言葉をシホは、薄れゆく意識の向こうに聴いた。
翌朝。
ペンタゴン星の第一都市、オハコンバンシティの駅前大広場。
肌もあらわな布面積のやたらと少ないチアガール衣装に身を包み、タツミ、ハルカ、アキノ。3人の美少女は広場を埋める鳥人たちの前に立っている。
「ペンギンしかいねえ…。」
ひきつった笑みを浮かべるタツミ。その脇には、明らかに手書きの歪んだ文字で、「暮しゅうしています。」と書かれた大量の広告を抱えて。
天宙の美少女たちの第一歩は、混迷の中に踏み出された。それはあたかも。彼女たちの征くこれからの道程の困難さを、指し示しているかのようであった。




