第1話 出立の日 (1) 盆と正月 ①
3行でわかるあらすじ。
「えっと…。明治…、100年?」
「一体誰が動かしているんですか!?応答してください!!」
「ソイツは一応。国際太陽系外宇宙開発機構の最高機密ってヤツなんだがな…?」
外宇宙探査艦、プレジデント・オバマの最深部。幹部待遇者機密エリアの、さらに最奥にある「執務室」。
「己様在室中!ノックして帰れ!」と見た者が対処に困るプレートのかけられた重いドアに閉ざされた室内、金髪碧眼の美しい女性が神妙な面持ちで立っている。
「件の2名、配備の手続きが完了しました。本日付けで当艦の所属となります。」
金髪の美女は必要以上に頑丈そうな巨大なデスクを挟み、これまた巨大な執務椅子に座した人物へと語りかける。その姿はこちらへ向けた背もたれに埋もれ、伺うことが出来ない。
「オゥ。ご苦労ちん。」
美女の丁寧な口調とは対象的に、いかにも軽薄な声色の答えが返される。その様はまるで、巨大な椅子が喋っているかのようである。
「…本当に、これでよかったのでしょうか…?」
躊躇いがちに。金髪の美女が、疑問を投げる。
「己様権限。」
椅子がキッパリと言い切る。
「もともと採用試験なんざ、カタチだけのモンだべ?イチバン手間のかかる搭乗者の選別が、一気に2人も済んじまったんだから。むしろ結果オーライってところだろ。」
ハハン、と椅子が嗤ってみせる。背もたれに隠れて見えないが、間違いなくアメリカンジェスチャーで肩をすくめていると思われる。
「こーいうの。日本のコトワザで、『盆と正月がイッペンにやって来た』って言うんだぜ。」
「言いません!!」
テキトーな蘊蓄を披露する椅子に、金髪の美女は間髪入れずにツッコむ。
「チッ。これだからドイツ人はよ?頭が固いんだ。」
椅子が舌打ちを返す。
「イギリス人です!!」
さらにツッコミが重なる。
「カテーカテー。シホちんはカテーよ。もっとホンワカいこうじゃないの、ね、シホちん?」
ザッハッハッハッハ。椅子が豪快に笑い飛ばす。
「(そっちは姓なんですけど…。)」
「もうっ!」と眉をしかめながら。金髪の美女、アールグレイ・シホンティは、制帽の庇をグッと引き下ろした。
外宇宙探査艦、プレジデント・オバマのタラップを登り。
艦内通路を進んで最初の突き当たり。
「国際太陽系外宇宙探査機構」とロゴマークの掲げられているよく磨かれた白い壁の前に、銀髪の初老の紳士と、黒髪眼鏡の制服美少女。微妙に犯罪チックな取り合わせの二人が並んでいる。
行く先にその姿を認めたハルカは、「あ!」と小さく声を立て、小走りに駆け寄った。
「おはようございます、ハルカさん。走らなくても大丈夫ですよ、遅刻じゃありませんから。」
初老の紳士はニコニコと笑いながら、懐の銀時計をじゃら、と取り出す。
「…もっとも。私とアキノさんはここで15分ほど待ちましたが。」
時刻は8時29分43秒。確かに集合時刻の8時半には遅刻していないが、ニコニコと時計の針を見つめる紳士の眼は笑っていない。
効果的な言葉の牽制をもらい、この「見学会のおじさん」に対して笑ったものか、謝ったものか。戸惑っているハルカを尻目に、初老の紳士は「では、いきましょうか。」さっさと話を進めてしまう。
「まずは艦内を案内がてら、搭乗員との顔合わせをしていこうかと思います。だいたいのことは既にご存知かと思いますが。先日の見学会では、お二人とも途中でいなくなってしまいましたので。」
チクリチクリと針を刺してくる初老の紳士。ハルカは「(ひょっとしてこの人、私のこと嫌い!?)」と、今さらながらに気がつくのだった。
先頭に銀髪の紳士。次いで黒髪の眼鏡美少女。姿勢がよく歩調の速い二人に小走りのハルカが続く。背筋を真っ直ぐに伸ばし自信満々、誰にも悪びれることなく豊かな胸を揺らし歩いているその背中を追いかけながら、ハルカはそれでも少々の安堵を感じていた。
高校2年の夏休み。突然決まってしまった国際太陽系外宇宙探査機構への就職。今日から始まるまったく新しい生活に不安を抱いていたハルカにとって、見慣れた同じ制服を着た同級生の姿はこの上なく頼もしく思える。
なんとはなしにじぃっ、とその背中を凝視していたハルカは、急に立ち止まって振り返った眼鏡の美少女にそのままぶつかってしまう。
「…何か?」
怪訝な表情で尋ねる眼鏡の美少女。慌てたハルカは「あ、いや…。」と口ごもり、作り笑いでその場を取り繕う。
「…委員長も、やっぱり来たんだ?」
気まずさを誤魔化すように話しかけるハルカ。
「あなたと状況は同じよ。」
眼鏡の返答は素っ気ない。
「あ!制服…!やっぱり、学校の制服で来て良かったんだ?私、わかんなくて。電話してきいちゃったんだ、スーツとかの方がいいんですか?、って。そしたらなんか電話に出た人が、『学校の制服でいいですよ?ゼヒそのまま来て下さい。ていうか。他の服で来やがったらコロス。』とか言うからさ、制服着てきたんだけど。不安、そう、不安だったんだよね、あはは…。」
どうにもよろしくない雰囲気を感じたハルカは、無理に話題を変えなんとか友好的な空気を作ろうと試みる。
「それで、委員長は…。」
言いかけたハルカを遮り。
「…早くついていかないと。またあの人に、嫌味いわれる。」
不機嫌に話題を打ち切った眼鏡はハルカに背中を向けてしまう。
「(なんだか、なあ…。)」
早速受けた社会の冷たい洗礼に、しょんぼりするハルカ。そのうなだれた頭上に。
「…アキノ、でいい。」
眼鏡の美少女。秋野美月の凛とした声が斜め上から降りそそいだ。
「…えー、お話は済みましたか?ちなみに私はオホーツク国軍少佐で当機構の監査役のイソジニール=ゴジューカタ・ヤマガタという名前の偉い人ですが。機構は軍隊ではありませんし、親しみを込めて『イソジニールさん』と呼んで頂いても構いません。」
早速隊列を外れ、マイペースに行動を始めている美少女二人。その会話が聴こえていたのか。ようやく追いついてきた二人を、少佐の言葉による銃弾が迎え撃つ。
「そうですか。」と素っ気なく答えるアキノの後ろで、「(偉い人なんだ!?)」と跳び上がるハルカ。美少女たちの反応は両極端である。
そんな二人の反応を気に留めているのか、いないのか。乾、乾、乾。機関部への長い鉄階段を下りつつ。イソジニール少佐は例によってとぼけた調子でのらりくらりと言葉を続ける。
「お二人にはまず、早速ですが。少々、お仕事をして頂きたいと思います。まあ、よくご存知のこととは思いますが、この少し先。機関部の奥には『ヒミツの第2☆格納庫』というのがありまして。よくご存知かと思いますが、当機構の最高機密である最新型の人型機動兵器『pai』、その試作機が格納されておるのです。」
「機動兵器?」
少佐がなんということもなく漏らした言葉に、アキノが鋭く反応する。
「…宇宙探査用作業ポッドです。」
ニコニコと笑顔を崩さずにぬけぬけと言い直すイソジニール少佐。一瞬。冷たい眼光と冷たい眼鏡の光がぶつかり合う。
「あ、少佐だ。おめでとうございます。」
忙しく働いていた人鳥…否、鳥人というべきか。一行に気づいた機関部の作業員、ペンギンによく似た外見のペンタゴン星人たちが、口々に「おめでとうございます。」「おめでとうございます。」と流暢な日本語で挨拶しつつ、よたよたと歩みよってくる。これ幸いと、イソジニール少佐は失言を煙に巻いてしまう。
「あぁ、皆さん。そのまま作業を続けて頂いて結構ですよ…既に集まってしまいましたか。では、せっかくなのでこの場をお借りしてご紹介致します。本日より機動兵…、もとい、宇宙探査用作業ポッドの搭乗員見習いとして当艦で勤務することになりました、アキノさんとハルカさんです。」
何か珍しいものを1人が見つけると、こうしてワラワラとすぐに全員が集まってきてしまう。ペンタゴン星人の困ったところですなあ…と苦笑しつつ、少佐は美少女二人を手短かに紹介する。
「おめでとうございます、機関長のペンタクンです。趣味はさかなです。よろしくおはようございます。」
機関長のペンタ君がちょこりと手羽を挙げ挨拶する。
「よろしくお願いします。」と普通に対応するアキノ、「宇宙人の人なんですか!?」と目を輝かせ駆け寄るハルカ。美少女たちのの反応は両極端である。
イソジニール少佐がチョイとその長い脚を伸ばし、躓いたハルカはビッターン!と見事に機関部の鉄床へと頭からダイブした。




