夢の薬
発明家の夫は酷く興奮しながら妻に言った。
「私が寝てる時に見る夢について研究してたのは知ってるだろ?ついに出来たんだよ。なんでも思い通りの夢を見ることのできる薬が!それこそ夢のような薬が!」
「思い通りの夢が見れる薬?面白そうね。でも安全なの?」
「もちろん人体には一切無害な成分しか使ってないよ。寝る前にこれを一粒のむ。そしてどんな夢が見たいかイメージするだけで効果はあるはずだ。」
得意そうに夫は言う。
「あなたはどんな夢を見ようと思ってるの?そもそもそんな薬自己満足だけじゃない。何の役に立つのよ?」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに夫が答える。
「まぁそう言うなよ。僕はね、その夢をみる薬を呑んで『新しい 発明をする夢』を見るのさ!その夢で見た発明を世の中に発表すれば凄い事になるだろう」
夫は笑いが止まらなかった。
薬の作り方は間違えてないはずだ。きっと明日には凄い発明の数々が頭に浮かんでいるだろう。
「早速試してみるよ」
夫はそう告げると自分の部屋に戻り眠りについてしまった。
翌朝起きてきてきた博士は満面の笑みだ。
どうやら効きめがあったようだ。
「どうだった?何かひらめいたの?」
妻の問いに博士は意気揚々と答える。
「そりゃ凄い効きめだったよ!次から次へと新しいアイデアが浮かんで。特にアレなんて凄いってもんじゃないよ!とにかく成功だ!早速新しい発明に取り掛かるよ!」
踵を返し部屋に戻ろうとした博士は途端に固まってしまった。
「どうしたの?」
妻の問いが聞こえているのかいないのか、何やらブツブツと博士が呟いている。
「あれ?確かに沢山の凄い発明はしたはずなのに。商品化すれば売れること間違いなしの…でもいったいどんな発明を…」
肝心な事を忘れていた。そもそも夢だ。
たとえ思い通りのに見れたとしてもその内容をしっかり覚えている事など殆どない。
「昨日見た夢を思い出す薬を先に作るべきだったようね」
深いため息をつきながら妻が言った。