王伝編集官 60話
シャリシャリシャリシャリ
・・・無言で手を動かしながらそれを見つめる。
君は鯛に似てるね。名前にも鯛って書いてるけど鯛よりのっぺりしてるね。
なぜ僕はみんなの前で甘鯛のウロコを取ってるのだろ。ここにいる人みんな魚さばけるよね?
「さて、みなさん注目ー。では坊ちゃんどうぞ」
カールおじさんに言われて僕はみんなの前に立つ。前掛けとゴム手袋をつけ、衛生帽とマスクもばっちり。まな板に魚をのせて作業を始める。
「今回の討伐では珍しい素材がこちらにまわってこないと思ってましたが、さすがラディ王子です。」
うろこが取れる音とともに「ほー」とか「おー」とか感心されたり興味深げな声がするけど、それって僕の包丁さばきに対してじゃない。一応初めて魚をさばいてるんだけど、ここはこの道のプロの集まりだからそこに注目してない。僕が達人みたくさばけるのはラディ王子との『共有』によるものなのです。
「うろこも内臓も骨も全部きれいに分別できますね。手で触らないから内蔵に傷もつかない。後の作業が楽でいいです。他に気づいたことがあれば言ってください」
みなの視線を独り占めしているのはまな板だった。今は魚をさばくのに適したサイズに見えるが元は手の平に収まる薄いカード型だ。本来、高密魔素木は船用に確保したものだけど、端材はでるからね。開拓用で使う試作品をここで使ってもらおうと先にもらってきたのです。
「始めるときが青丸に2回触って、終るのは赤丸に2回触る。で、素材が分けてでてくる。洗浄も自動なのか、ここでは十分な機能だ」
加工場の主任さんがそう言うと他の人もうなずいている。うん、あとは任せてもよさそうだね。カードまな板をカールおじさんに10枚渡して撤収ー
先輩はどうしたというと、カールおじさんの頭の上で寝たままなので置いてきました。地味ながら暑いし重かったのです。言わないけどね。
名残惜しくも涼しかった倉庫を出て、歩みを街へ向けると
《ポン》
と軽い金属音が頭に響いた。
《20秒後、左前方12m先にて事故発生》
帰る途中で新しく覚えたスキルを確認していたら『危険予報』なるものがありました。これは、僕が解決できる範囲内で起きる事を教えてくれるもので、ご老人が転ぶのを先回りして支えたりできるすばらしいものです。え?ちっさいって?ご老人が転ぶと骨折したりして危ないじゃないですか。
駆け付けた先で起きる事態を見極める。そこは桟橋から降ろした荷を荷馬車に積み込む場所だった。樽や木箱の積んである片隅に白いものがある。その塊はもそもそ動いていた。
離れた場所で船員が重そうにドスンと荷を降ろすと、その横の木箱が振動する。その横の木箱にも伝わる。伝わる。振動は小さくなるがどんどん伝わる。白い塊の場所へ向かって。
カタン
周囲の音からすればささやきほどの音だが、白い塊はまったく警戒していなかった。発した音にビクっと驚き、跳ねた。
だめー、そっちは
着地地点にあるのはすべすべした曲線。さらさらした尻尾。そこは馬のヒップだった。おとなしく賢い生き物だが急に背後からお尻に着地しようものなら驚くやら怒るやら。直接蹴られるのを避けても暴れて荷を蹴ったら下敷きになるかもしれない。
強化しなくても届く距離まで詰めたからそれが着地するより先に捕まえる。空中でしっかりと、きつくなりすぎないよう抱きしめた。そうして自分の着地にも気をつける。だって同じ場所だもの。くるっと馬はふり返る。もしゃもしゃと食事中で、ん?な顔だ。
「ごめんね。すぐ降りるから」
あっそう。と前を向いてもしゃもしゃする馬。ふー、やれやれ。
そのまま木箱を背に座り込んで腕の中の子を確認する。まん丸な目が固まったままこっちを見ている。きれいな青いガラス玉が2つ、真白な顔。で、君お魚食べてたね。生臭いよ。
これがリノリスと白猫ミヤの出会いだった。
まだしばらく家に着かないリノ君。
そして新作が増える。そっちも楽しい。




