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王伝編集官   作者: 卵星店長(代理)
1章 雷の匙加減
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王伝編集官 3話

 

「お待ちなさい、リノ」


直立不動で「はいっ」と返事しゆっくり振り返る。そこにはリノより少し年上に見える少女が立っている。彼女はリノの姉であるのだからよく似て・・。しかしそれ以外はどう言うべきか。たとえにっこり笑っても「かわいい」という言葉が思い出せず、リノはさらに緊張する。何を言われるかが想像つくから。


「夕食までまだ時間があります、稽古しますよ」


同意を求められることなく告げられる。中等部に上がり女性らしい体つきになる年頃のはずのセテリオン・アスコーディは「かわいい」を一刀両断してしまった。初等部入学時から文武両道の武に特化し女子生徒と一部の男性に絶大な人気となる。ある意味王子2人すら超えて。いずれルシネイラ国初の女性騎士団長になるだろうと先走りすぎた首脳陣に、隣国アラスティから年の近い王伝編集官を留学と称し招いた。そう王宮ロマンス物語を仕掛けたのである。ただこの話の落ちはセティが物腰穏やかな文官と結ばれたことで後世まで轟く恋愛小説となった。主にリノが気の毒でしかないのであったが。


「王伝編集官とは常に文武両道でなくてはなりません」


そう首脳陣は間違えたのである。セティの心に燃え上がったのは好敵手と書いてライバルという。(うちのリノが1番なのです。えぇ絶対負けさせませんとも。)そして稽古場に引きずられていく。声にならない悲鳴と共に。

(いゃぁぁ~~~~~)


 


 その頃王宮の1室で王子方があるサプライズの準備をしていた。


「兄上 これで仕掛けを施せば完成ですね それにしてもよくこんなのを思いつきましたね」


「ふふ リノのおかげだよ。シーバタフライの幼虫の繭から作られる織物でドレスを作り、そこに雷魔法の付与をして虹色の輝きを纏う。これまでの火属性用の防護服でしか使われなかったものをね」


「明後日の母上の誕生日パーティーでのお披露目楽しみですね」


「現在ドレスの生地用の織機はこの国と交易しているサハギン族にしか提供していない。陸では織ることができないからね。彼らも各国の王族と取引できる製品ができて喜ぶね」


「ではアバル 母上に試着していただくので使いを頼みます」


ラディはリノのなにげない思い付きからこれを完成させたが、すんなり成し遂げた訳でもない。そもそもドレス用の見栄えのいい生地を織る織機すらなかったのだ。何度もサハギンの織物職人達と協議し木工ギルドの職人と仲介し、これがまた双方望む品質まで譲らず大騒ぎにもなった。それゆえパーティーでのお披露目はサハギン族と各国の大使に新たな交易品、そして友好にも貢献するだろう。その思いからこの大事業に貢献したリノに今日は休みをとってもらったが、まさか姉にしごかれているとは思いもつかなかった。 




 次の日、予定であった採取に来ているが、リノは困惑の真っただ中である。目の前で行われているのがどう見てもお茶会に見えるから。よそ様のお宅で採取しているわけでなく森のど真ん中で優雅に茶を飲んでいる。そもそも初等部で採取の場合、学院側が先行して安全確認は済ませてある。それでもこれはないんじゃなかろうか。シートを広げローテーブルにふかふかなクッション、銘柄物の茶器に色とりどりの菓子と軽食。そしてこの採取メンバーはというと、王子2名と従者2名は変わらず、あと昨日誘われたサフィ。最後の1人が初等部料理科3年のメイリア。彼女は今回模擬市の菓子の改良に協力してもらい、この採取はそのお礼ということだ。しかしお礼に行った採取で茶会、茶器以外は全部メイリアが持ってきたのではたしてお礼になっているのだろうか。


「いいのよ。今日持ってきたのも中等部に頼まれてた試作のだし。そういえばリノのお姉さんのとこだっけ、執事カフェ」


「そうだね 王宮の庭園を使うから華やかになるね。母上も楽しみにされてたよ」


「あはは それちょっとプレッシャーだよ。予行演習で王妃様こられるのは。祖父や父の料理に慣れている方だし」


「スィーツなら既に並んでいるよ。私も毎日食べてるからね」


「うれしいなぁ そう言ってもらえて。めざせ世界一の菓子職人!」


なんだろう。ここにもかっこいいレディがいる。採取後のゆったりしたひと時、しかしすでになにかがまぎれこんでいたりする。ん~ しあわせ と言いながらマカロンを頬張るサフィ。他はあえてしらんぷりして様子をうかがう。その時「くぅ~」という悲しい音がする。リノはサンドウィッチを口に入れたまま止まってしまった。全員顔を見合わせ横にふる。するとまた「くぅ~」。メイリアは菓子をいくつか取り分け、その小皿を空中に差し出す。


「よろしかったら どうぞ」




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