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王伝編集官   作者: 卵星店長(代理)
5章 水に流してね

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王伝編集官 28話

    5章 水に流してね 

 静かさを表現する場合、例えばふわっと風が頬をなでた感触。例えば見上げた星空の瞬きの音。いつも見ていた景色だけど潮風と海のさざ波でないとこうもちがうのか。今リノリスの眼前には無音の世界。針葉樹の森は本来やさしく眠りに誘ってくれる。はず。疲れているんだから寝てしまえばいいのに。そう自覚してるものの、真夜中に客室のバルコニーでぼんやりしている。普段行く広葉樹の森とは全然ちがう匂い。う~んと背伸びしながら深呼吸すると、一人だなぁとしみじみ。さっきまで内輪ではあるが歓迎会だったのだ。

(よその国の王さまとかえらい人達って初めてだから緊張したー)

 たぶんルシネイラの城が乳白色の大理石で明るく解放感があるとか、アラステイの城は灰黒色で重々しいとかも緊張に一役買ったのだろう。とてもとても気が緩んでいる。真っ黒にしか見えない森も少し先にある湖も半月の明かりできらきら美しい。その貴重なリラックスタイムを遮る音。


「ねぇ、そっち行ってもいい?」


 え?どう返事すればいいんだろう。隣りの部屋のバルコニーの柵の上にしゃがんでじーーっとこちらを見ている。ここ3階ですよ。いや先にこんばんはか。まてよ、どちら様じゃまずい。見えないから王印お持ちだし。とりあえずピシッと立って一礼だ。わかるよ、絶賛混乱中なのは・・


「あぁ、礼とかしなくていいよ。勤務時間外でしょ」


「はぁ」


 そう言うと音もなくこちらに渡ってきた。3mは離れているんだけども。間近で外見がわかると最初に目が行くのは・・目でも髪色でもなく頭の上の2つの三角。白い艶のある毛色が。(耳?!)落ち着いた深い氷青色の瞳は視線の先を知っても笑う。こちらでは珍しいのを承知だから。


「僕はピケ。君のことリノって呼んでいい?」


「どうぞ」


 近い。握手するにしては近すぎる。努めて平静を心掛けて思う。知っててするのと知らずにするのとでは全然ちがう。先はピケと名乗った少年の行動。後はリノリスの抱いた警戒心。ほんの少しの後ずさりに変わらぬ距離感。嘆くリノ君。

(目をそらせないーーー)

 十分堪能したのか、全身なでるような視線からやわらかい笑みになり「明日からよろしくね」と言って自室に帰っていった。動きもしぐさもなんて猫らしい・・・


「明日から・・・・」


 次の言葉は飲み込んだ。とても複雑な気分なので。実のところ彼が見ていたのもリノリスの外見だ。歓迎会のあいさつの時も、話の流れで学院御一行の行先に同行となった時も。


 獣人と魔族という人々は、大昔にカストルファン大陸から去った。その事情は一言でいうと、彼らの望むものがカストルファン大陸になかったから。方向性は違うが彼らの信念はただ一つ。「強さ」。そう倒すべき敵のいないこの地は魅力がなかった。獣人は身体的強さを、魔族は魔法の強さを至高として称える。彼らはそれぞれ別の大陸に居を構え時が過ぎた。同族同志で争うことはあっても互いに強者として認め合っていたので大陸を挟んでの大規模な戦争は起きなかった。そして両者はカストルファン大陸を不可侵としていたので細々とだが三者の交流は続いていて今に至る。


 その均衡に十年ほど前から異変が起きた。ある人物の誕生がきっかけで。強さを求める獣人と魔族の考えの極みに「王印」至上主義があり、「王印」を持つ者も持たない者も配偶者にそれを求める。しかし「王印」は女性に出にくい。つまり男があぶれるのが常。もう何十年もどの大陸にも生まれなかったところに12年前カストルファン大陸にて確認された。それがリノリスの姉、セテリオン。望まないのに生まれた時点で獣人・魔族の「至高の嫁」認定されたのだった。これまでは水面下で押し止めていたがもう無理そうだ。これで姉に想い人がいるとか知られたら相手が殺されてしまう。強さ=情熱でもあるのだから。

(どう見ても獲物見る目つきだったよ~)


ピケ君のイメージは白シャム。

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