王伝編集官 14話
3章 秘密は土の中
なんやかんやでアラスティ国の視察団御一行はつつがなく帰国されました。ルシネイラ側の皆さまお疲れさま。ラディ王子はリンシェラ姫にサフィに作ったドレスの通常版をお土産をに。そして姫はセテリオン嬢との文通権をもぎ取りました。めでたしめでたし。
王立学院では春と秋2回郊外学習というものがあります。これはクラス単位で行先を決めるのですが、ラディ王子達のクラスはというと
「では行先はテウルカ村に決まりました。見学内容は牧場見学と鉱山見学。2班に分かれて先か後を決めます。」
クラス内の一部生徒に鉱山の内容でいまいち興味が沸いていない。「やっぱり「あれ」のほうがいいよな。」「おっきいし、かっこいいもんな」とまぁ「あれ」が人気です。しかし「あれ」は中等部にならないと行けないのです。初等部で行くとテンションが上がりすぎて先方にご迷惑がかかるとのこと。よって初等部の行先は女子にもいまいちだったりしますね。でも実際に行って見ると意外と好評で、これぞ教育。
(僕はどっちもかっこいいと思うんだけど)
リノリスはどれかに強烈に熱中してないので見方も淡泊。爬虫類か昆虫。鉱山にそんなものがいる、その程度の認識だ。それでも全生徒共通なのは「みんなでおでかけ」たのしみ~でっす。
「【観察】開始」
「【追跡】」
「【記録】」
「【再生】」
訓練場では現在4名のみ。あまり見ないリノリスの「むむむ」と集中した表情。ラディの手のひらの上に浮かぶリンゴサイズの炎と見た目そっくりのものがぽふんとリノリスの手に現れた。「ふぇ~」と肩の力が抜ける。いや、ちゃんと息しなさいよ。
「うん。いいよ、では次」
にこにこと笑顔のラディは自分の炎をふわりと移動させてリノリスの炎と重ねる。
「んと、【相殺】」
ぷしゅぅと炎は消えた。別にそんな音はしてないが気分です、気にしない。リノ君の頭をなでなでしながら、
「あとは処理速度を上げればこんなことも、レイ」
スイカサイズの火球がレイ王子に飛んでいく。「はい」とレイ王子も軽く同じものをぶつけて消した。「わぁ」と目を輝かす。それ目指すのかい、リノ君や。
「応用はセテリオン嬢に頼むからね」
「ひっ」とこの声はほんとう。あの人ならスイカサイズでも剣で弾き返すだろう。不穏な場面しか想像できない。となれば次にやらなければいけないのは
「防御もやっておこうか」
やさしいやさしいラディ王子はすでに涙目のリノ君をまだ撫でていた。
かくしてリノリスは自宅でやさしいやさしいお姉さま相手に、自分で放った火球を自分で防御するという「涙がでちゃう、だって男の子だもん」な光景が続くのでした。
(感謝しますわ。あなたと稽古する機会はありませんが、これなら同じですものね。)
リノリスのやっていることは王伝編集官ならだれでもできる訳ではない。さきほどリノリスが使った【観察】等は「書法」と呼ばれ、王伝編集官になる際もらう専用本「記録書」があってはじめて使用できる。さっくりいえば「観察」はスキル系【観察】は書法となる。書法も魔法なので魔力が必要。でも今のリノリスでは魔力量は多くはない。そう彼が使ってるのは自分の魔力ではなくラディ王子のもの。「共有」はそう珍しいスキルではないが「拡張」は天印固有のもので相手の魔力量に関係なく使用でき、もはや分身と言える。そうセティはラディアス王子と戦ってみたかった。ようやく念願が叶ったが、リノ君にとってはいい迷惑。
「ここでは少し狭いですわね。スケジュール調整して学院でもできるようにしますよ」
やはり同意は求めない。彼はどこへ行くことになるのだろうか。
ラディ王子の魔改造第2弾