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王伝編集官   作者: 卵星店長(代理)
2章 甘い風に立ち向かえ
17/72

王伝編集官 13話

 「いらったい、まて~」


「いかがでつかぁ」


 なんとも気が抜ける声だが、立派な戦力なので侮ってはいけない。模擬市は学院の門をくぐればすぐに罠が発動する。まず初等部1・2年合同の一角「お守り石」のコーナーが出迎える。これは子供が生まれる際、親や親せき・知人が手ごろに買える半貴石等をお守りとして送る風習があるからで。生徒はそれを入れて身に着けられる「お守り袋」を作り一緒に売る。身に着けて10才になる頃、腕輪やネックレス等に加工して無事に育ったお祝いをする。長く民間で伝えられている風習であるがちゃんと意味も効果もある。身に着けることで石が本人になじみ、加工する際、「この子はすぐお腹をこわすんですよ」「うちの子はよく熱を出して」といった体質に対応した「ささやかな守護」の効果も付けられる。そしてこの模擬市で守り石最大の効果はというと、


「まぁえらいわねぇ、おじょうちゃんひとついただこうかしら」


「そうだねぇ、孫とは言わずひ孫の顔を見るまで長生きせんとな」


 年配のご夫婦をゲットした。初等部は売り子の必要はないが呼び込みならありなのである。もじもじと慣れない手つきで売り子さんからお客さんに中継する様子はさらに周囲の財布のひもをこじ開ける。そこらへんは大人のあざとさもしっかり隠す性能。慣れてる感じの男の子に向けて「えへへ」と笑顔でハイタッチ。奥へ進むほど罠は巧妙になる仕様だ。


リンシェラ姫は自分より幼い少女が見せる笑顔を感心した様子で、でも少し戸惑う気持ちもあるようだ。

今案内してもらっているのはラディ王子とリノリスのみ、服装も学院の制服を借りている。髪も三つ編みに結い上げ、文句なく初等部生徒に溶け込んでいる。各屋台の説明を熱心に聞いている姿は視察というより楽しんでいてほほえましい。

(でもジェノス王子の所には見に行かないと言ったとき、なんだかさみしそうだったな)

別に他の視察団の方と一緒でも邪魔にも迷惑にもならないが、なぜかそういう気づかいをしていた。セテリオンもいる「執事カフェ」、あそこは予約制だから周囲から様子をうかがうことしかできない。リノリスは姫の脳内まで知ることはできないのでわからないが、見たくない妄想が原因だった。


「こちらが私たちのコーナーです。どれか一つでもいいですがどうします?」


「全部食べてみたいですわ」


「ええ、では1つづつお願いします」


「「ありがとうございましたー」」


 ミレーナとマリーが愛想よく接客し、飲み物も買った後飲食コーナーへ向かう。メイン通りから外れ木陰のテーブルに3人で座り、ここまでの感想などを話した。するとリンシェラ姫がうつむきながらポツリと言った。


「ラディアスさま。なぜ同じ菓子を3種類にして出したのですか?」


「そこが気になる?あなたはどう感じたかな」


「1番よいものを出せばいいのではと思いましたわ」


「それもまちがってないよ。私たちはそのときの1番よいものを手に入れやすいからね。でもすべての人が同じにできる訳じゃないんだ。」


 自分の過去を振り返っているのだろう。目を閉じ思う。食事もドレスもいつも誰かが選んで用意してくれる生活。それがあたりまえのことだったから。では選ぶとは・・


「そんなに難しくないよ。ただどれか選ぶときどれにしようかなぁとわくわくしてくれたらいいだけだし。それにこれは買う側ではなく売る側に提案したいから。」


「提案ですか?」


「そう、市場調査という考えだよ。お客の好みをより深く知って、同じ商品でも地域や年齢・性別に合わせられるでしょ?」


「そうですわね。その考えが広まれば売る側はもっと工夫するでしょうね。」


 そう言ったリンシェラ姫はどこか心ここにあらず。選ぶという言葉が頭からはなれない。選ぶ楽しさより選ばれない悲しさを知った少女はリノリスと同じ年、でも少し先に大人に近づく。そう今この時だけ・・・




 模擬市終了後、お互いスケジュールが合わなかったので先延ばしになっていた出会いが最後に。すなわちリンシェラ姫とセテリオン。セティはまだ着替えておらず仕事着のままだった。彼女はクラス一致で給仕役、上下黒いつやつやのそれはとてもとても凛々しい。初めて見たリノリスは自宅で本職の彼と比べ

(執事ってそんなに目立っていいのーー?)

そして揺れる乙女心はレア進化を遂げる。セティの両手を握りしめリノリスの時より甘く甘く


「お姉さまって呼ばせてくださいーー」

次から次章です。

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