王伝編集官 8話
少し前、街角の光景
今日は朝から忙しかった。王妃さまのお誕生日のお祝いに飛ぶように売れてしまった花たち。花屋の店主も一息つけるタイミングを見つけ店内の花を見て回った。その中の一輪が元気なくもう一度水切りしようと、奥の作業場にある入れ物に挿しておく。店のドアに着いたベルがカランコロンと鳴り来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
店主が応対している間にその花は音もなく消えた。店主も今日の忙しさにこのことはすっかり忘れるだろう。でもそれはドロボーなんだよ。
扉の前で静かに時を待つ。中から登場を知らせる声が響く。国王は王妃の手を、ラディ王子はサフィの手を取る。その後ろにレイ王子が続き最後にリノリスとアバルが従う。
「では 乾杯!」
招待客の挨拶やらは王妃様の支度中に済ませたのでサクっと進行。登場時のお客様の表情に、歓談という名の商談会に手ごたえを感じる。そつなくダンスを終えたラディ王子はその後サフィをレイ王子に預けて隅に引っ込んだ。リノリスとアバルも今日は従者としてではなく王伝編集官の正装を着ている。黒をベースに銀糸をふんだんに使い地味とは言わずむしろ派手。肩には簡易のマントを本とペンをあしらった紋章で留めている。帯剣してれば正に騎士。単なる文官ではない王伝編集官はトップエリートである。まぁリノリスはまだ着せられてる感で落ち着かないのだが。レイ王子のそばに付いてサフィのドレスやら装飾品についての質問に追われる。頃合をみてレイ王子が
「それではこれから兄上と私からの贈り物をいたします」
サフィがロッドを振り頭上に掲げると光の玉が周囲に散って輝く景色を作る。・・はずがその光に被って淡いピンク色をした花が表れた。光とともにゆるりと落ちていく花は床に着く前に光と共に消えた。まるで
初めからこうなるよう作られていたかのように。周囲の人々はその演出に惜しみない拍手で讃えたが、若干名は別の意味で驚いていた。
(えー そんな効果付いてないよ。ってあれか スーちゃん)
すぐに気を取り直したが、ラディ王子はというと隅で腹を抱えて笑いそうなのをこらえている。うっすら涙目な顔をリノリスは初めて見た。
「まぁ素敵。ドレスもそうだけどわたくしの好きなヒナゲシだわ。覚えてらして? 初めてあなたが贈ってくれた花」
すると国王夫妻のすぐ近くで声が聞こえた。
「祝いであるぞ」
「ふふ ありがとうございます。 あの子が生まれた時以来ですね。」
「んむ 息災でなにより」
「ねぇ あなた わたくしね・・・」
レイ王子も休憩に入り果実水入りのグラスを2つ持ってラディ王子の元に向かう。2人してなにやらうっとりお互いを見つめ合う両親を見ながら
「ねぇ 兄上」
「なんだい レイ」
「兄弟増えたりしそうですね」
「いいんじゃないかな」
すでに通常運転な2人は、次の企画を構想しているのか静かに会場内を見つめていた。営業はサフィ・リノリス・アバルに任せて。
その後ロッドは好評でラディ王子は花の幻影を追加しなければならなくなり、大量発注にもかかわらず楽し気だった。ちなみにロッドのレプリカは銀の塗料を塗った木製で木工ギルド長の息子のログサは、兄2人どころか自分まで手伝いの量が増えたと嘆いていた。それを見ながらミレーナはサンプルのロッドを手に決めポーズをのりのりで再現したとのこと。まもなく世界中でルシネイラ発、女の子の間で人気のなりきりごっこが流行る。
してやられた感な落ちです。ドレスよりロッドが目立ったため、新たな企画起こしですね。本来ドレスは海の民との友好の証みたいな位置でしたし。