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第5話 ゲオルギオスの試練

「フール、ここがその試練の場所か?」


「はい。ここが夜月さんが私に教えてくださった毒竜殺し『ゲオルギオス』の試練です」


 集まって貰ってから一週間経って、まずはフールに試練を突破してもらうことにし、フールが知っていた試練の場所の神話を説明した。

 そして、現在に至る。


「なんだろうなこの建物」


 まるで協会のようだ。だが、中に入ると全然違う。様々な文化が入り混じっているような、そんな空間。

 そんな中に一つだけ扉がある。ぽつんと周りから浮くように、異質な雰囲気を放っている。


「ここから先は一人しか行けません。夜月さんは待っていてください」


「わかった。俺が教えたこと忘れてないよな? 気を付けて行って来いよ」


 そして、フールは扉に足を踏み入れる……。



   *   *   *   *   *



 扉を開けたとき、見えてきたのは悪竜に苦しめられている人々だった。

 生贄を捧げよ生贄を捧げよと王城……らしきものに責めかけ、死に怯える民衆。

 ここが試練なんですね。夜月さんがいっていたように、『ゲオルギオス』の神話の世界にいるようです。

 私がやればいいのは毒竜退治まででいいと言っていましたが、さてどうしましょう? 王様に合わないといけないので、王城に潜入としましょうか。


 私には羽があり空を飛べる。王城の正面に人が集まっているおかげで、裏から楽に侵入できました。


「窓を開けて~中に入って~王様にあって~」


 なんて適当な歌を小さな声で歌いながら、天井近くを飛んで傭兵に見つからないように王の間まで到着。


「王様ですよね? 大丈夫ですか?」


「な、なんじゃ貴様はッ、どこから入ってきおった!」


 王様であってますね。かなりやつれているように見えます。教えてもらった話では、娘を生贄にさせたくないから宝石与えたけど、8日の猶予はもらって必死に考え中、という感じになってるんだと思います。

 今なら誰にでもすがりそうですね。


「私はフール、毒竜を倒しあなたを助けて上げられる人です」


 そう言うと王様は警戒を解いて、私に助けを求める。


「今助けられると申したな?、ならば頼むッ、どうにか娘を助けてやっておくれ……」


 一国の王様とあろう方が深々と頭を下げるとは、思っていた以上に追い詰められている様子。


「かしこまりました。お任せください」


 お辞儀を返して立ち去る。

 もうここに用はないですね。次は生贄とされる人たちのところに行かなきゃ。

 来た時と同じように裏の窓から飛び出て、生贄の行列へ向かう。

 にしても、人を生贄に捧げて自分たちだけ生き残ろうとは、醜いですね。ですが、同じようにそうしてきた人間も生贄にされてるんですから、当然の報いでしょうか。

 

 あそこですね、見えてきました。10人といったところでしょうか? 先頭には王様の娘らしき人が立っている。

 そして10人の生贄たちの前に、毒竜が舞い降りる。

 体はとても大きく、周囲には毒の霧のようなものもまき散らしていた。

 その毒を吸って倒れる生贄たち。あんな紫色の霧なんて吸ったら体に悪いことぐらいわかるだろうに……。

 そしてその生贄たちを食べようとするところに、声を掛ける。


「待ちなさい。あなたが今注目するべきは私です」


 言うと同時に持っている2本持っている槍の一本を投擲する。この槍は夜月さんがくれたもので、毒竜はこれで倒さないといけないと言っていました。


 1週間の間夜月さんとマンツーマンで鍛えてもらった槍術、ご覧あれッ!


 槍の先を振るって霧を払い、その隙間を縫って槍を通す。皮膚は堅いが、弾かれるまではいかない。

 毒竜は尻尾を振るい接近をさせないようにするが、うまくいなして攻撃を加え続ける。

 だがあまり効いているようには見えない。


「はぁぁああ! やぁッ、これでどうですか!」


 大抵の生物は、目が弱点。目玉に槍を突き刺し、片目を潰す。毒竜は叫びながら闇雲に周囲を薙ぎ払い、意思のある攻撃より先が読みづらい。


「くッ、ううぅ、きゃああッ」


 尻尾がすごい勢いで迫ってきて、咄嗟にガードしてみたものの非力な私ではあっけなく吹き飛ばされ岩にぶつかる。


「うぐぅ……。こ、このままでは食べられて……」


 左腕は肩が外れて使い物にならない。右腕を動かすのが精一杯。

 熱くなっていた頭が急激に冷え、現状の打開に最善の策を考える。


 そこでやっと、思い出す。


 今はピンチ? いや、むしろチャンスなのではなかったのですか? 英雄ゲオルギオスは毒竜が自分を食べようとしたときに攻撃したのでは?


 毒竜が残った片目でこちらを捉え、私が動けないと見るやゆっくり近づいて恐怖を煽るように大きく口を開け迫る。


「ゲオルギオスさんも私と同じで、現状の打開に思考を巡らせていたんでしょう」


 私の場合は正解を知っているだけ何倍もましですよね。


 毒竜の喉の奥に光る球体が見える。

 右腕の力全てを注いで強く槍を握り、光る球体目掛けて突き刺す。


「ぁぁああああ! これで終わりだッッ!」


 毒竜は悲鳴を上げる。それは絶叫と呼ぶに相応しく、恐ろしさや強さを感じさせる雄叫びとは程遠い。そしてその巨体は地面に倒れこむ。


「や、やりました……。なんとか、倒すことができました。はぁ、はぁ」


「大丈夫ですか?! こ、これは……毒竜? もしかしてあなたが倒されたのですか?」


 だ、誰ですかこの人は……。あぁ、たしか王様の娘だったような……。

 そうか、ゲオルギオスはここで姫様から帯をもらったんですね。


「私は大丈夫です。ですが傷が深いのでその帯を包帯代わりに使わせてもらえませんか?」


 傷は負っていますが、そんなに深くありません。これは嘘です。だって、いきなりその服を止めてる帯を貸してほしいなんて言ったら変態扱いされてしまいますから。

 姫様は急いで帯を渡してくれる。そして、受け取ると同時に気絶させる。


「あなたの役目は終わりました。ありがとうございます」


 一言だけ感謝の言葉を残して毒竜のもとに向かい、首に帯を付ける。

 その瞬間、霧が晴れるように世界が霧散する。見覚えのない誰かが目の前に現れた。


「よく我が試練、我が神話を乗り越えることができましたね。あなたに我、『ゲオルギオス』の思念、『竜殺しの槍』と『生物支配の帯』を授けよう。さらに、身体能力も向上しているだろう。これから先、我が名に恥じぬ人生を送ってくれ」


 ゲ、ゲオルギオス……。まさか本人が自ら思念を授けてくださるとは……。


「はい。『ゲオルギオス』の二つ名、確かに受け取りました。」


 そう答えたと同時に、視界がぐにゃりと歪み、意識が遠くなっていった。



   *   *   *   *   *



 もう12時間以上経ってるけどフールは大丈夫か?

 フールが入っていった扉はすぐに消えたし、中の情報など一切わからないのは辛いものがある。

 立ち上がってどうしようか考えていると、目の前の空間が歪み始める。


「なんだなんだ? フールに何かあったのか?」


 最悪の予想を立てて、心の準備をする。

 だが、その予想は当たらず、いきなり目の前にフールの顔が現れる。


「「え? うわぁ! びっくりしたぁっ!」」


 二人して同じことを言って、その場を飛び退く。


「フール! 突破できたのか! よくやったぞっ」


 高速で近寄ってなでなでなで。フールは照れくさそうにしているが、今は無事帰ってきたことを喜ばしてほしい。


「は、はい。これが証明です」


 服をまくり腕を見せると、そこには『ゲオルギオスと』書かれていた。

 それに手に持っている武器、俺が渡した槍じゃなく別の槍に変わっていた。それと帯のようなものを左腕に巻いている。


「なぁ、その帯ってゲオルギオスが毒竜を飼いならしたやつか?」


「はい。『生物支配の帯』と呼ばれるらしいです。ちなみにこちらの槍は『竜殺しの槍』だそうです」


 フールは嬉しそうに報告する。俺がこの世界に来た時と同じ高揚感を感じているのかな?

 でもまぁこれでフールは無事二つ名持ち、少し安心して出かけられる。


 さぁ、次は誰に突破してもらおうかな。

次回は試練ではなくストーリーを進めていきたいと思います。

試練の話は時々閑話として載せます。

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