第4話 最後の祈り
「いやマジ勘弁してくださいすいませんでした」
受付係から請求された1000万ユンという金額にビックリ。俺は必死に土下座タイムです。
「あ、あの、大丈夫だと思いますよぉ」
トントン、と肩を叩いてそういうのはサキュバスのメイだ。
「へ? どこにそんなお金あるのん?」
またまた御冗談を、という気持ちでメイに答える。
するとメイは、いやいやまじですよ? という感じでさらっと答える。
「うちのお屋敷の倉庫に、3000万ユンくらいはあはずだよぉ。前の主人のハントはかなりのお金持ちだったからぁ」
まじか、ハントすげぇな。いや、『すごかった』な。ふっ。
「でかしたぞメイ! ん、んんッ、受付係さん。書類を貸してもらおう」
土下座から一転、強気である。
1000万ユン払ったところでまだ2000万ユンもあるんだよ? 超余裕。
受付係に書類をもらってサインする。あれ? よくみたら日本語で書いてないのに、何で読めてるんだろ。
自分の名前もこっちの世界の文字で書いてるし。
転生特典でついてきたのかな? まぁどうでもいいか。
「こちらがクラン登録の書類です。ですが夜月様は挑戦者として資格も持っていられないので登録できません、先にそちらを済ませてください」
「はいよ」
俺は言われるがまま書類にサインし続けて、資格をもらう。
それが終わってやっとクランの登録に移った。
「クランの名前を決めてください。名前はクランの全てを表します。慎重に決めてください」
名前……か。俺は傍にいる元奴隷の彼女たちを見る。
この世界に来る前は力がなくて、弱くて、世界が間違っているといった。世界の理不尽に嘆いた。
今は違う。力を手に入れてそんなこと思わなくなっていて、そんなこと考えもしなかった。
でも、同じだった。見方が変わっただけで中身は変わっていない。箱の角度で中身が見えなくなったり見えたりするようなものだ。
傍にはこの世界に来る前の俺と同じ考えをもった人たちがいる。俺はどう思った? 世界の理不尽をどうにかしてくれと誰か力のある者に頼まなかったか?
頼んだ。何度も何度も何度も何度も。
なら、彼女たちもまた思ったはずだ。だから俺は、力を手に入れた俺は、彼女たち弱者の唯一の英雄になってやろうじゃないか。
このクランはそう、言ってみれば俺が彼女たちの救いになるためのクラン。
「名前はそう……、『最後の祈り(ラストプライア―)』だな」
「いいですね! なんかかっこいいです」
「かっこいいよぉ、さすがぁ」
「私も賛成です!」
気に入ってくれたようだ。意味をわかっているのかわからないけど。
「登録は完了です。クランの名前を広めるなら、クエストに出て活動ポイントを上げるといいですよ。多く稼いだクランには地域支配を任せられることがありますので、頑張って活動してください」
「わかった。いろいろと迷惑かけて悪かったな」
最後に受付係の人に謝って、屋敷に帰る。
「そういえば、何で私たちも来る必要があったんですか?」
帰り道の途中、ホタルがそう聞いてくる。
そういえば言ってなかったな。案外必要なかったみたいだし、それか見えてたからかその説明はしてなかったな。
「クランって人が集まって出来るものだろ? だから何人かいると思ったんだよ。受付係の人はこっちの人数をみて聞かなかったみたいだけど」
「そうだったんですね。じゃあ、私たちが各種族から一人ずつなのはなんでですか?」
「あ、私も知りたいです」
「私もー」
近い近い、顔を近づけすぎだっ。女の子にこんな風に近づかれるとか初めてだから恥ずかしいって。耐性とかないから。
「これも言ってなかったんだけど、二つ名取ってもらおうかなと思って、敵が襲ってきたとき、俺一人でも守れるけど、万が一の事がある。俺が到着するまでの時間を稼ぐか、撃退してくれる人がいてくれると助かるから、それを帰ったら伝えるためかな」
彼女たちの表情が少し固まった。
まぁわからなくもない。いきなりこんなこと言われたらさ、誰でもこうなるよ。
「わかりました」
そう答えるのはリザードマンのラリア。ラリアに釣られて、他の子たちも返事をする。
俺はこっそりラリアに近づき小さい声で話しかける。
「ラリア、さっきはありがとな。お前のおかげで皆動けることができた」
「私は当然のことをしたまでです。夜月様は私たちの恩人、救世主。その頼みを聞かなければ私は夜月様に恩を返せません」
ラリアも小さい声で返したが、最後のほうは少し大きくなっていた。なにか強い思いでもあるらしい。
話しているうちに屋敷に帰ってきた。
俺と一緒に来た面々は自分たちの種族に、さっき俺が言ったことを伝えに行ったみたいで、部屋で話し合いをしているみたいだ。
自分の部屋に戻り、ベットにダイブ。やはりこれが一番落ち着くな。
この世界に来てまだ二日目、色々なことがあった。
山壊したり湖枯らしたり二つ名持ちの気に入らない奴叩きのめしたり、鐘をぶっ飛ばしてまた山壊したり。
山壊れすぎだろ。これだけ壊してたらこの先もお世話になりそうだな……。
にしても、あのハントとかいう野郎との戦いは自分の実力を知るにはかなりよかった。
あいつの移動速度は蝶々が目の前に飛んでくるみたいに見えたし、体の反応速度もとてもよくなっている。
だけど、あの『グラム』とかいう剣だけはちょっと不気味だった。俺の体であっても切り刻まれるような予感があり、回収して売りさばこうと手に持とうとしたときには、拒まれて手の甲に傷ができた。
神話に出てくる武器とやらは格別らしい。使い手がどうであれ、武器の性能は神話と一緒。つまり、これから神話の武器を使いこなした敵が現れたら、俺も気を付けて戦わなければならない。
「まぁ、どんな神話だろうが打ち砕いてやるけどな」
* * * * *
コンコンコン、と扉を叩く。
「失礼します。私たちを強くしてください。皆を守るために」
ミサさんから聞きました。皆を守る人が必要だって。
だから私は、皆さんを守るために志願しました。奴隷生活から助けてくれたあのお方の役に立つためにも。
「来たか。えーと? 右から人間のススキ、獣人のホタル、エルフのムラサキ、リザードマンのラリア、サキュバスのメイ、ヴァンパイアのルーラ、妖精種のフールだよな。さっき俺と一緒に来た面子が多いがまぁいい」
やっぱりかっこいいです。私と違って行動の一つ一つに余裕が感じられて。
「私達でも強くなれる方法があるんですか?」
ムラサキさんが夜月さんにそう質問する。そうですよね。私達なんかでも強くなれるんでしょうか……。
「ある。知りたいか? 知りたいよな? 教えてやるよ。お前たちも二つ名を手に入れろ」
ふ、二つ名ってハントが持っていたような? 無理ですよ……。それは皆も同じようで、落胆したような表情をしている。
「おいおい落ち込むなよ。俺は神話を知っている。どの英雄がどうやって英雄になったかもな。試練ってのは神話を基にして作られてるんだろ? 大丈夫だ。俺の言う通りやれば確実に手に入れられる」
二ヤァ、と悪辣な笑顔を作る。そのささやきはまるで悪魔のようで、何か大きな対価を支払わせられるのではないかと思わせるほどに。
だけれど、私たちはその表情に希望を持つ。
だって、力が手に入れられるのならば何を支払っても構わないもの。
「本当に、強くなれるんですね?」
私はそう聞いた。だけど、これは全員の気持ちでもある。私だけの質問ではない。
「あぁ、だからついてこい。お前たちには俺が必ず、力を与えてやるさ」
その悪魔のような笑顔に、なぜか私たちは希望の光を見つけた気がした――。