第3話 弱そうなのは見た目だけ
我ながら驚きである。まさか異世界転生1日目にしてこんな豪邸を持つことになろうとは。
俺は『シグムンド』の二つ名をもつハントとやらを叩き潰した後、ハントの豪邸を乗っ取ってやった。
結構な豪邸で、護衛も何人かいたが全員殴り飛ばして、門の前で山になっている。
家の中にも奴隷はおり、俺の前には30人くらいの女の奴隷たちがいる。中を散策したときにはどれもこれも胸糞悪くなるような光景で、拷問器具だらけの部屋やや血だらけの部屋なんかは特にいらついた。
まぁ今はそれより、この奴隷たちの自由を返してやらないとな。
「さぁお前ら、好きに過ごしていいぞ。あいつが使ってた家だから気に入らないところはあるだろうけど、頼む、我慢してくれ」
皆がありがとうと言ってくれるが、こんなトラウマだらけの家に住まわせて本当に申し訳ない。
「とりあえずはだな、その手枷とか全部外すから、ついでに名前も教えてくれ」
そして一人一人の名前を聞き、手枷足枷を壊していく。一人一人がひどい傷を負い、一生消えないだろう後まであろう者もいる。
全員終わった。人類が10人、獣人族が5人と、エルフが6人、サキュバスが4人、ヴァンパイアが3人、リザードマンが3人、妖精種2人が実際の数だった。
直接見てみないとわからないものだ。獣人は耳と尻尾が生えてるだけだし、エルフは耳が長くて肌が白いとかだし、ヴァンパイアは牙、サキュバスは悪魔みたいな羽と尻尾、リザードマンは龍の翼と角と尻尾って感じで、ほとんど人間と変わらない気がする。
というかこの世界人類だけじゃないんだ。さすが異世界、異世界ってすげー。
「ところで、あなた様のお名前は?」
前にいる獣人の女の子ケイナが聞いてくる。
そういえば名前言ってなかったな。
「俺は空谷夜月、好きなように呼んでいい」
夜月様夜月様と俺の名前を呼ぶ。
「様とかやめてやめて、恥ずかしいから」
俺とは普通に接してほしいからそういうと、ほとんどの人が夜月さんと呼ぶようになったが、数人は様付けをしている女の人もいる、まぁいいかな。
「まぁ自己紹介も終わったし自由行動でいいよ。まずは着替えからしてくるといい。自分好みの選んできて。俺はその間、掃除をしてくるから……」
指示を促すと全員着替えのある場所に向かった。
彼女たちが服を着替えている間、俺は血だらけの部屋や拷問器具が置かれたこの屋敷の闇の部分を掃除しながら思う。
この世界も間違っている。今の俺は力があって何も感じていなかったが、こんなものを見せられれば気づかされてしまう。なぜ同等の存在でありながらこんなことができるんだ。
言葉を交わせて、コミュニケーションもとれて自分たちと同じ感情を持つ生き物だと理解できるのに、なんでだよ。
改めて決意する。
この世界を変えてやる。そのための力も女神様からもらった。昔の俺と同じようにこの世界の理不尽に嘆いている全ての味方に俺はなろう。
「ま、この世界のこと何も知らないからとりあえずは知ることから始めないといけないけどな」
部屋が綺麗になったが、使えそうにないな。ここで死んだ者たちのためにも、早く新しい家を建ててこの屋敷は全力で破壊してやろう。
そして俺は着替えが終わったであろう皆のところに戻った。
「おおー皆似合ってるな」
「ありがとうございます」というが、いかんせん言葉が固い。もう少し打ち解けて彼女たちに皆平等な存在だということを早く知ってほしい。
その後この屋敷での仕事や寝る部屋を決めて、あとは自由行動にする。
俺は自分で決めた2階の一番奥の部屋で、数人からこの世界について教えてもらっていた。
大体の人はギルド総本部なるもので資格をもらって神の試練に挑むそうだ。そして資格をもらった人は『挑戦者』と呼ばれる、さらに試練を乗り越えた者が『二つ名』を付けられ、その突破した試練の元になった英雄や神の名前を付けられるそうだ。
二つ名をもった者は人を超えた力を手にし、まさしく神話に出てくる英雄たちのような力をもつらしい。
二つ名持ちが出始めた頃、二つ名を持った人間をリーダーとして『クラン』という集団ができ初め、領地を持つようになった。そしてクラン同士が戦いあい領地や人材の奪い合いなどが行われたらしいが、今はギルドによって禁止されている。
そこで今は、活動状況によって地域の支配権を持つことができるようになったらしい。
そこで、だ。俺もクランを作ってどこかの地域の支配権を持とう。クランの登録はギルド総本部ですることができるらしい。
地域の支配ができれば奴隷になった人たちも自由に気兼ねに人生を過ごせるはずだ。
クランの登録はギルド総本部ですることができる。
「あ、あの。どうしました?」
不安げな表情で聞いてくるのは、俺が異世界について聞いていた妖精種のフールだ。
「あーちょっとな、いい事思いついてそれについて考えてた」
「いい事ですか?」
「あぁ、俺達でクランを作る。そのためにギルド総本部に行く、クランを作ることを説明して、各種族から一人ずつ呼んで来てくれ」
「はい」と返事をして数人を呼びに行く。
フールが後ろを向くと羽も見える。万華鏡のようなきらきらとした綺麗な羽だ。一度でいいから触ってみたい。
数分経ったところでフールが戻ってきた。
呼んできたのはサキュバスのメイとエルフのリリーナと人間のミサと獣人のホタルとリザードマンのラリアとヴァンパイアのアカネだ。
「じゃあ今から向かう。今回はクラン登録してすぐ帰ってくるから、皆には離れないでいてほしい」
「「はいっ」」
彼女たちの返事をもらい、ギルド総本部へ向かった。
俺が暴れた場所に人が集まっているらしく、ギルドまでの道なりはすんなり進めた。ギルドまでの道案内はフールがやってくれ、迷わずに辿り着く。
「えーと、クラン作りたいんですけど……」
受付係の人にそういうと、受付係の人は俺を怪しそうに見てくる。まぁそうだよな、俺見た目は弱そうだし。
「すいません。クランは二つ名を持っているお方しか作ることはできません」
へ? まずいことになったな。どうしたもんか。
「あのぉ、何で駄目なんですか?」
そう聞いてくれたのはホタルだ。なんかちょっと怒ってる?
「二つ名を持っている実力のある方でないと即刻潰されてしまうからです。現在は、クラン同士のギルドを介さない潰し合いは禁止されていますが、ギルドを介した『仮戦争』として両クランから5人ずつ出して戦うことは許されています。挑まれた側に拒否権はありますが、拒否できない場合などもございます。よって、二つ名を持っていないある程度の強さもない方の集まりのクランは禁止されています」
つまり弱いからダメ、ということらしい。なら話は簡単だ。なんせ俺には力があるからな。
「俺が二つ名持ちと同等かそれ以上の力を見せればいいんだな?」
「ま、まぁ。あなたにできるのなら」
なめてくれる受付係、腰を抜かしてやるから見てろよ。
* * * * *
なんでこんなに自信があるんだろうこの男は。
見た目的にすごく弱そうな一般人みたいなのに、力を見せればいいだなんて言って、このギルド総本部の屋上のさらに上の鐘のある場所まで連れてきて。
「じゃあ見てろよ。腰抜かすんじゃねぇぞ」
腰を抜かすって。これから何をしようというんだろう。少年は巨大な鐘に向かって拳を打ち付ける。
そして、
ドゴォォォンッッ!! という馬鹿でかい衝撃音と共に巨大な鐘が山で吹き飛んでいく。二つ名を持っていない人間が鐘を吹き飛ばしたというのだけでもとんでもない事だというのに、さらに吹き飛んでいった巨大な鐘が山に当たると、山が弾けた。
「な、ななな何者なんですかあなたは! あんなの二つ名持ちですらできません!」
この馬鹿げた怪力はなんだ。明らかに人間の出来る技じゃない。
「それは秘密だよ。でもま、これでクラン作らせてくれるんだよなっ」
晴れやかな笑顔で笑いかけてくる。認めないわけがない。こんな力を見せられて認めなければ、二つ名持ちですら作れなくなるだろう。
「うっ、認めます。では下で鐘の修繕費とクラン登録の手続きを行いますので、ついてきてくださいねっ」
ちょっとばかりの仕返しという感じでそう答える。
少年がしまったという感じの顔をしたので、一本取り返すことができかな?
いや、こんな程度じゃ返したうちにも入らないかもしれませんね。
なんせ私は、これから伝説になるであろう少年に腰を抜かされてしまったんだから――。