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第2話 奴隷たちがおもちゃだと?

 どうしてこうなっているのだろうか……。

 目の前にいるいかつい顔の男は、大剣を構えて、こちらをなめるように見ている。

 周りでは、


「にげろにいちゃん、そいつは二つ名持ちだぞ!」

「あんたみたいなひょろいのが勝てる相手じゃない!」


 と、俺に向かって叫んでいる人たちがいる。

 だが、逃げるわけにはいかない。

 この世界で俺は、誰かを助けられる力を手に入れたのだから。



   *   *   *   *   *



 都市についた俺は、ついて早々不愉快なものを見ることになった。

 ジャラジャラと手枷足枷のついた女の人たちを鎖で引っ張っている男がいたからだ。女の人たちの表情は暗く、光を持っていない。

 異世界には奴隷制度があるなんてよくあるけど、小説や本なんかで読むのとは全然胸糞悪さが違う。

 俺はその連れられている女の一人に『わざと』ぶつかる。


「きゃっ」


 という声と共に少女は尻もちをついて倒れ、それから立ち上がろうとしたところに手を差し出す。


「おい、俺様のおもちゃに何してんだ」


 少女に差し出したはずの手は、いかつい男に捕まれる。よし、うまく釣れた。

 そして俺は、予定通りにいかつい顔の男を挑発する。


「その汚い手をどけろ、俺が差し出したのはこの子にだ。てめぇみたいな汚いおっさんじゃない」


 目の前のいかつい顔の男は、顔に血管をうかべてすごい形相でにらみつけてくる。


「いい度胸じゃねぇか。俺様のことも知らない田舎からきたガキ風情が、その調子に乗った態度を二度とできねぇようにしてやるぜ」


 俺様のことも? 何だコイツ結構有名な奴だったりするのかな。

 その疑問に答えをくれる奴隷の少女がいた。


「いけません! 今すぐ逃げてくださいッ、ハント様は試練を超えし二つ名を持っています! 『シグムンド』の名を持っているハント様にあなたのような名も知れ渡っていないお方がどうにかなる相手でありませんッ」


 試練を超えし二つ名持ちね、それはよくわからんが『シグムンド』っていったな。それなら知ってる。

 そこから推測するにあいつの持っている大剣はおそらくグラムだろう。何でも斬れる切れ味のいい大剣だって見た気がする。

 だから強いことはわかった。だけどそんなことどうでもいいんだよ。せっかくの忠告悪いが、背を向けて逃げ出すなんてことしない。絶対に。


「二つ名持ちだからなんだってんだ。かかってこいよ、お前の全てを叩き潰してやる」


「クソガキが、てめぇの体をミンチにしてやるぜッ!」



   *   *   *   *   *



 あぁ、私のせいで少年が死んでしまう。私がぶつかりさえしなければ、もう少ししっかり前を見ていれば……。


「クソガキが、てめぇの体をミンチにしてやるぜッ!」


 ハント様の体が一瞬で少年の目の前まで移動し、グラムを振り下ろす。

 思わず顔を伏せる。次に顔を上げたら少年の体は真っ二つになっているだろう。

 だが、恐る恐る顔を上げるとそこに少年の死体がなく、ハント様しかいない。どういうことかと周りを見ると、少年は元居た場所から少し後ろに下がった場所で不敵に笑っている。


「なんだよこんなもんか? もしかして、なめてかかって手加減でもしたのか?」


 少年はいう、だが私は知っている。ハント様は手を抜いていなかったと。

 それからもハント様の剣が次々と少年を襲うが、少年は軽々避けて傷一つつかない。まるで弄ばれているかのよう。


「ちょこまかちょこまかとッ、逃げてばっかで何にもできねぇのか!」


「失礼なやつだな。お前の見せ場を作ってやってるんじゃないか。くくっ」


 少年の言葉を聞き、ハント様が怒りで攻撃の速度が上がる。だがしかしそれでもあたらない。いくら速度を上げても少年はさらにその上をいく。

 いったいあの少年は何者なのですか……。ハント様を圧倒できるなんて普通じゃない。


「ちょっと速くなったけどこんなもんか。こんな程度で、人の人生めちゃくちゃにしてたのかよ……」


 その言葉には怒りとは別に落胆のようなものも含まれている。


「もういい。お前の強さはわかったから。これからは俺の番だ。本気出したら一撃だからな、手加減してゆっくりゆっくり痛めつけてやる。今までお前が人をおもちゃにしてきた分、俺が返してやる」


 少年の足元が爆ぜると、少年の姿が今までとは比べられない速さでハント様に接近する。そして下から打ち上げるように拳を打ち込むと、ハント様の体が軽々と打ちあがる。さらに少年は上空に飛び、ハント様を地上に叩き落す。


「うぐぁあッ」


 地面にはクレーターができ、その中心には横たわるハント様がいる。


「おい、立てよ、あんな大勢の奴隷たちの人生めちゃくちゃにしといて、これで済むと思うな。『人間』をおもちゃといった代償はでかいぞ」


 少年は胸倉を掴み持ち上げる。ハント様の体はズタボロで、顔も恐怖に歪んでいる。


「な、なんなんだよお前ッ、俺が自分の金で買った奴隷を何と呼ぼうが何しようが何も問題ないだろうがッ!」


 ぐさり、と胸が痛む。そう、この世界では奴隷に人権なんてない。人として扱われず、それこそおもちゃのように扱われる。


「あぁ、そうかよ。それがこの世界の普通なんだな。だったら、俺によこせ、この世界の全ての不幸な奴隷を集めて、おもちゃのように扱われる奴隷をこの世界からなくしてやる」


 この少年は何を言っているのだろう。奴隷のいない世界?そんなものは到底無理だ。こうしている今でさえ奴隷とされる人間は増え続けているだろうに。

 なのに、どうして私の胸は高鳴っているのだろう。


「そんなことができるか! あれは俺のもんだッ」


「なら選べ、ここで俺に渡して見逃してもらうか、逃げて殺されるか。殺して奪うっていう選択肢を除いてやってるんだ、どうする?」


 選択しなどありはしない。ハント様は一転して命乞いをし、私たちを少年に渡すと答える。


「それでいい。だが最後に契約の判子を押しておかないとなっ」


 少年は笑顔でハント様の後頭部を掴む。


「お、おい何するつもりだッ、やめろやめてくれ!」


「てめぇの顔で地面に判子するんだよッ! 死ぬんじゃねぇぞッッ!」


 地面に顔を叩きつける。クレーターの中心が弾け、さらに大きくなった。

 少年は笑う、血だまりの中心で。その姿はまるで狂人のようにも見えたが、私たち奴隷からは英雄の姿に見える。


 少年の笑いにつられ私たちも笑う。この奴隷生活に終止符を打ってくれた少年に感謝の涙を浮かべながら――。

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