第1話 女神の祝福、それはチートすぎました。
【起きてください。あなたにはまだ人生を続ける義務があります。世界を動かす英雄として】
朦朧とする意識の中、そんな声が聞こえる。
「う……、ここは、どこだ」
真っ白い空間だ。何もない、ただ白い空間。
ただ、目の前に綺麗な女の人がいる。背中には神々しく輝く羽を持ち、大きな椅子に座っている。
「あ、あなたは誰ですか?」
思わず敬語になってしまう。それほどまでに自分との存在の格差を感じたからだ。
「私は女神アマテラス、あなたが死者の世界に行ってしまう前に、あなたをここに連れてこさせていただきました」
あ、アマテラス?! それって超有名な神様の名前じゃないか。一体どうして俺の前にいるんだ? 俺を連れてきたってどういうことだ?
突然の出来事に困惑を隠せない。
「あなたに対しての神技サポートが一度も発動されていないことを確認しました。よって、あなたの最後の望み、異世界に連れて行ってほしい、という望みを日本女神代表として叶えに参りました」
少し待ってほしい。まだ状況が呑み込めていないというのに、話を続けられても覚えられないぞ。
「し、神技サポート? ってなんですか? 俺には一度も発動されてないとはどういうことですか?」
「一つ目の回答、神技サポートとは、神が人間に願いを求められたとき、人間に気づかれないようにサポートして願いを叶えるシステムです。
二つ目の回答、空谷夜月様は我々神に願いを求められていましたが、なんらかの不具合により神技サポートが発動されず、願いが叶わない人生になっていました」
じゃ、じゃあなんだ? 俺以外の人間は神頼みしたら願いを叶えてもらって助けてもらっているのに、俺だけ助けてもらえずにあんな最悪な人生になっていたということか?
自分だけの理不尽を突き付けられ、ふつふつと怒りが湧き上がる。
「ふざけんな! 俺が一体どんな気持ちで人生歩んで来て、自殺まですることになったと思ってんだ!」
感情に任せて女神アマテラスに当たり散らす。
だが、夜月とは真逆にアマテラスは冷静に話を進める。
「はい。申し訳ありません。この度は我々の不手際により大変辛い経験をさせたこと、心よりお詫び申し上げます」
感情が籠っていない。用意された文をそのまま読み上げているかのようだ。
謝れれている気がしなくて、無性に腹が立つ。
そんな俺の思いも知らず、アマテラスは話を続ける。
「ですので、空谷夜月様には、あなたが元いた世界とは別の世界で生活する権利を与えられました。それと同時に、もう一つ神々からの祝福が与えられます」
べ、別の世界で生活?! それって、俺が最後の最後に頼んだ異世界に行くという願いじゃないか。
それを叶えてくれるというアマテラス。もう既にさっきの怒りは感謝と感激で流される。
「い、行きます! 俺、異世界に行きます!」
興奮して2回答えてしまった。
やっと、やっと神様が俺の願いを叶えてくれる。最後まで信じてよかった……。
それと、祝福とか何とか言ってなかったか?
気分が良くなっていろいろと普段通り思考が回るようになってきた。
「祝福とはなんですか?」
「祝福、それは今までのお詫びとして、空谷夜月様には次の世界で楽しんで頂けるよう、誰にも負けない圧倒的な力を授けます」
「圧倒的な……力?」
「はい。山をも砕く破壊力、音をも超える俊敏性、鋼鉄の鎧を着ているかのような体、毒や麻痺など状態異常の無効化、どんな傷も1日2日で直してしまう驚異的な自己回復力の5つです」
それって圧倒的な力と書いてチートって呼ばれる奴じゃないか。
「ハ、ハハハハハッ! それはいいッ、最高だ!」
こんな高笑いしたのは初めてだ。これほどまでにいい気分になったのも同じ、あぁ楽しそうだ。
アマテラスが俺の頭に手を置き、何かを口ずさむ。
すると全身から力が溢れ、祝福をもらったことを理解する。
「では我々からの話は以上です。これよりあなたは異世界にある一つの都市付近に飛ばされます。今度の人生は楽しんできてください」
「あ、少し待ってください。最後に一つ、聞きたいことが」
飛ぶ前に一つ聞かなければいけないことがある。
それを確認しなくてはこれからの人生を楽しめない。
「俺が望んでいるような人は、世界にいるんですか? 俺が待ち続けていたものは存在しているんですか?」
その質問を聞き、アマテラスは微笑む。
「ええ、存在しています。誰かに助けてもらうことを待ち望んでいる。だから探しなさい、待つのではなく自分で探しに行くのです。さぁお行きなさい」
アマテラスが両手を広げた瞬間、夜月の体が光に包まれその場から消えた。
* * * * *
視界が普通に戻ったとき、最初に見えたのは見たこともない動物達。
どうやら森に飛ばされたみたいだ、視界が悪いな。
でも今は視界の確保より力を試したい。祝福とやらでどれだけ強くなっているんだろうか?
試しに周りにある木の一本を指で弾く。すると、目の前にあった木が木端微塵になった。
「え? え?! なんだよこれ!」
あまりの強さにびっくり。だってさ、木を指で弾いただけで粉々になるんだぜ?
次々と木を吹き飛ばしていく。視界の確保は十分だった。
だが、俺は止まらない。
「は、はははははッ! ほらほら壊れろッ! おらぁ!」
あまりの気持ちよさに狂ったように暴れまわる。
走るために力を入れた足の地面にはヒビが入り、疾走した後には風が吹き荒れる。
山に拳を打ち込めば山が割れ、湖の中心にかかと落としをすれば、全ての水が飛び散り湖が消滅する。
夢にまで見た力を思う存分味わって、干上がった元湖の中心で大の字になる。
「ははははは! これだけ動いても息の一つも切れやしない、あぁいい気分」
空を見上げれば、湖の水が飛び散ったことによってできた虹が、美しく輝いている。
「あぁ、この世界の空は本当に綺麗に見える」
前の世界はいつ見ても気持ち悪かったのに。
もう前のことはどうでもいいか。今俺はこの世界で生きているんだから、わざわざ嫌な記憶引っ張ってきてナイーブになるなんてあほくさいし。
さぁ、休憩も済んだし都市に向かうとするかな。
服に着いた汚れを払い落とし、立ち上がる。
「まってろよ異世界。
俺が楽しむために犠牲になってもらうからな。
待ってろよヒロイン。
俺が探し出して助けてやる」
さぁ、ここから始めよう。俺の異世界ライフを。
そして、この異世界を最大限に楽しもう。