第10話 2戦目、メイvsナルサス
「お前、やる気なさそうだな」
「いやぁ、そう見えるのは見た目だけだよぉ? ラリアさんがぁあんなに頑張ってたのにぃ、私も頑張らなきゃぁって思ってたりするんですよぉ?」
「やりにきぃなぁ。まぁそんな気の抜けた様子で俺に勝てるなら勝ってみろやッ!」
1戦目が終わって現在2戦目、メイ対ナルサスだ。
メイは『マーリン』というアーサー王伝説に登場する魔法使いの二つ名、ナルサスは『ランスロット』同じくアーサー王伝説の登場人物の二つ名だ。彼の武器はアロンダイトという大剣。
ナルサスはアロンダイトを構えメイに斬りかかる。だが、何度振り下ろしても一向に当たる気配がない。
メイが避けるという行動をとっているのは横なぎに大剣を振ったときだけ。
「な、なんであたらねぇ。……くそッ、視界が歪んで……歪んで? あぁなるほど、てめぇ最初に俺と会話してたときから周りの熱を上昇させてやがったな」
「あららぁ、意外に早くバレちゃったなぁ、もう少しは誤魔化せると思ってたのにぃ」
「気の抜けた言葉のわりにやってる行動には気を抜けないな、この狸が」
「騙される方が悪いんですぅ。私は悪くありませんよぉ」
メイは敵対すると厄介そうだな……。まぁそんなことにはならないと思うけど。
「まぁいい。蜃気楼だってわかったら対処の方法なんていくらでもあるんだよ!」
アロンダイトを地面に刺すと、周りの熱が収まり通常の気温へと戻る。
『ランスロット』は湖の騎士とも呼ばれている。その効果に、水に関連するものがあっても不思議じゃない。
蜃気楼が通用しなくなってもメイは、なにも困ったことはないように行動を続ける。
「私の策は一つじゃないんですよぉ、ほらほらどうですぅ?」
メイが杖を振るうと、ナルサスに雷やら氷塊やらが飛んでいく。全てアロンダイトに粉砕されるが、メイの思惑は他にあるようだ。
「こんな弱い攻撃じゃ俺に傷一つ付けれねぇよ」
ナルサスはそう言う。彼は気づいていない、メイは視界を隠すことが目的であってなにも傷を付けることなんて意識していないことを。
ナルサスが全ての魔法を打ち砕いで、メイを睨む。
その表情はなめられたことに対する怒りのようなものが浮かんでいる。
「て、てめぇ。何をのんきに座ってやがる。ぶっ殺すぞォ!」
「やれるならどうぞぉ、無理だと思いますけどぉ」
メイは座ったままゆったりと答える。その返答の仕方が、ナルサスの怒りを増幅し短絡的な行動を誘発する。
アロンダイトを構え直し、直線的に接近しようとする。だが、突如現れる雷や火炎や氷塊で接近することが許されない。
横に飛んで回避しても、予期していたように魔法が現れる。この時点でナルサスは敗北の袋小路に嵌ってしまっていた。
「あなたはもう終わりですぅ、今まで負けた経験のない人がぁ、私たちに勝てると思ってなめてかかったらぁ痛い目見るのですぅ」
「くっそッ、こんな程度でやられッ……。うぐぁあッ」
なんとか避けていたナルサスだが、ついに魔法が直撃し、吹き飛んだ先吹き飛んだ先連鎖的に魔法の嵐をくらう。
もう終わったな。あれだけの直撃をくらえば流石に立てないだろ。メイの戦略勝ちだな。
案外あっけなかったな。『ランスロット』ともあろうものがこんな程度か……。
――と、そう思っていた。
「なに勝った気になってやがんだよ……はぁ、はぁ。まだ終わってねぇんだよ!」
鎧は砕け既にボロボロの体で、立ち上がる。
「アロンダイトォ、俺に力をよこせよ……。俺にィ、力をォォ!」
その声にアロンダイトが反応し、飛び散ったナルサスの血を吸いだし、尚且つナルサス自身からも吸血し始める。
アロンダイトは邪悪に輝き、その刀身は血で赤く染まっている。ぼろぼろだった体の鎧も、血液の鎧として復活した。
その不気味な様子にメイは立ち上がり臨戦態勢をとる。
氷魔法で牽制をすると、その氷塊が当たる直前で弾けとんだ。雷、炎、風、他の魔法も使てみるが全て弾かれる。
ナルサスから激しい勢いで放出される赤色の霧のようなものが、魔法を弾いているのだ。
「な、なんなんですかぁ、周囲に結界でもあるみたいに魔法が通用しなくなっちゃってるじゃないですかぁっ」
立ち止まっていたナルサスが、動き出す。
ついさっき斬りかかったときとは5m離れたくらいのところから、アロンダイトを振るう。
「なんでそんなとこか……、そういうことですかぁっ」
刀身が伸びているのだ。血液の刃分が追加され、中距離からでも届く大剣へと変化している。
左右に氷の壁を作って少しだけ自分に当たるまでの時間を稼ぎ、回避する。
回避しても回避してもナルサスの猛攻は止まることなく、アロンダイトを振り回す。
「殺す、殺す。殺す……」
少し様子がおかしい。
ナルサスは殺すという言葉を連呼するだけで、すでに理性というものは失くしてしまっているように見える。
このままじゃメイが負けるか? いや、負けない。ラリアが見せたあの勇猛な姿は、メイに勇気と力を与えるはずだ。
そしてメイが、少しの隙をついて猛攻から抜け出した。かなり疲れているようで、肩が上がっている。
「もう、終わりにするしかありませんねぇ。私も疲れてきちゃいましたぁ……はぁ」
なにか策でもあるのか? 今の防衛の間に何かしていたようには見えなかったけどな……。
ナルサスが距離をとったメイに接近する。メイは距離をとるのではなく、逆に自ら接近していった。
「メイッ! 何をする気だッッ!」
たまらず俺は叫んでいた。そしてその声にメイは振り向き、笑った。
その後、虹色の爆発と共に二人の姿が現れた。
メイの服はボロボロになり、その後ろでナルサスは倒れ伏していた。
あの一瞬、ナルサスの振るったアロンダイトを紙一重で避け、後ろから炎魔法を使いなにか結界のようなものを消し飛ばしたように見えた。
そしてゼロ距離まで近づくと、その周囲には氷塊や雷、火炎球を混ぜ込んだ風の『全魔法一斉放出』をナルサスにぶつけていたのだった。
そしてそれは虹色の爆発を生んだのだった。
すごい……。あの一瞬の駆け引きはどれも命がけだった。アロンダイトを避けられなければ死に、炎魔法で赤い水の結界を突破できなければ逆にやられていた。
メイは杖を支えにこちらに戻ってくる。
「お疲れさん。頑張ったな、さすがメイだ」
「最後心配してくれましたよねぇ。すごく嬉しかったですよぉ」
ふらふらなメイを抱きかかえて、なでなでをしてやる。
「体は大丈夫か? 手当はしておけよ」
「魔法の使用で疲れてはいますがぁ、けがとかはしてませんので大丈夫ですよぉ」
まぁ基本回避して滅多な傷はつけられてなかったしな。メイが少しついた傷を手当している姿を見ながら、屋敷側の事を考える。
今頃はあっちでも戦っているだろう。俺たちを勝たせないように、暗躍している連中と――。