ゴブリン討伐という名の逃走
目が座っているムラン。リモコンを持つ手がプルプルしている。
やばい、何言っても無駄っぽい。
「聞いてくれ、ムラン! お互いいがみ合っていないで手をとろう!」
はぁ? って顔で俺を見るタコ。俺の歩み寄りを否定しやがって!
ふとムランの後ろに緑色の影がちらつく。あれは?
「む、ムラン! 後ろ! 後ろ!」
「はぁ? 何言ってるんだ。後ろには……」
ちらりと後ろを振り向くムランが迫ってくるゴブリンに気がついたようでダッシュでこちらに向かってくる。
「ヨシオーー! 何とかしろーーー!」
今度は助けを求めてきた。調子良すぎだろ!
ゴブリン四匹がこん棒を振り上げムランを追ってくる。顔をよく見ると凄い不細工。
呆れていると素早く俺の背中によじ登り頭までくる。
「何ぼけーとしてるんだ!? 早くなんとかしろよ!」
「いや、ムラン。お前が手に持っているものはなんだ?」
ハッと気がついたムランはリモコンをゴブリンに向ける。
「オレをビビらせたお前らは死ねぇーーー!」
頭の上から一筋の光が走って来た先頭のゴブリンに当たると大爆発し、辺りが煙に包まれる。初めて見たけどスゲーな。さすが超科学。
煙が晴れるとそれぞれ吹っ飛ばされていたゴブリン三匹がムクリと起き上がる。まじかよ、えらい射撃がヘタだ。このタコ。
しかし、いつまで待っても追撃してこない。
「おい! まだ生きてるぞ! 早く撃て!」
「……切れた」
「は!?」
「エネルギーが切れた! 助けてェ!」
頭の上でパニくんな! うぜぇ。だが、勢いを取り戻したゴブリンが奇声を上げながら向かってきている。
「よし! 逃げるぞ! しっかり捕まれ!」
向かってくるゴブリン達にくるっと背を向け、全速力で町へと逃げる!
はぁ、はぁ、はぁ。ここまでくれば……頭を後ろに巡らすと緑色の影が迫っているのが見える。
あああ! しつこい!
「おい! 追いついてきたぞ! 早く走れよ!」
くそー。楽しているタコが憎い!
さすがに息苦しく体が重くなってくる。もうダメだ……。
フラフラになりながらも逃げていると町の門が見えてきた。後少しだ!
っと、足がもつれ盛大にずっこける。
「なにやってんだぁあああ! もう近いぞ!」
こけても頭から離れないムランが叫ぶ!
はぁ、はぁ、はぁ。反論する気力がない。
ヨロヨロと起き上がりゴブリン達を見ると三〇メートル近くまで来ている。もう、走るのは無理!
買った武器を手に持ち構えて待つ。
「おい! 何してんだよ! 逃げろよ!」
「もう走れない。だからここでやってやる」
元気なムランに対し、疲れたので声も小さい。
後一〇メートルぐらいか。怖いが、なんとかなるか?
すると一陣の風が吹く。
こちらに迫っていたゴブリン三匹が風とともに体を引き裂かれ、バラバラになった!
あまりの事にボケっと見ていると後ろから声がかかる。
「……あんたら、ダメだ」
驚いて振り返るとフードを被った魔法使い風の女性が杖を持ち立っている。
「き、君は?」
「……メイディ」
フードの奥の目が光った気がした。カッコいい……。
「お、俺はヨシオ、こいつはムラン。助かったよ! ありがとう!」
「……別に」
そう告げると踵を返し門へ静かに向かって行く。あのネーチャン、カッコよすぎだ。
「ふえぇー。あれが魔法ってやつ?」
頭をポコポコ叩いてムランは興奮しているみたい。非常に迷惑。
「たぶんな。確かに凄い!」
あの魔法使いはそのまま格好つけて行ってしまったので、倒したゴブリンをありがたく頂戴する。
トボトボと門にたどり着き、ダンとベルドに声をかけ町の中へ入れてもらう。
その足でギルドに直行した。気がつけば太陽が傾き空が赤く染まりだしている。
シンシアのカウンターに目を向けると先客がいる。初めて見たぞ。
相手と話しているはずなのに目ざとく俺を認めると手招きするシンシア。イヤだ。行きたくない。
しぶしぶカウンターに行くと助けてくれたメイディが驚きの目で俺を見ている。客はメイディだったみたい。
今はフードを取っているため頭部があらわになっている。長く黒い髪に尖った耳、まぎれもなく美人だ。
俺の視線に気がついたシンシアが威嚇するように聞いてくる。
「あんた彼女に助けられたんだって?」
「そうなんだ。危なかった」
メイディに目を奪われていると頭を叩かれる。
「痛ぇ!」
「ヨシオ! 報告があるんでしょ?」
「あ、そう! ほらゴブリンの頭」
カウンターの上に拾ったゴブリンの頭を置く。ちなみに七個。
シンシアの顔が青ざめている。あれ? 違うのか?
「……三つは私が倒した」
鋭くメイディが呟く。そういや、本人目の前だった。失敗した。
嫌そうな顔でゴブリンの頭を指さすシンシア。
「ちょっと! 討伐証明は耳だけでいいの!」
「いや、聞いてなかったからさ」
その間、慣れた手つきでメイディがゴブリンの耳をそぎ落とし、まとめるとシンシアに渡す。
「残りは自分で処分して!」
そう言い腹立たしげに奥に消えていくシンシア。俺が悪いのか? 嫌々残った頭をリュックにしまう。
隣のメイディに向きなおり見る。俺より背が低いな。
「あのー」
「……何?」
鋭い目を向けてくるメイディ。
「報酬は頭割りでいいか?」
「……いらない」
興味なさそうにそっけない。が、マジか! 天使だ!
「ありがとう! いやー、生活がかかってるから助かるよ」
「……そ」
ふいと視線をそらす。照れてんのか?
ちょうどシンシアが奥から戻ってくると金が入った小袋を差し出す。
「はい、報酬。それとあんたにはまだこの仕事は早かった。次は考えとく」
金を受け取り確認する。なんとシルバー一枚にアイアン四枚が入っていた。袋はそのままいただきだ。
「ところでシンシア。教えて欲しいことがあるんだけど」
また黙って右手を出してきた。少しはサービスしろ!
しぶしぶブロンズ一〇枚置く。
「さ、何?」
「風呂に入りたい!」
「は?」
「いや、風呂に入りたいから銭湯とかないの?」
凄い憐れんだ目で見ている。おい!?
「そこの通りをしばらく行ったら煙突のある大きな施設があるから、そこが共同浴場」
「おお! 最高だ!」
汚れた体をすぐに洗いたい! これでいつも清潔だ。
「プッ、フフフ、ハハハハハハ!」
いきなりメイディが爆笑しているのを三人が驚いて見つめる。
「……悪い」
視線に気がつきうつむくとゲホゲホと誤魔化し始め、そのまま背を向けて逃げるように出て行こうとする。
「待ってくれ! メイディ!」
呼び止めると困惑顔で振り返る。
そのまま土下座へ移行し思いの丈をぶち上げる。
「弟子にしてください!!」
「え!?」




