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シンシアは決意する

 

 メイディさん率いるパーティーが再び荒野へ旅立ち三日。

 ギルドはいつも通りだが、受付で暗い表情をしている人が隣にいる。

「はぁ~~」

 シンシア先輩は深いため息をついて書類を整理している。よくわからないがブラシの(くし)部分に紙を(はさ)んでいる。

 あの人たちが旅立った次の日からこの調子が続いている。

「先輩、それ書類じゃないですよ」

「ハッ! い、いいえ、あっ、そうだね。そう、これはブラシ。書類じゃないし」

 アワアワしてブラシをしまう。

「落ち着いて。わかってますから」

「ありがと、エアル。大丈夫、落ち着いているよ」

 カウンターにある物を引き出しに無理矢理詰め込んで私にニコリとする先輩。その様子が落ち着いていない。

「心配はわかりますけど、仕事中なんで頑張ってください」

「ええ、そうね。その通り。し、心配してないから。少し不安なの」

 下を向いて赤い顔で答える先輩。こんな先輩、初めて見る。恋って不思議。

「仕事が終わったら話しを聞きますよ先輩」

「そうね、ありがとう。あなたがいて良かった」

 私に向き直って微笑む先輩。やっと落ち着いた。


 夕方──

 アンジェロさんの酒場で先輩と二人、カウンターに座っている。

「なるほどー。なかなか会えないのは辛いですよねー」

「そ、そういう訳じゃないケド……」

 話しを聞いて答えるとシンシア先輩はうつむいてコップを眺める。

 要するにヨシオと過ごす時間が短いのが不満みたい。あと、浮気。

 冒険者のマイやパン工場の娘からも言い寄られてるみたい。そうは見えなかったけど、意外にモテモテだなぁ。

「へぇ~。それじゃあ心配ね。でも、今は荒野だからねぇ」

 アンジェロさんがお酒を注ぎつつ感想を漏らす。

 何かを決心した先輩が持っていたコップを置くと私とアンジェロさんを交互に見る。

「あたし決めた。受付辞める!」

「えぇええ!? どうしてですか? 最近、すごく評判が良いじゃないですか!」

 突然の宣言にビックリする! なにか不満でもあるのかなぁ。

「冒険者になるつもり?」

 アンジェロさんが苦笑いで聞くと先輩は黙ってうなずく。あー、なるほど!

 冒険者になればいつも一緒にいれるもんね。でも、怖くないのかなぁ。

 そんな私の表情を見てアンジェロさんがウインクする。

「フフ。エアルちゃんは知らないと思うけど、シンシアは叔父さんに鍛えられたから腕っぷしは強いのよ」

「やめてください! せいぜいブロンズ止まりなんですから……」

 頬を染めた先輩が抗議する。へぇー、意外! 前から思ってたけど先輩ってスゴイ!

「なんてたってヨシオを一発で気絶させたもんね」

 にこやかに笑ってアンジェロさんが説明する。そんなことあったんだー。そう言えば付き合う前はケンカばっかりしてたな、二人とも。照れ隠し?

 その日、何か吹っ切れた先輩はいつもの通りに戻って楽しく談笑した。


 □  □


 ギルドの二階、ギルドマスターの部屋の前に立ち、一つ深々と息を吸い、吐き出すとドアをノックして中へと入る。

「おや、どうしたんだ? シンシア」

 ちょうど調べ物をしていたのか叔父さんが机に腰かけて本を広げていた。

「お話しがあります、ドノバンさん」

「ふむ。ま、座ってくれ」

 イスにうながされたが、そのまま叔父さんの元へ向かい言うべき言葉を発する。

「あたし、受付を辞めて冒険者になります!」

 両目を見開いた叔父さんが机から立ち上がる。

「ヨシオか?」

 鋭い指摘にうなずいて答える。

 ふぅーっと息を吐き出すと叔父さんは背を向けて本棚に行き、引き出しの中から何かを取り出すと、私の元へ来て無言で差し出す。

 黙って受け取り見ると、それは一振りの短剣だった。

「これは妹…お前の母親のものだ。俺は妹が冒険者になることに反対していた。それはお前と同じ理由だからだ。だが、結局は許可した」

「ドノバンさん……」

 優し気な瞳で語る叔父さんの腕に手を重ねる。

「愛する者と一緒にいれない辛さは知っているつもりだ。今でも思うよ、あれが最善の選択だったか? とな」

「私たちは大丈夫。だってあんな無茶苦茶なヨシオだよ? それに仲間もいる」

 微笑んで重ねた手に力を入れる。

 叔父さんは片眉を上げてニコリとする。

「お前はますます母親に似てきた。美人で気が強く、そして頑固だ」

 二人で抱き合う。ありがとう叔父さん。

 これであたしは冒険者として一緒に行くことができる。

 待ってなさいよ、ヨシオ!


 □  □


「あたし受付を辞めるから。エアル、後はよろしくね」

「えぇ!? もう許可をもらったんですか! いつから冒険者に?」

 二階から戻って来たシンシア先輩が席につくと一言。もうビックリ!

 あの酒場での告白から二日後、もう先輩は動いていた。早っつ!

「メイディたちが戻ってからね。それまでは受付をするよ」

「ホッ、良かった~。先輩もヨシオに似てきましたね」

 一安心して言うと先輩は頬を染める。かわいいなぁ。

 それからはつつがなく受付をこなす。

 ふとある事を思い出し先輩に聞く。

「そういえば先輩。いつから好きになったんです?」

「え!? い、今、それを聞く? それならアンジェロの」

 驚いた先輩がしどろもどろに言いかけている所で、

 ふと姿が消えた!


 突然の出来事にに頭が真っ白になる。

 いきなりなんで? 私が何かした?

「せ、先輩!?」

 話しかけても人のいないイスがあるだけだった……。



 シンシア先輩が消えてから数日。ギルドはやっと落ち着きを取り戻した。

 あまりの出来事に、その日の内に捜索隊を組んで周辺を探しても姿が見えず、この件は保留となった。

 当の現象を目の当たりにした私はデートを控え、先輩の無事を祈った。

 そして調査団が華々しい結果を携え戻って来た。

 なんと! あのアラクネと交流してきたみたい。珍しい糸などをお土産にもらったようだ。

 強い魔物にも出会わなかったようで、団員は皆、笑顔で報告している。

 だが、彼らは先輩には出会わなかったようだ。残念。


 翌日、メイディさんのパーティーがギルドに戻った時に真相が解明した。

 どうやらヨシオが移動魔法を使ってシンシア先輩を引き寄せたようだ。

 そして駆け落ちしたらしい。何故かムランちゃんも連れて。

 言葉少なく語るメイディさん。マルイドがフォローして後を続けていた。

 それを聞いていたギルドマスターは吹き出し、大声で笑い始めた。何か知ってるのかな?

 まるで嵐のような人たちだった。

 私も先輩みたいな熱い何かをしてみたくなる。燃える恋ってステキ。


 でも、ふと思う。

 もう一度会いたいな。

 あの騒がしい日々が懐かしい。

 私は隣で見ていただけだったけど。



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