ジェルドの成長
翌日、マイは王都へと旅立っていった。
なにもギルドに来てわざわざ俺に言わなくてもよかったのに。
しかも、「絶対に戻るから。いい子にしててね」とか言って。なんでだ? 大人だぞ!
おかけでシンシアとムランがふくれている。
マルイドはニヤニヤしているし。
そう言えば、今日はジェルドがいないな。まあ、町の外に出かける予定はないけど。
メイディは用事らしく、顔だけ見せてすぐに出て行った。
暇だな。シンシアと出かけるかな? 機嫌直しに。
□ □
ちょうど今、事務官のエントラに私がクレーターから持ってきた遺品を書斎机の上に広げている。
ここは住宅街にある事務官の屋敷二階。柔らかい日の光が差し込む書斎で、豪華なイスに腰かけているエントラの前にいる。
「ふむ。ジェルド、これで全部かね?」
「はいそうです。後は、マイとマルイドが持っておりますが」
「そちらは大丈夫だ。すでに回収してある」
エントラはニコリと笑みを向ける。今回の調査は貴族が絡んでいたのでギルドと事務官にそれぞれ報告している。
ギルドにはマルイドが、事務官には私となり、今まさに説明を終えた所だ。
そのエントラは満足そうにうなずいた後、遺品を箱にしまうと顔をこちらに向ける。
「後日、ドノバンと協議しょう。ありがとう、ジェルド。君たちパーティーの働きには感謝する」
「ご期待に添えて光栄です。それでは」
立ち上がったエントラと握手を交わし別れる。
メイドの案内で屋敷を出るとホッとする。さすがに緊張した。
今日はパーティーで集まる予定はないから自由だ。こうして一人でいるのも久しぶりな気もする。
大通りに足を向け進んでいく。
思えば奇妙な巡り合わせだ。もし、私が森で倒れていなければ彼らとは出会わなかっただろう。
そのおかげで以前の私なら考えられないくらいの冒険をしている。
それに臆病者だった私も、少しは自分に自信が持てるようになった。
元々、トータス族は湿地の近くで暮らす少数の種族だ。そのため、めったに外の世界へ旅立つ者はいない。
私はあのジメジメした空気が嫌で、乾いた土地を求め里を出た。
しかし、異種族の私には世の中は厳しすぎた。
若さゆえいろいろな町で問題を起こし、逃げるように転々と村や町へと移り住む。
やがてバンガラへ流れ着いた時、この町の居心地の良さが気に入ってしまった。
とはいえ、何もなくはないが……。
気がつくと大通りを歩いている。
私の常宿へ行き部屋へ戻ると、装備を降ろし身軽になる。
この宿も他と同じように一階に食堂を併設しているタイプで、朝食込みの個室料金で泊まれる所だ。
最近はヨシオたちと行動を共にするため、彼らの宿へ越そうかと考えてる。
しかし、あそこの食事はマズイ。安く済ませているからだろうが、私には合わない。
などと考えながら食堂で軽食をとっていると背後から声をかけられる。
「おやぁ、“臆病者のジェルド”がいるたぁ、珍しいな?」
頭を巡らすと顔見知りの獣人が薄ら笑いで立っている。
「何か用かな?」
「なんかつれないなぁ~。聞いたぞ、調査団に同行してたんだろ?」
ニヤけ顔で隣に座ってくる。面倒にならなければいいが。
「確かに同行していたが、それが何か?」
「そうそう、けっこう実入りがあると思ってさ。少しばかり恵んでくれよ?」
ヘラヘラ笑って顔を近づけてくる。たかりに来たのか…。
「以前なら応じていたが、今は違う。失礼するよ」
食事も終えていたので立ち去ろうとすると腕をつかまれる。
「おい! イキってんじゃねぇぞ!? わかってんのか?」
「ふむ。君の方がわかってないようだ。しっかり働きたまえ」
つかまれたまま宿の出口へと歩く。実際、痛くもないし力が弱い。
なかば引きずりながら通りを進んで行く。獣人が必死に抵抗するが無視をする。
「あぁあああ! なんで止まらないんだ! くそ! ぶっ殺すぞ!」
しびれを切らした獣人が叫ぶと、手を放しナイフを抜いてきた。さすがに私も怖くなる。
だが、思い出してもみろ。ヨシオたちはあの巨大なサイクロプスやワイバーンにも果敢に立ち向かっていった。
あの勇気! 私にはまぶしかった。
訓練を受けたとはいえ、まだまだ足りない。私自身が強くならねば。
対峙している獣人に声をかける。
「もう構わないでもらえるかな? 色々と忙しいので」
「ふざけんな! 有り金、全部置いていけぇ!!」
声を荒げる獣人に通行人がギョッとして道を避けている。迷惑この上ないな。
「もう無理だよ。私も変わった。君も変わるべきだ」
「うるせぇ! そんな短い間に変わるかぁああ!」
獣人が叫びながら素早い身のこなしで私に肉薄する。目では追えているが体が動かない。装備は宿に置いてきたのを今更ながら気がついた。
ナイフが私を捉え刺さる間際、誰かが獣人の腕をつかんだ。
「おい、おい。俺の仲間なんだぞ? 何やってんだ?」
ふと見るとマルイドが眉間にしわを寄せ、獣人を睨んでいる。
「誰だ!?」
獣人は手を戻そうとするが、ギリギリとマルイドが締め上げてるので思うようにいかないようだ。
「い、痛てぇええ!」
「そうだろうよ。痛くしてるからな」
相手の腕を離さず近寄ると耳元でマルイドが何かをささやいている。
獣人の顔が真っ青だ。何を吹き込んでいるんだ?
やがてマルイドが手を離すと、逃げるように真っ青になった獣人が人混みに消えて行った。
「ありがとう。助かったよ」
「大丈夫か? だが、ずいぶん良くなったな。これで体が動けばイケるな」
お礼を言うとニッとマルイドが顔を向ける。
「少しは気をつけろよ? 俺たちはいつも一緒ってわけじゃないからな」
頭に手をつけてマルイドはそのまま通りを歩き出す。
いつもふらりと現れるが頼りになる仲間だ。私はその背中を感謝の目で見送った。
ギルドに着くと、ちょうどヨシオとムランに出会った。
ヨシオが気さくに話しかけてくる。
「よお! 今日は遅かったな! ギルドに用か?」
「ええ、図書室で資料を見ようと思いまして」
私が答えると、ムランが目をキラキラさせてヨシオの袖を引っ張っている。
「へー、そんなのあるんだ! オレも見たい! 行こうぜヨシオ!」
「アホか! 文字も読めないのに何を見るんだよ?」
「イラストがいっぱいあるかもしれないじゃん! ちょっとだけだから!」
ムランが笑顔でヨシオを誘っている。カウンターに目を向けるとシンシアが薄目でこちらを見ている。
それに気づいていないヨシオは、しかたない風にムランの背中を叩く。
「わかったよ。少しだけだぞ? うるさくするとシンシアに怒られるから」
「あたりまえだろ! オレはいつも大人しいよ!」
ムッとしたムランが反論している。この二人は実に仲が良いな。
頃合いを見て皆で二階へと行くと、何故か膨れているシンシアが後をついてきている。
図書室に入り、私は目的の資料を探して机に積むと読み始める。
このギルドにある資料や本は閲覧自由だが持ち出し禁止になっているため、ここで読むほかない。
持参した紙に必要なものを書き写していく。
ふと、前方の机を見るとシンシアがヨシオとムランに本を開いて読み聞かせている。
なんとも微笑ましい光景だ。
こうして見ると彼らがはるか遠くの星から来たとは思えない。実に不思議だ。
あの遺跡にあった装置を見なければ、私はいまだに信じなかっただろう。
未知のこの世界へ来た二人。これまでに思いもよらぬ苦労があったのだろうか?
そんな彼らを思うと、私の出来事はささいな事のように思える。
気のいい仲間だ。決して私を見放さない。
それに見合うだけの力をつけなければ。
だが、その前に宿を変えよう。
食事は別にとることにして。




