指名依頼を受ける
翌日、ギルドにマルイドと共に行くと、すでにメイディとムランがカウンターにいるシンシアと話しているのが見えた。
「おはよー。ジェルドは?」
「あ! そう言えばまだね」
シンシアが困った感じで答える。いつも早く来ているジェルドが遅いとは、大丈夫か?
そう言えばジェルドはどこに住んでいるんだ?
メイディが俺とマルイドに顔を向ける。
「……指名を受けた」
「へぇ、初めてだな。誰からだ?」
驚いたマルイドが質問する。確かに、指名ってなんだ?
「……ギルドマスター」
「おい、直接かよ! まいったな」
頭を抱えるマルイド。いや、シンシアの叔父さんだから。何かあったのかも。
カウンターでシンシアが俺に視線を向けて微笑む。
「きっと叔父さんが期待してると思う」
マジかよ…。そんな期待はいらないぞ!
と、ここでギルドの入り口にジェルドの姿が現れた。
「すみません! 寝過ごしました!」
「ホントか? 大丈夫?」
気を遣うとジェルドは後ろ頭をかいて恥ずかしそう。
「い、いえ、大丈夫です。こんな大冒険は初めてのことなので帰ったらホッとして…。目が覚めて驚きました」
「ハハ、お前だけじゃないぞ。全員同じだ」
マルイドが笑いながらジェルドの肩を叩き、俺もニヤリと応える。
全員揃ったところでシンシアから依頼内容を聞く。
それは、森のはずれで何か動きがあるようなので調査して欲しいとの事だった。森のはずれといっても、今まで調査団が向かった方角ではなく浅い森の先らしい。聞いていても全然わからなかった。こういうのはメイディにお任せだな。
進み具合で野宿もありえるとの事で、それなりの準備をして出発することにする。
それほど時間をかけずに必要なものを仕入れて町を出る。
もう少し町でゆっくりしたかったが無理か。
皆で森に近づくと人影が近づいてくるのが見えた。
あれ? 知ってるぞ!
そこには冒険者のマイが手を振って近づいてくる。
「は~い! 元気だった?」
「おい!? どうしてココに?」
マルイドが驚いて声を上げる。ビックリしすぎじゃないか?
両手を合わせてマイがメイディに寄っていく。
「私も連れってよ? ね!」
「……パーティーに入らなければいい」
メイディが冷たい目で告げるとマイは苦笑いで答える。
「なら、補欠でついていくさ!」
なぜかマイは俺に向いてウインクしてくる。何かしたか?
無言でムランが背中にパンチしてくる。コイツはホントうざい。
「……」
そのままメイディは歩き始めたので俺たちも後を追う。
多少の不安を頭に募らせムランを見ると、にへっとしてくる。相談しようと思ったけどムリ。
メイディに近づいて聞く。
「ところで師匠。調査って何を調べるんだ?」
「……音がした」
チラリと横目で答える。いや、全然わからない。音ってなんだよ?
「あー、何かが落下したようなって話しだ。簡単に言うとわからないから調べに行くんだ」
マルイドがフォローしてきた。なるほどね。
荷物を持ち横を歩くジェルドが楽しそうにしている。
「今回の場所は地図でわかる場所なので、記載しなくてもいいから楽ですね」
「いつも悪いな。マッピングばかりさせて。けど、助かっているよ」
「いえ、いえ。私はこういうのが好きですから」
少し照れたようにジェルドが頭をかいている。ホントにいいのか? 俺は嫌だけど。
そうこうしている内に日が沈んできたので、適当な場所で野営の準備を始める。
調査団で経験を積んでいるので設営を簡単に終え夕食後、順番で野営に立つことになった。
持ち回りで俺は夜中辺りに見張りにマルイドと交代する。
皆と少し離れた場所で辺りを見渡すが、月明かりの届かない森の奥は真っ暗だ。とても俺には見えない。
こうやって一人でいるのも久しぶりな気がするな。いつもはムランが引っついているから寂しくはないけど。
「調子はどうだい?」
「うゎああ!!」
突然の声にビックリして振り返る。
と、そこにはマイが木の影から出てくるところだった。
「お、脅かすなよ」
「フフ。悪気はなかったんだ」
冷や汗をぬぐっているとマイが隣に腰を降ろす。
「少し様子を見に来たんだ。嫌かい?」
「そりゃ一人でいるよりはいいけど、マイが後で辛くなるぞ」
「ま、ちょっと話したいだけなんだ」
俺に向き直るマイ。こうして見ると、なかなか整った顔立ちだな。少し鋭さがある。
「話しって何だ?」
「昼間、ずっとあんたらを見てたけど、ずいぶん普通のパーティーと違うねぇ」
フフと笑みを漏らしながら瞳を見つめる。くっ、そんな真っ直ぐ見られると恥ずかしい。
「そ、そうか?」
「ハハ。リーダーはメイディなのに実質的に取り仕切っているのはマルイドだし。それにお前が決定しているのが不思議だよ」
「あー、そう見えるかもしれないけど、リーダーはメイディだよ。皆、仲がいいから言わなくてもわかる感じかな」
意外そうな顔つきでマイが苦笑いをしている。
「そうかい。なら、あんたからも言ってくれよ、私が加入してくれるようにさ!」
「人が増える分には俺はいいけど、師匠が断ったならしょうがない。それか、今回の調査で認めてもらったら?」
「へぇ~、ずいぶん前向きな意見だね。しかし、なんか秘密もありそう」
ニヤリとマイが訳アリ顔で頭をかしげる。くそ、秘密なんかアリアリだよ! 話題を変えよう。そうしよう。
「ところでマルイドとは面識あったの?」
「え!? ああ、王都でちょっとね。ところで、いつシンシアと別れるんだい?」
「付き合ったばっかりだぞ! 別れるわけないだろ!!」
驚いて声を上げるとマイは笑っている。なんなんだ?
「アハハ、そうだね。私もがんばるからさ、見ててよ?」
いきなり俺の頬に手をあて、おもむろに立ち上がるとウインクしてマイは野営の方へと行ってしまった。
なんでだよ? シンシアにぶっ飛ばされるからやめて欲しい……。
翌日、マイも含め皆で朝食をすませて先を進む。
木々がまばらになる頃、目的地と思われる場所へ着く。
その光景を見たメイディが俺に目を向ける。
「……どう思う?」
「隕石が落ちた跡かも?」
そこには直径五~六メートルほどのクレーターがあり、周囲の木は衝撃で折り倒され、岩が飛び散っていた。
近くには倒れた馬車が車輪を一つだけ残し、大破しているのが見える。他に人影はない。
マルイドが馬車に近づき様子をうかがっている。
見渡せる場所にマイがいて、周囲を警戒しているようだ。
さっきからムランが背中にぴったり張りついているのはナゼだ?
馬車に向かうと何かを発見したマルイドが振り向く。
「これを見ろ! 紋章だ。貴族の馬車だったんだ!」
破損した板に張ってある木彫りの紋章を見せる。確かに昔、世界史の教科書で見たのに似てるな。
「乗っていた本人たちは?」
「わからん。跡形もない」
渋い顔で辺りを見回すマルイド。つられて見るが俺たち以外はいないようだ。
その時、クレーターをずっと眺めていたジェルドが一歩後ずさり叫ぶ。
「底に何かいる!! みんな気をつけろぉおおおーーー!!」
全員がクレーターに注目すると、雄たけびが聞こえてきた。
「ヴォオオオオオオオッ、オオオオオオ!!」
ズドォン! と重い足音がして何かが登る振動が聞こえる。
皆、身動きせず様子を見ている。ムランが俺の服をギュッとつかむ。
「ヴォオオオオォオオオ!!」
雄たけびと共にヌッとクレーターからそれは顔を出した。
「マジかよ……」
唖然としているマルイドがつぶやく。
本物を見たのは初めてだけど、知ってる顔だ。
翼は無いがあの顔つきはまさしくドラゴン。
これって倒せるの?




