ムランが一人で買い物に
ふん、ふん、ふふ~~ん。
今日は機嫌がいいので鼻歌を歌いながら通りを歩く。
仕立て屋のドアを開け中に入ると、アイルお婆さんがカウンターの後ろに座っているのが見える。
「いらっしゃい。あら、かわいい子だね」
「オレだよ、ムランだよ! 大きくなったんだ!」
「おや、ホントかい! 近くに来ておくれ」
そのままアイルお婆さんの前まで行くとお婆さんは背もたれ付きのイスに腰掛けオレを観察している。
「どう? よく見えるか?」
「ええ、よく見えるよムランちゃん。本当に大きくなったんだね。かわいらしい顔だね」
目を細めてアイルお婆さんはオレの頭をナデナデしてくれる。頭をなでてもらうのは好きだな。ヨシオはたまにしかしてくれないけど。
「ところでどうして来たんだい?」
「あっ! そう、そう! 相談しにきたんだ。男の人にプレゼントするなら何がいいかな?」
「フフフ。そうだねぇ、ペンダントとかは?」
「それはもうシンシアがプレゼントしたよ。あいつ、たまに取り出して見てはニヤニヤしてて気持ち悪いんだ」
うへ~って顔で感想を言うとアイルお婆さんが笑っている。
「そうかい。なら、腕輪はどうかね? それか指輪とか?」
「腕輪か~。いいかもしれない! ありがとう! アイルさん!」
アイルお婆さんの両手を握りお礼を言って店を後にする。やったー! 決まりだね!
通りを歩いている時にに気がついた。
どこで腕輪って売ってるんだろう? 武器屋かな?
立ち止まって考えていると知らない二人組が声をかけてきた。
「お嬢さん今、暇かな? 串焼きでもどうだ?」
「いらないよ! それに暇じゃないから、あっちに行って!」
断ると、一人が何かを言おうとするのをもう一人が留める。
「ヤバイぞ。こいつ、あのヨシオの連れだ。知られたら恐ろしい事になるぞ」
そう耳元でささやくと、引きつった笑いをして二人が逃げていった。そんなに怖いかなぁ、ヨシオって?
ここで思い出して、行きたくないけど教えてもらいにアンジェロの店へ向かった。
「めずらしいわね。一人なの?」
オレに気がついたアンジェロがカウンター越しに聞いてくる。あの、でかいオッパイは健在だ。
「ちょっと聞きたい事があってさ」
「なにかしら?」
拭いていたカップを戻し、オレの対面にくる。このプルプル揺れる胸、ホント嫌い!
「腕輪ってどこに売ってるの?」
「あら? プレゼントかな、ヨシオに?」
フフっと微笑むアンジェロ。むー、素直に言われると照れる。
「そ、そうだよ。相棒だからね!」
「なるほどね。それなら、そこの通りを真っ直ぐ行って、馬小屋を右に曲がると市場に行けるわ。一人で大丈夫? ついていく?」
「も~~! 子供じゃないから一人で行けるよ! これでも成人なんだぞ!」
アンジェロの扱いに憤慨する! オレは記憶力がいいんだぞ!
「あら、そうだったんだ。意外と年齢不詳よね、ムランちゃんは」
「なんだよ、それ! これでも七〇歳なんだぞ! バカにするな!」
オレが声を上げるとアンジェロは驚いてマジマジと見てきた。
「ビックリ! 私より年上じゃない。でも、妖精だもんね、ムランちゃんは」
フフっとアンジェロが微笑んできた。もー、なんだよー。
「そんなこと、どうでもいいよ! ありがと、行ってみる!」
ぶっきらぼうに言葉を残して酒場から出る。アンジェロはニコリと手を振って見送ってくれた。
教えてもらった通りに進んで行く。
だいたいオレが道を間違えるわけないじゃん! あのアホのヨシオはともかく。
……あれ~。
気がつくと知らない所に出ていた。奥に伸びる細長い家が建ち並ぶ、不思議な場所だった。
どこだろ? ココ。
戻るにしても帰り道がわからない。どうしよう……。
途方に暮れて通りの隅で立ち止まっていると、見慣れたフードの女性が通っているのが見えた! やった、助かった!
「メイディーーーー!!」
叫んで走る。突然の事にビクッとしたメイディは、ぎこちなくこちらに顔を向ける。
「良かったぁ~~。迷っちゃってさ、会えてよかった!」
メイディに抱きつくと困ったようにフードを取ってオレを見る。
「……どうしてここに?」
「市場に行こうとしたら道がわかんなくなっちゃった。良かった! メイディがいて!」
にへっと笑いかけると困惑しながらもオレの背中を優しくさする。
体を離してメイディがオレの手をつなぎ歩き始めた。連れてってくれるのかな?
「…仕事がある。その後で案内する」
「ホント! ありがと! さっすが~、頼れる~!」
笑顔でお礼を言うとメイディは顔をそらした。照れ屋だなぁ。
少し歩いた先で奥に細長い建物の一つに入っていく。扉には三角形のようなマークが描いてあった。なんだろ?
建物の中は棚がいっぱいあって、そこにはよく知っている小瓶が並んでいた。これはポーションを入れる陶器の瓶だ。メイディは小瓶を作ってるのかな?
棚の間を進んで行くと、カウンターをしつらえた受付のような場所に出た。そこには小柄の女性がいて、オレたちに気がついて話しかけてくる。
「お疲れさまです、メイディさん! あれ? その子は…?」
「……パーティーメンバーの一人、ムラン」
メイディが紹介すると女性は感激したのかオレに近づいて来る。
「うそ! あの噂の妖精……。かっわいい~~~!!」
身の危険を感じ逃げようとすると、ガバッと抱きつかれた!
「私、会ってみたかったの! 嬉し~~い!!」
「離せーー! オタンコナス!」
必死に抵抗したけどギューッとされて抜け出せない! 助けてヨシオーー!
「…ハンナ! 止めて!」
メイディが引き離してくれてホッとする。怖かったー。
慌てたハンナが謝ってきた。
「ごめんなさい。かわいいのと嬉しかったので、つい。ごめんね、ムランちゃん」
「いいよ。かわいいオレが悪いから」
胸を張って答えると冷たい目をしたメイディに腕をつねられた。痛いよ! もう!
「……仕事」
「あ! すみません! これを」
メイディの一言にハンナが急いで鍵を取り差し出す。
受け取るとさらに奥へと歩き始めるメイディ。また襲いそうなハンナの目を逃れて後を追う。
あるドアの前に立つと鍵を開け中へと入るのでついていく。
そこは倉庫の様な空間で、隅に乾燥した草が積み上がっていて、その横には粉砕機のような装置がある。
近くには大きな寸胴鍋が置いてあり、側に水がめと棚があった。棚はよく見るとあの小瓶がたくさん並んでいた。
部屋を見渡しあきたところで聞いてみる。
「メイディ、ここって何?」
「…ポーションを作る」
返事をしながらメイディがローブをハンガーへかけ、草の所へ進む。
「へぇ~。いつもヨシオにあげてるポーションって、ここで作ってたんだ」
「……そう」
乾燥した草の束を粉砕機の投入口に入れ、横についているハンドルを回し始める。
すると、出口から粉が出てきてバケツに吸い込まれていく。へぇー面白そう。
ある程度粉を作るとバケツの中身を鍋に投入し、水がめから透明な液体を入れかき混ぜる。
液体に粉が溶ける頃、メイディは目を閉じ集中しているみたい。何やるのかな?
手をかざし、淡い緑色の光が鍋を包む。
しばらくすると光は消え、メイディは小瓶を持ち、ひしゃくでグリーンに染まった液体をすくい入れていく。オレにもできそう!
「メイディ! 手伝うよ! いいだろ?」
頃合いを見てひっついて聞くと、うなずくメイディ。
「どこをやる? あのグルグル回すのでいい?」
「…ダメ。最後の仕上げを手伝って」
オレの手を引いて鍋の前まで連れてきて、メイディが先ほどの粉と液体を入れかき混ぜる。
「…十分にかき混ぜてから魔法を注入する」
「ん? どんな魔法なの?」
「…この薬草の効果を増幅させる魔法。注いだ魔力で効果が変わる」
ん~。つまり、いっぱい魔法をかければいいってことかな?
「わかった! これにやればいいんだね?」
「……そう」
メイディは一歩下がり、オレの魔法を見守るようだ。見てなよ!
鍋に手をかざし、目を閉じる。ヨシオが元気になるよう想いを込めて魔法をかけてみる。
──身体から魔力が放出されるのが感じられる。こんなものでいいかな?
とりあえず止めて鍋を見ると液体がブルーになっている。あれ? グリーンじゃないの?
メイディに視線を送ると目を見開いてる。
「これって、失敗?」
オレの一言に我にかえったメイディが、慌ててひしゃくで液体をひとすくいすると、少し口につける。
「!!」
驚いた顔でオレを見るメイディ。どうしたの?
「…上出来! もっとやる!」
「良かった! 失敗かと思ったよ! じゃんじゃんやるね!」
オレが喜ぶと、メイディは嬉しそうに準備を始める。がんばるぞー!
それからこの部屋の材料が無くなるまで作業を続けた。
いっぱい作ったなぁ!




