報告して休息する
ギルドに戻るとマルイドがカウンターにいてメイディと話している。
「ちょうどよかった。明日は調査団も加わっての報告会だ。よろしくな」
俺の肩を叩いてマルイドがギルドを出ていく。ジェルドはぐたりしてラウンジの方へ足を向けていた。
メイディはシンシアと抱き合い少し話してから俺に視線を送って出口へと消えていく。一言ないの?
残った俺とムランはとりあえず風呂屋へ行くことにした。さすがにさっぱりしたい。
その後はシンシアと合流して一緒に食事をすることに。
「シンシアは優しすぎだ! ぶっ飛ばすかと期待してたのに!」
風呂屋の帰り道、怒っているムランが隣を歩いている。つか、お前ってホント意地悪だな。
「あのなぁ、お前は俺の彼女じゃないだろ?」
「そうだよ! 相棒だから言ってるんだろ! トーヘンボク!」
頬を膨らませるムラン。ツンデレってやつ? お前の相棒の定義が知りたい。
そうこうしてシンシアの家に入るとメイディがテーブルについていた。
「師匠も来てたのか。言ってくれればいいのに」
「……面倒」
フッと顔をそらす。照れ屋か!?
そこにシンシアが料理を運んでくる。
「もう少し待って。他にもあるから」
パタパタと台所へ戻っていくので俺も手伝いに向かう。目の端に一緒に行こうとするムランをメイディが抑えているのが見えた。ありがとう師匠。
用意をしているシンシアを後ろから抱きしめる。
「手伝うよ?」
「フフ、ありがと。お願い」
振り返って短いキスをすると、シンシアが料理を盛った木の皿を渡してくる。受け取り、テーブルへ運んで並べていく。
「それでは! 無事に帰ってきたお祝い! お帰り、みんな!」
シンシアが酒の入ったコップを掲げる。俺たちも同様にして再開を祝した。
相変わらず美味いシンシアの料理に舌鼓を打ち堪能する。ああ、サイコーだ。
ムランは頬をいっぱいに膨らませモグモグしている。リスのようだ。タコだったくせに。
対照的にゆっくりと口に運んでいるのがメイディ。こうして見るとカッコイイ大人な感じだ。しゃべらなければ。
食事をしながらシンシアに遺跡で会ったアラクネたちや、ロボットのボイドの事などを語って聞かせる。
まるで子供の様に好奇心いっぱいに熱心に聞いて質問するシンシア。
そういえば、シンシアはこの町から出たことがないとか言っていたな。
地球に連れて帰ったら、あちこちを案内するのも良いかも知れない。
俺の視線に気がついたシンシアが微笑む。以前なら睨んでいたのに、この落差。かわいすぎる。
夜遅くにムランをシンシア宅へ残し安宿へ向かう。
明日は報告か……。一波乱ありそう。
翌日、マルイドとジェルドを伴いギルドに行くと、シンシアに二階へ案内される。
ある一室へ連れて行かれるとそこには調査団の三人、コルサバ、ノービル、マルクの顔が見え、メイディとギルドマスターもいた。あと、身なりの良い恰幅のいい男と商人のような雰囲気を持つ男が二人、着席していた。
「待ってたぞ。皆を集めたので最初に紹介してから報告してもらおう」
ギルドマスターのドノバンが立ち上がりそれぞれを紹介する。
恰幅のいい男は事務官のエントラ。王都より派遣されこの町を実質的に取り仕切っている者のようだ。
商人っぽい二人はそれぞれ、ジェドとオースティン。この町の商人をまとめている代表らしい。
基本的にこの場にいる者たちが、バンガラの町のトップになるのか。警察みたいのがいないけどいいのか?
その後、俺たち──というよりマルイドがアラクネたちの事などを報告していく。
未調査の地域で交流可能な異種族の話しに皆、興奮している。
ジェルドが地図を取り出し場所の説明をする。移動の行程を細かく話し、その観察眼に感心する。やるな、カメ!
最終的にアラクネたちとの交流をどうするかで意見が二分している。
ギルドマスターと事務官、調査団のコルサバ、ノービルが慎重派で、商人二人と調査団のマルクが積極派と別れて意見を言い合っている。
いい加減、面倒くさくなってきた。早く終わって欲しい。
手を上げると皆が注目する。
「ひとつだけ。アラクネはとても美しい顔立ちで胸もでかい!」
一瞬の沈黙が降り、ノービルがゴホンと咳をして話し始める。
「この調査には私が必要だな。明後日にも出発するつもりだ。いいかな?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕も同行します!」
慌てたコルサバがテーブルに両手をついて席を立つ。
すると今度は誰が行くかでもめ始めた。
隣に座っていたシンシアが俺の腹をつねり、メイディとムランが俺を睨んでいる。いや、だって、ね。
恐ろしくなってマルイドに視線を向けると苦笑いで親指を立てて応える。やったね、じゃねぇよ!
……結局、調査団の三人と商人一人が同行することで決着し、報告会は解散となった。
やれやれ、皆、美人には弱いなぁ。
□ □
ヨシオたちと別れ、一人、路地裏の酒場へと入る。
ここは隠れ家的な所で、一人で考えるのにおあつらえ向きな、静かで小さいのが気に入っている。
酒を注文し、奥にあるテーブルの席へ腰を降ろす。
ふぅー。やっと落ち着いたな。
全くなんてことだ、調査団を差し置いて新発見とはな。しかも異種族交流も始まりそうだ。
ここ数ヶ月で一生分の経験をしているようだな。ハハ、面白い!
「私もいいかい? マルイド」
突然の掛け声に驚いて顔を上げる。そこにはコップを手に持った冒険者のマイがにこやかに立っていた。
「ああ、どうぞ」
冷たい汗を感じながら返事をする。まったく気配がわからなかった。ただの冒険者じゃないな、この女。
対面に腰掛けるとニヤニヤしてマイが身を乗り出す。
「聞いたよ? なんでもアラクネと知り合ったようじゃないか。ハハ、すごいねぇ」
「なぜ知ってる!?」
いつでも飛び出せるよう腰の後ろにあるナイフに手をかける。
「そんな怖い顔しないでよ。私も同業よ、同じ王都から派遣されたの。監視対象は違うけどね」
マイは気楽な様子でコップを傾け中身を飲む。ということは、昨日報告したことが流れていたということか。
しかし、俺たち以外にも密偵はいたのか……。確かに考えられるが、一体何人いるんだ?
「で、なんの用だ?」
「実はさ、私もメイディのパーティーに入れて欲しくて。口利きしてほしい」
「は!? 待てよ! 監視と関係ないだろ?」
驚いて声を上げる。静かな店内で目立つ行為に自分で舌打ちする。くそ! 俺は間抜けか。
「フフ、ビックリした? どうだい、同業のよしみでさ?」
「俺じゃなくてメイディに言えよ。あの調子じゃ、誰でも入れてくれるさ」
「だといいけど。知ってると思うけど、あんたら噂になってるよ。いいのかねぇ、密偵が目立っててさ」
マイが痛いところを突いてくる。ヨシオたちが目立つあおりで、俺やジェルドまで有名になってきているのは気がついていた。
「それで仕事には支障はないさ。それに、お前の目的はヨシオだろ?」
「……」
押し黙って頬を染めるマイ。分かり易いな、ホントに密偵か?
ようやく口を開く。
「…いいだろ、別に!」
「人の恋路にあまり言いたくないが、シンシアがいるだろ? 諦めろよ」
「あの子は運がいいだけだ、私が鞍替えさせてみせるよ。さっそくメイディの所にいくから。じゃあね、紳士さん」
言いたいことを述べるとマイは立ち上がり、ウインクして去って行く。
……まいったな。しかし、なんでかヨシオはモテモテだな。あのアラクネにも好かれてるしな。
たぶんマイの監視対象は冒険者だな。あの隠密の腕はあなどれない。俺も気をつけよう。
しかし、どこにいても休まる気がしないな。
仲間全員を巻き込んでやがる、あの二人は……。
ここでふと気がついた。
しまった! マイめ、俺のおごりになってやがる!
とりあえず一人を満喫した後に、安宿へ戻ることにした。今日は早めに寝よう、ろくな事がない。
道すがら近づいて来る影が見える。ふと視線を向けるとマイだ。何か怒っているような雰囲気。
「ちょっと! 断れられたじゃない! どういうこと!?」
「は!? 知るか。メイディの気分が悪かったんだろ」
俺にくってかかるマイに反論する。
だが、こうなることは予想していた。メイディが女冒険者を新しく入れるわけがない。
なぜなら、ライバルが増えるから。ムランだけで十分と思ってるんだろうな。
「いいよ、もう! 勝手についていくから! 覚悟しろ!!」
そう俺に指を立て宣言するとマイは何処かへと人混みに消えていった。
また面倒が増えそうだ。頭が痛くなる。
しかも、飲み代を払ってくれそうもない。




