初めてのチュー
アラクネたちはわざわざ俺たちのために席を用意してくれたらしく、急ごしらえで丸太を切った少し荒いテーブルの上には里の料理が並んでいた。
すでにアラクネたちの胸には糸を束ねたような布を巻いて、魅力的なものを隠していた。残念だ。
そんな俺の視線に気がついたのかアラクネの一人がニヤリとしている。
族長の合図で宴会が始まり、里の料理に手をつけてみる。
木の実や何かの動物の肉などを調理しており、意外と旨かった。隣に座っているムランはガツガツ遠慮なく食べてる。ホント、食いしん坊キャラだ。
しばらくするとネウルがやってきた。
「どうだ、里の食い物は? 口に合うか?」
「全然イケる。美味しいよ」
俺の答えに安堵の表情を浮かべるネウルが前に座る。
「良かった。人族の味覚なんてわからないからね」
「…一緒。かわらない」
メイディが微笑む。ニコリと笑みで応え、オススメを紹介するネウル。
聞くとこの里近辺で採れた木の実や果物、それに動物を狩って食料にしているようだ。あまり俺たちと変わらないな。
腹が満たされる頃には俺たちの周囲にアラクネたちが集まって来ている。
どうも人族の事が聞きたいようで、俺とマルイドで町の事や仕事など営みを話すと興味深そうに聞いていた。
ついでアラクネたちの生活を聞きお互いに説明し合った。交流してるなぁ。
やがて宴は終了し、族長たちと話し合うために遺跡へ移動した。
そこではバンガラから調査団が派遣されるであろう事。王国や町の管轄についてマルイドが説明して族長らに理解してもらう。
「問題は私になりそうだな」
一通りの説明の後、ボイドが手を上げると驚いた族長が反論する。
「使者殿は問題ありません。私たちがお守りいたします」
「ありがとう。今の説明だとムランは古代種の末裔となっている。それなのに祖先がいまだにいるのはオカシイ」
片手を頭の下につけ考えながらボイドが語る。
「でも、こんな辺境だから、たまたま生き残っていたとかでいいんじゃないか?」
提案してみると皆、渋い顔。くそ、ヘタこいた。
黙ったボイドは皆を見渡して、
「本当の事を言うと寿命が近いのだ。予備パーツは全て使い終わり、エネルギーも少ない」
「まさか! そんな、使者殿! 私たちをお導きください!」
族長がボイドの手を取り懇願している。困った顔でボイドが優しく族長の手を離す。
「このような時ですまない。ちょうど交流できそうな他の種族とも出会えた。良い機会だ」
「オレは!? せっかく同郷に会えたのに!」
ムランが悲しそうな顔で主張する。
「すまない。最後に我が星の主人を見れて良かった。少なくともあと五年は稼働可能だ。その間に族長に引き継ぎをしておこう」
「使者殿……」
うなだれる族長の足にボイドが手をつける。
「もし戻れたら、回収してもらえるように頼むよ!」
ムランが励ますように言う。しかし、ボイドは頭を横に振ると真っ直ぐにムランを見つめる。
「私は長い間、業務を遂行しました。そろそろ休ませてください」
「わかったよ……」
目をつぶったムランが俺の腕に顔をうずめる。空いた手でムランの頭をなで落ち着かせる。なんで睨むんだ師匠。
話し合いはその後も続き、思いつく限りの意見交換をして、その日は終わりを告げた。
翌日、族長とボイド以下、アラクネたちに見送られながら里を後にバンガラヘ旅立っていく。
途中までは、ネウルたち少数の部隊に護衛してもらえることになった。これで帰りは安心だ。
巨大な敵でなければアラクネたちの方が強いようで、道中に出会ったゴブリンなども軽くあしらっていた。スゴイな!
野宿している時、ネウルは俺に借りた服を返そうとしてきたが、そのままにしてもらった。さすがに無理。
やがて森の浅い部分に来た時、ネウルたちは歩みを止めた。
「私たちはここまで。皆には感謝している」
ニコリとネウルが微笑む。他のアラクネたちは少し残念そうにしている。楽しかったのかな?
「そうか、こちらこそありがとう。帰りは助かったよ」
なんとなく俺が代表で近づきお礼を述べると、ネウルの手が伸び抱きしめられる。
しかも腕二本だけじゃなく、四本の足も使ってガッチリ捕えてる。おい! なんで!?
「ヨシオってツガイはいるのかい?」
間近に迫った顔で聞いてくる。近すぎ! あと、胸がつぶれて当たってる。
「い、いるぞ! とびきり最高の女が!」
「ふ~ん。ま、交流がもう少し盛んになったら会いに行くから。覚悟しな」
そう言うと唇を奪われ、深い口づけをしてくる。体が動かないから抵抗できない! 助けて!
しばらくすると顔を離すネウル。顔が真っ赤。
密着してるから早鐘のように胸のドキドキが伝わってくるし、俺もドキドキだよ。
「初めてだから。き、キスするの……」
そんな初キスはいりません。いや、良かったけど。違う! 気持ち良かったけどダメだ!
告白をしたネウルはそっと俺を放す。名残惜しそうな顔をするな!
刺さる視線に後ろを振り向くとムランとメイディが恐ろしい形相で睨んでいる。おいぃ、怖い。
慌ててネウルに叫ぶ。
「お前と俺は種族が違い過ぎるだろ!?」
「カンケー無いね!」
ニッとしてネウルはおもむろに後ろ脚で素早く下がっていく。つられて他のアラクネたちも手を振って森の奥へと帰っていった。
あんまりだ! 逃げたぞ、あの女!
「このアンポンタン! ふざけんな! 絶対に、絶対にシンシアに言いつけてやる!」
激怒しているムランがパンチしながら怒鳴っている。くそ、最悪だ。
かまわず即、土下座して懇願する。
「お願いだ! 言わないでくれ!」
「イヤだね!!」
ふてくされたムランがツンとしている。その後ろには腕を組んで冷たい視線を向けるメイディ。
なんでお前らが嫉妬してんだよ! シンシアならわかるけど。
呆れたマルイドが頭をかきながら近づいてくる。
「お前ら帰るぞ、町はもうすぐだ。続きは役者が揃ってからだな」
一言、きびすを返し歩き始めると、静観していたジェルドが慌てて後を追う。
俺に一瞥くれてメイディとムランが続く。
トボトボと皆の後についていった。
ほどなく町へたどり着く。
そのままギルドに行き、中に足を踏み入れるやシンシアがすっ飛んできた。
「遅い! バカ! 何日待ってたと思ってんの!?」
「すまない」
勢い抱きついてきたシンシアに謝り唇を寄せると、しかめ面して離れられる。
「あんた、他の女の匂いがするんだけど?」
「えぇ!? まさか! いや、違うから!」
鋭い指摘に慌てて言い訳すると、ムランがシンシアに耳打ちしている。おい! 余計なコト言うな!
表情がみるみる鬼になってきてギロリと俺を睨む。
「き、聞いてくれ! それには訳が…」
「その話しは後だ。すぐにギルドマスターに会いたい。いるか?」
マルイドがさえぎりシンシアに聞く。おいっ! 言い訳させて!
「ええ、上にいるけど…」
「わかった。ちょっと報告に行ってくる。後でな」
とまどったシンシアが答えると、後ろ手を振ってギルドの奥へ勝手に進んでいくマルイド。いいのか?
オロオロしているジェルドをつかまえて一緒にシンシアに説明する。というか説得する。
メイディはムランの味方なので当てにできない。
腕を組んで話しを聞くシンシア。途中で何度もムランがヒソヒソと耳元で補足している。絶対悪口だ、コレ。
話しが終わるや、怒り顔のシンシアが俺の手を引いてギルドを出ると横手に連れていかれる。
「し、シンシア、どうし」
突然唇をふさがれる。何これ? いいの?
そのまま抱きしめて深く重ねていく。やっぱりシンシアが一番。
シンシアはスッと唇を離し上目づかいでささやく。
「浮気したらブッ飛ばす! 今回は事故だから許す」
「俺はシンシアだけだ。できればずっと抱きしめていたい」
「良し」
頬を赤く染めてシンシが頭を胸につけギュッとする。やっとホッとできた。
しばらく抱きしめてから体を離し周りを見渡すと、人だかりが輪になっている。おい! またかよ!
うつむいたシンシアの手を握って歩き始めるのを合図に、一斉に見物人が散っていく。
また噂が増えたよ……。




