アラクネと遺跡
落ち着いたアラクネに俺たちの事を話し納得してもらった。ホントかどうかわからないが。
とりあえず俺の上着を着てもらい、一緒に仲間のところに行ってもらうことになった。
こうして隣を歩くアラクネをよく見ると、上半身だけなら人目を引く美人だ。クモの足で直立すると俺よりも背が高い。
「私はネウル。助けてくれてありがとう。聞いた話しと違うのでビックリした」
「話し?」
「人族は我々を見つけては捕らえ、慰みものにして殺すと聞いていた」
ネウルは顔を前方に向けたままで、ちらりと横目で俺を見る。
「そうでない人族もいて安心した。私は運が良い」
そう言って顔を向けるとニコリとする。人間とは違う艶やかさ。いや、だめだ! ドキドキするからやめてください。
「な、なんであの巨人と争ってたんだ?」
「最近、オークがいなくなったから縄張り争いが頻発しているのさ。それで偵察に出てた私が運悪く鉢合わせしてね、後は見ての通り」
顔を傾け苦笑いしているネウル。ヤバい、それって俺らが原因じゃん。
「へー。ヨシオがあんなにオークをやったからだね。きっと」
ムランが余計な事を言い出す。眉をしかめ、目を細めるネウルに慌ててフォローする。
「ま、町の調査団の一員として森に行った時に、オークの襲撃を受けて撃退したんだよ。そりゃ大変だったな!」
「ふ~ん。サイクロプスを倒すし、あんたって強いね。ますます私は運が良い」
ネウルは表情を戻すとニッとする。ホッ、良かったー。
メイディたちと合流しアラクネが姿を現すと皆、目を見開いて驚いている。
慌ててネウルを紹介して、予備の上着を着てから仲間にも危害を加えないように説明した。
「お前らって、ホントに何かやらかすな。しかもサイクロプスを倒すとはな」
マルイドが顎に手をつけて感想を述べ、メイディは薄目を向けている。ジェルドはネウルの美しさに頬を染めていた。
メイディがポーションをネウルに渡し、俺が説明すると飲んでもらえた。体の傷が癒えたようで喜んでいる。
「ネウルに折り入ってお願いがあるんだけどいいか?」
「私にできることなら。命の恩人だしな」
フフと嬉しそうなネウル。クモの足だから座っても座高が高い。必然と俺たちは立って話す格好になっている。
「実は君たちの所にある遺跡を調べたいんだけど、いいかな?」
「遺跡?」
ネウルは頭を傾けている。どうも違うようだ。
「いや、四角形の模様のある大きい岩なんだけど。わかる?」
「それは…神殿のことか? それなら族長に聞かないと…それか使者殿か」
少し考え込みながらネウルが答える。たぶん合っているのか? マルイドに目を向けると難しそうな顔をしている。くそ、判断できない。
「い、一応、交渉してもらっていいかな?」
「わかった。だが、先に私を行かせてほしい。じゃないと攻撃されるよ」
意地悪い笑顔をするネウル。Sなのか?
とりあえずお願いしてネウルが先導して里を目指す。しかし、ずっと無口だなムランは。あんなにおしゃべりなのに。
アラクネの里は想像と違って、入り口の大きい簡素な家がポツポツと立っていて文明的な雰囲気を感じさせた。
てっきりクモの巣が木々に張り巡らせてあるかと思ったが違ったようだ。
ちょうど俺たちを発見したアラクネの一人がネウルに何か言うと、素早く奥へ行ってしまう。大丈夫なのか?
「ここで待ってて。そのうち族長がくるよ」
俺たちを見渡してネウルが説明する。と、奥が騒がしくなってきた。
「ホントに大丈夫かよ? 最悪、俺は逃げるからな」
そっとマルイドがささやく。それを聞いたジェルドの顔が青くなり、メイディが睨む。ムランはなぜか俺に寄り添ってきた。
「ここはネウルを信じよう。じゃないと生きて帰れないぞ」
マルイドに耳打ちして前を向く。
すると、銀髪の美しいアラクネを筆頭に何人かが出てきた。が、俺たちの目を奪ったのはその隣で歩いている生物だった。
「おい、ムラン!」
「わかってるよ。仲間って言いたいんだろ」
ムランが俺の背中をつねる。
そう、そこにはあの、タコ型宇宙人がいる。マジかよ……。こんな所で出会うなんて。
銀髪のアラクネは俺たちの前へ来ると立ち止まりネウルに視線を向ける。
「ネウル、これはどういうことだ? 人族を生かして連れてくるなんて」
「族長! 私がサイクロプスに襲われている所を助けられたのです。彼らは神殿が見たいと申したので連れてきました」
ひざまづいたネウルが族長に説明している。族長はそれを聞きながら俺たちを値踏みしているような感じだ。
そこへタコ型宇宙人が出てきた。ホントにムランの仲間なのか?
「この中にイプシロン星人がいるようだ。君かな?」
タコの腕がムランを指す。
「オレがそうだ」
ムランが一歩前へ出る。大丈夫か?
「確かに体細胞組織や遺伝子は同一だ。ずいぶんと大きくなったな。名前は?」
「ムラン・テレアスタ・フィール」
「該当データは見当たらず。すると移民ではないようだ」
なにやら考え込み始めたタコ。族長たちはそれを固唾をのんで見守っている。
やがて顔を上げると族長に頭を向ける。
「彼らを私の“家”へ案内しよう。これからは客人として扱って欲しい」
「仰せのままに、使者様。皆、聞いたか! こいつらを襲うんじゃないよ!!」
族長が叫ぶと周りから了承の鳴き声がこだまする。ふと辺りを見ると木々の間に隠れるようにアラクネたちが見える。
しかしよく見ると、みんな胸がでかい。アンジェロもビックリだ。ネウルとメイディのを思わず見てしまう。
二人は何か気がついたように俺を睨んできた。怖い!
立ち上がったネウルはタコと一緒に俺たちの案内をするようで先を歩いている。
族長はその様子を見守り、何かを指示していた。
近くにいるアラクネたちは興味津々に俺たちを観察している。よっぽど珍しいのかもしれない。
むしろオッパイ祭りの景観にムランとメイディに左右の腹をつねられる。しかたないだろ! 見えるんだから!
マルイドもガン見だ。堂々としていてカッコイイ! 反対にジェルドは恥ずかしそうに下を向いて歩いている。
やがて四角形の見慣れた遺跡が姿を現す。外壁が白く輝き、花などが飾ってある。ネウルが“神殿”と呼んだ意味がわかった。どうやら神聖な建物のようだな。
タコが馴れた手つきで壁の穴に手を入れるとドアがスッと開く。
「こちらだ」
率先してタコが中へ入っていく。ネウルはこの場にいるようで目で先に行けとうながしている。
なぜか俺が先頭でタコの後をついていくが、後ろにいるムランは俺の服をつかんでいる。怖いのか?
通路を少し進むとドアがあり、タコに続いて入る。
そこには隅に消化器のようなものがある以外は何も無い部屋だった。しかし、ムランの星はシンプルな物が多いな。
タコが壁にある穴に手を入れると部屋の機械が起動したようで天井が明るくなり、壁一面に画像が映し出される。
そこには遺跡に書かれていた文字や図柄などが浮かんでいた。
一通り作業を終えたタコが振り返りムランを見るので、背中に隠れていたムランを前に出す。
「まず私の話しをしよう。先ほどスキャンした結果、時代が違うようだから」
「時代?」
「そうだ。私は君より二百年程前の世代だ」
タコの言葉にムランが驚きで喉を鳴らす。いや、それにしては外見はもっと古いような?
ついで俺に手を示すタコ。
「そこの男はこの星の生物ではないな。どこからだ?」
「地球だ」
「チキュウ? データに該当せず。後で話そう」
タコは視線をムランに戻すと姿勢を正す。
「私は移住調査隊に同行していた生体モジュール型ロボット。二四型、製造番号一〇〇三八五二七。主な任務は業務の支援。基本データのほとんどは事故により破損または損傷を受け修復不能。現在、我々が設置した稼働可能施設は、ここを含め二ヵ所のみ。この世界にいる純粋なイプシロン星人を一人確認。あなたに会えてよかった」
タコ型ロボットが口を閉じると沈黙が降りる。押し黙ったメイディたちの頭の上にハテナマークが見える。
ムランは衝撃的だったのか顔が青くなっている。このロボットについては知らなかったのか?
肩を抱くと身を寄せてくる。って、胸が当たるよ!




