ムランは思う
「……ムラン、魔力が無くなると最悪、死ぬ。気をつけて」
「わかったよ。オレはヨシオじゃないからヘマしないよ!」
メイディの家にあるテーブルで向かい合って説明を受けている。オレが答えるとメイディの目つきが変わった。
「ダメ! 二人とも生きる! 死ぬのは絶対に許さない!!」
あまりのメイディの迫力にコクコクとうなずく。こ、怖いよーー! なんでこんな時にいないんだヨシオ!
しばらく説教が続き、クドクドと魔力の扱いの難しさを説かれた。はぁ~大変。
メイディはいつもとても良くしてくれるし、なんといっても魔法の師匠だ。口数は少ないけどオレには優しい。反対にヨシオには厳しいケド。
そのヨシオは隣に住むシンシアの所で体を休めている。一体、あんな魔法を思いつくなんて地球人って何者なんだ?
オレの星と比べて地球の科学技術はかなり遅れているが、文化の度合いは高い気がする。
といっても地球での滞在時間はあまりにも短い。地表へ降りると、すぐにヨシオを発見して機体へ誘導したのだから。
当然、サンプルは全てヨシオが基になる。
がさつでお調子者のくせにオレやメイディたちの事を気にかけて、バカだけど親切で一緒にいると安心する。
っと、違う! あいつの分析じゃない、文化だ。
話しを聞くと地球では様々な娯楽があるようで驚く。合理的なオレたちの文化では知的な遊戯が主な娯楽だ。
だからヨシオの語る内容はとても面白く引き込まれる。この世界の文化度は幼い。絶えず戦いがあるため、余裕がないのだろう。
それにイプシロン星の遺跡がこの世界にはある。
どういう目的なのかはわからないが、同じ生体モジュールを模した絵がある事から、時代はそれほど離れていないはずだ。
だったら何故、古代文字を使っているのかが謎だ。後から来たオレみたいな者が読めないじゃないか。
シェルター、巨大化装置……ひょっとして、この星に定住するつもりだったのかもしれない。
もう一つ考えられるのは惑星改造だけど、これはいまだ技術的に難しいみたいで思い通りにいかないらしい。
まさか、この世界の人々の元はオレの仲間なのかも…詳しく調べたいけど設備もないし、エンジニアではないから機械も直せない。
好奇心をくすぐるが、できる事が少なすぎる。
ヨシオが考えているように機体を探した方が早いかもしれない。母星に帰って報告すればいいだろう。
あと二ヵ所、どちらかの遺跡にあるのだろうか。あったらいいな。
でも、ヨシオは? 地球に帰れなくていいの?
無理矢理、連れてきたことを後悔する事がたまにある。まさかこんなに親しくなるなんて思わなかった。
自動翻訳機を切らなければ良かった。
しかし、話すと情が移るから連れ去ることができないし。
今にして思うのはヨシオで良かったってこと。他の地球人なら違う結果だったかもしれない。
「……ムラン?」
「え!? な、なに?」
メイディの声にハッと我に返る。しまった、長い思考をしてしまった。
「……寝る」
「あ、ああそうだね! 寝よう!」
すでにメイディは着替えているようでベッドに向かっている。
オレも後を追い、一緒に入る。
メイディに抱きつこうとすると睨まれたので、しぶしぶ諦めた。ケチ!
目を閉じると、先ほどの続きを思い出す。
この頃は故郷を思い出す事が少なくなった。この世界へ来た当初は夜な夜な泣いて過ごしたのに。もちろん生体モジュールの中で。
星にいる両親に会いたい! でも、今の生活も悪くない。
ヨシオには……シンシアがいる。いつも一緒にいたのに気がつかなかった。謎の暗号やサインで交際していたのかな?
シンシアはイイ人だけど、モヤモヤ、ムカムカ、イライラするから素直になれない。
でも、メイディと違って寝るときに抱きついても文句を言わないから、そこだけは許す。ホントはヨシオがいいケド。
オレはどうしたらいいんだろ?
翌朝、朝食をメイディと済ませシンシアの所へ行くとヨシオが起きていた。
メイディは口をあんぐり開けて驚いている。なんで?
「よお! ムランに師匠!」
微笑むシンシアの隣でモグモグとパンを頬張っているヨシオ。元通りになってる! 良かった!
「……ウソ!?」
プルプルとヨシオに震える指をさすメイディ。プッと吹いたシンシアがイスを勧める。
「あたしも不思議なの、朝起きたら元気になってるし。さ、座って。お茶を出すから!」
嬉しくてヨシオの隣に座ると対面にメイディがぎこちなく腰掛ける。シンシアがコップを持って戻って来た。
「お待たせって、ムランちゃん! そこはあたしの場所!」
「ムリ! 他を当たって!」
「お前、なんでだよ! ここはシンシアの家だぞ! 少しは遠慮しろ!」
パンが口いっぱいで怒るヨシオは面白い。オークみたいだ。へんな顔!
「遠慮してるじゃん! バカ! アンポンタン!」
「もう! しょうがない!」
しぶしぶシンシアが空いているイスに座る。
メイディが納得いかない顔でヨシオをマジマジ見る。
「……平気なの?」
「もちろん! 少しダルイけど日常生活には支障はないよ」
ニッとしてアピールするヨシオ。見たまんまだもんな。メイディは一応、納得したみたいだ。
これでいつも通りだ! もちろんオレの満面の笑みをプレゼントしてやる!
□ □
俺が普通に起きるとシンシアはビックリしていたが、それ以上に師匠が驚いていた。
それから皆で昨日の事を聞きにギルドヘ行く。やたらムランの機嫌がいいのが何かしそうで怖い。
ギルドにはマルイドとジェルドがすでにいて、俺を発見すると目を丸くしている。
「ヨシオ! もう平気なのか?」
「悪い! 心配かけたな」
笑ってマルイドの肩を叩くがマルイドは呆れている。
「そういう問題じゃねえだろ! 普通は三日ぐらいは寝込んでるんだぞ!」
「きっと師匠の鍛え方がいいんだろ?」
「お前はそういうやつだった。そうだ、忘れてたよ…」
マルイドが額に手を当てて嘆いている横でメイディが薄目で俺を見つめる。怖いって!
するとそこにマイがやって来る。お、元気そうでよかった。
「あら、ずいぶん復帰が早いね! お礼を言いに来たんだヨシオにさ」
「気にするなよ。お互い様だし」
フフと笑うマイがカウンターにいるシンシアに向き直る。
「ヨシオがいらなくなったら、いつでも言ってね。私が引き取るから」
「心配ありがと。でも大丈夫、昨日プロポーズされたし。それに愛してるから」
怒りを押し殺した笑みを浮かべシンシアが答える。怖いけど嬉しい…いや、待て。まだプロポーズはしてないぞ。
ここにきてモテ期到来か? もっと早く来て欲しかった。
「フフ。怖い、怖い。またね! お二人さん!」
手をヒラヒラさせ流し目を俺にくれると、マイはギルドの奥へと消えていった。
ぶ然としているシンシアを入れ頃合いを見たマルイドが昨日の説明をする。
俺の魔法により魔獣──センティコアのほとんどが溺れたりして、勢いがなくなったので、残りの冒険者で止めを刺していったそうだ。
集団で暴走しなければそれほど強い魔獣ではないみたいで楽に倒せたそうだ。良かった、守れて。
ただ、冒険者の死者が三名出たそう。残念だ……。
ギルドマスターは半分くらいが亡くなると予想していたらしく、上出来と喜んでいたらしい。マジかよ、半分って!
「確かに冒険者の数が少ないからな。結局はこの町にある壁が耐えられれば俺たちの勝ちって訳だ」
ニッとしてマルイドが付け加えた。ああ、なるほど、魔獣の数をなるべく減らして、少しでも壁へのダメージを軽減させたかったのか。と、すると、俺たち冒険者は肉の盾か……。
えげつないギルドマスターの考えにつばを飲み込む。しかも、シンシアの叔父さんだぞ!
無言でジェルドが俺の肩に手を置く。くっ、慰められた。
「……結果オーライ」
メイディが親しげな目を向ける。まあ、そうだよな。笑って応える。
「ヨシオ来て」
無表情な顔でシンシアが呼ぶ。一瞬、背筋がブルッとする。
嫌々カウンターに行く。
「まず、ランクアップしたからプレート出して。早く!」
急いでブロンズプレートを出すとシンシアにひったくられ、代わりに鉄のプレートを渡される。
「これからはアイアンだから。おめでとう!」
「あ、ありがとう、シンシア」
笑顔で上目づかいのシンシア。かわいい。さっきの悪感は気のせいか……ほっ。
と、薄目で冷たく睨まれる。あ、こっちが本命だ。
「次に、どこで何があったの? マイと」
「いや、違うから! 何もないから! ホント!」
必死に言うがシンシアは薄目のまま。何でこういうのは信じないの?
「……大丈夫。助けただけ」
メイディが一言述べてスタスタとラウンジへ向う。あ、ありがとう師匠!
シンシアは目でメイディの後ろ姿を追いながら俺へと視線を移す。
「ホントなのね?」
「そうだってば!」
ようやく顔を戻したシンシア。はぁ、一安心。
しかし隣にいるムランは膨れている。ニヤニヤしたマルイドが俺の肩を叩いてジェルドを伴いラウンジへ向かう。
笑顔をシンシアに向けてから、いそいそとマルイドたちの後を追う。
なぜか背中にパンチしているムランを従えて。




