魔法ってスゴイ
メイディの光線が四足の魔獣を次々と貫いていく!
前で補給を受けたのか矢を撃っているマイに、攻撃をすり抜けた一つの黒い影が近づいてくる! くそ! 誰も気がついてないのか!?
「マイィイイーーー!」
魔法のヤリを魔獣に発射しつつ走り出す! 間に合ってくれ!
ようやく存在に気がついたマイだが遅い! ヤリを受けても魔獣の勢いが止まらない!
マイの体に抱きつきその場を飛ぶ! ドゴッ! ちょうどその場にぶつかる音が響く。
地面に横たわり首を巡らすと死んでいる魔獣が見えた。ホッ。
「いつまでもそこにいると惚れるよ」
下にいるマイがニヤけている。お礼は無しかよ!
急いで立ち上がるとメイディが荒い息をして膝をつくところが見えた。ムランはすでに疲れて座っている。
ドドドドドドドドドドド!!
ヤバイ! 魔獣は目の前だ!
「追い返してやるぅぞぉおおおおおおおーーー!!」
両腕を前に出し、全力で魔力を解放する!
なんかヤバい! 魂まで抜かれそうになり、膝をつき正座の体制になる。
手は上げたままだ。発動が遅い!
魔法の出現までこんなにかかるのか? その前に俺が死にそう。
「ほら! なにやってんだい!? 後ろに下がりな!」
マイが俺とムランの腕を取って声を上げる!
と、その時、
ドッ! ァサザザザザザザァァァァ!!
目の前に水の壁ができると凄い勢いで魔獣を襲う!
突進してきた魔獣共をまとめて飲み込み、水流の激しさで押し流していく!
押し寄せる水になすすべもなく魔獣が水中を転がっていくのが見える。
予想以上に効果的だった。これが大規模魔法の威力か……。スゲエ!
不意に、糸の切れた操り人形みたいに力なく倒れる。身体中の力が抜けたみだたいだ。
「ヨシオ!」「何!?」
驚いたムランとマイが膝をつく。
「いいぞ! 水が引いたら止めを刺せ!!」
ドノバンの叫びが聞こえる。ああくそ! 力が入らない。
「……魔力の枯渇。バカ!」
怒っているメイディが近づいて腰を降ろす。自分も息が切れ切れだ。そうか、これが魔力の枯渇か…。
「師匠……」
「……シンシアを悲しませる事をするな!」
俺の額に優しく手を当て睨む。行動と顔が違うぞメイディ。
「おい! 大丈夫か? お前ら全員ダメそうだぞ?」
マルイドが駆けつけ俺たちを見渡すとニヤリとする。遅れてジェルドも来たようだ。仲間は無事みたいで良かった。
「……ポーションでも治らない。連れてって」
俺から離れたメイディがマルイドに説明している。
見下ろしたムランが俺の顔をそっと両手で包み込む。
「後でシンシアに告げ口してやる! アンポンタン!」
笑顔で言うセリフか? それは?
「ハハ、そりゃいいね!」
マイが笑って同意している。くそ! お願いだから言わないでください!
そうこうしている内にジェルドにおぶさり、町へ戻っていく。
俺と同じように運ばれていく魔法使いが何人もいるようで皆、背負わされたりしている。
メイディとムランはフラフラながらも一緒に歩いている。俺だけ楽してるみたいで、少し罪悪感。
しばらく歩いた所で気がついた。
「ジェルド! ひょっとしてギルドに向かっているのか?」
「そうですよ。一応、報告もありますから」
「ダメだ! シンシアがいるだろ! この姿を見たら心配するだろ!」
「ハハハ、そりゃそうですよ。みなさん心配してますよ」
顔を向けずに笑うジェルド。くそー、動けないから何もできない。
横で歩いているメイディが無言で俺の背中を叩く。頑張れ、じゃねぇ!
視線を動かしムランを見ると鼻歌をしながらフラフラ歩いている。なんで機嫌がいいんだよ?
嫌々ギルドに着くと、俺を見つけたシンシアがすっ飛んでくる。ああ、ヤな予感。
「ヨシオ!? どうしたの? ケガしたの!?」
「ゴメン。大丈夫だから、心配しないでくれ。ちょっと体が動かないだけなんだ」
やめて! そんな泣きそうな顔するな! メイディがシンシアの元に来る。
「……魔力が枯渇した。休ませて」
「えっ!? 魔力が!? バカ! 早くあたしの家に!」
めちゃくちゃ怒ってジェルドに指示する。何も言わず向きを変えて歩き始めるジェルド。いいのか、それで?
メイディとムランがシンシアを伴って先に早足で進む。そんな大変なことか?
シンシアの自宅へ来るとベッドに寝かせられる。いつもの安宿でいいんだけど…。
だが、シンシアやムランの表情を見てると、とてもじゃないが言えない。
ジェルドやメイディに嫌々引っ張られてムランが出ていくとシンシアがベッドに来る。
「聞いたよ、魔法を使い過ぎたんだったね。本当にバカ! 一歩間違えたら死んでたよ!」
「す、すまない。それは知らなかったんだ。気をつけるよ」
怒って寝てる俺に抱き着くシンシア。少し震えているのか? 抱きしめたいが手も上がらないのでもどかしい。
「…そうね、もう無茶はしないで。あんたがいなくなったら、あたしはどうしたらいいの? バカ!」
「悪かったよ。一緒に行くって決めたろ? 絶対に一人にはしないよ。ほら、ムランもいるし」
ギロッと顔を上げるシンシアの目が怖い。何か一言、余計だった?
しばらく抱きついて満足したのかシンシアは体を離して台所に向かう、何やら物を動かす音がして鼻歌が聞こえてくる。ホント、コロコロ感情が変わるなぁ。
疲れたのか目を閉じると、すぐに暗闇に落ちていった……
ふと、目を覚ます。
首を回すと目の前にシンシアの顔がある。近っ! ニコッとしたシンシアが軽く口づけて起き上がる。
「少し待ってて、スープを作ったから食べて」
パタパタと遠ざかる音がする。少しは回復したのか首が回るようでよかった。あと、待つもないぞ。動けないし。
窓の方を見るとすっかり夜空になっている。どのくらい寝ていたのか。
シンシアが片手に木の皿を持って戻ってきてベッドに腰かける。
「ほら、口開けて」
皿をすくってスプーンを近づけてくる。うぉおおお! 嬉しい!
口を開くとフーフーして食べさせてくれる。なんかドロドロだけどうまい!
お腹が空いていたのかスープを全部平らげると、満足したのか嬉しそうなシンシアが奥へと引っ込んでいく。
ヤバい。今、幸せかも。どんどんこの世界から遠ざかるのが難しく感じてくる。
しばらくして、シンシアが寝巻きに着替えベッドへ入ってきた。
「いい、覚えておいて。あたしはあんたと離れる気はないから」
耳元でささやいて頬に唇を当てる。なんか新婚さんっぽい。でも、気恥ずかしいので顔は天井に向けたままにする。
「実は、今まで以上にシンシアに惚れた。ずっと一緒にいて欲しい」
「良し」
身体が熱いシンシアが俺の胸に顔をうずめる。いや、良しって何だよ?
温もりが包んで気持ちが安らぐ。
早く回復しないと! これ以上、みんなに迷惑はかけられない。
そういえば、魔獣はどうなったのだろうか?
明日聞いてみよう。




