新たな宿が必要だ
しばらくギルドの入り口で座って待っているとシンシアがやって来た。
「なんでここで待ってるの? ラウンジでいいのに」
「いや、金がもったいないから」
立ち上がりながら答えるとあきれ顔のシンシア。
「そうね。あんたまだ貧乏だもんね。どこで話す?」
「いつも思うんだけど一言、多いよね?」
そう言いつつ手を握って歩き始める。困ったような嬉しいようなシンシアの表情を見ていると帰って来た実感が出てきた。
いつもの広場に着くと少し外れで座り隣のシンシアを見る。
「話って?」
「遺跡の事。あなたチキュウ? に帰りたいの?」
見つめ返すシンシアは真剣な表情で瞳には決意が見える。わかってたのか。
「できれば帰りたい。だけど、シンシアがいればこの世界でも良い気がする。でも帰れるなら、お前も…」
「行く! 絶対行く!」
言い終わる前にシンシアが主張する。おい! ホント、気が早いな!
「いや、だから一緒に…」
「行くってば! バカ!」
抱きついてくるシンシア。ちくしょう! 可愛すぎ!
「わかった」
ギュッと抱きしめる。
「実はムランだけでも母星に帰してあげたい。だが、ひょっとして地球に戻れるなら、シンシアと一緒がいい」
「バカ」
うずめているシンシアの顔を上げて唇を奪うと回された手に力が入ってきた。
「なにやってんだ! アンポンターーン!!」
いきなりムランが割って入ってくる。おい! 邪魔すんな!
「ふざけんな! イイトコロだったろが!」
ムランを押し出し、シンシアを抱きしめる。真っ赤なシンシアはなすがまま。
「なんでお前がいるんだよ! 用事は済んだのか?」
「見なよ、ホラ! カッコイイだろ?」
目の前で立ち上がると体を回してポーズを決めるタコ…じゃなかったムラン。すっかり現地人だな。
「いや、普通の人間になったな」
「メイディが服を選んだんだぞ! このトウヘンボク!」
マジで!? ふと横を見ると半目のメイディがたたずんでいる。ヤバい、師匠が怖い。シンシアが俺の腹をつねっている。
「ち、違うから! 服のセンスはいいけど、お前が普通に見えるって事!」
「アホ! 遅いんだよ! ウスラトンカチ!」
眉を吊り上げ、すごい言われよう。何だよこの女は!
文句を言おうと口を開いたところでメイディが入ってくる。
「……いい加減にしろ! 二人とも!」
「えぇー。だって、コイツが悪いんだぞ! 二人して……静かにします!」
メイディに睨まれたムランが引き下がる。さすが師匠。
やっと我に返ったシンシアがメイディに顔を向ける。
「ところで、どうしてここに?」
「……串焼き」
「ああ! 小腹を満たしに来たのね。じゃ、一緒に食べる?」
「……そうする」
うなずいたメイディが俺を見る。言えよ! 買いに行って来いって!
しぶしぶシンシアを放して立ち上がると屋台へ向かい、串焼きを四本購入した。とてもじゃないが料金を請求できる雰囲気じゃない。
戻って皆に手渡すとムランはすぐにかぶりついている。美味そうに食ってんな。
一息ついたところで思い出した。
「師匠。相談があるんだけど」
「……何?」
あからさまに嫌な顔するな! 少しは優しくして欲しい。
「ムランの事なんだけど」
「オレが何だよ?」
聞きつけたムランが入ってくる。もう食ったんかよ! 早っ!
「いや、さすがに安宿に泊まるのはどうかと思ってさ」
「あーそうだね。ムランちゃんがあそこに泊まったら危ないかもしれないね」
理解したシンシアがフォローしてくれる。さすがだ。
いまだ眉が険しいメイディが聞いてくる。
「……で?」
「いや、だから、師匠の家にコイツを泊めてもらえないかと思って」
すると驚いたムランが拒否してくる。
「えぇええ!? 大丈夫だから! オレって男みたいだろ?」
「なわけねぇだろ! 立派な胸しやがって!」
は! しまった! 全員が白い目で俺を見る。くそ! 突っ込みずれぇ。
「コホン、ムランちゃんは、なんでそんなにメイディが嫌なの?」
シンシアが仕切り直しでムランに尋ねる。ホント、助かる。
ムランはメイディとシンシアの胸を見て自分のを見る。おい!
「……コラ!」
冷たい目をしてメイディがムランを睨む。ああ、ヤバい。そこは触れてはいけないぞ、ムラン。
「だってメイディの胸がペッタ…ふぐぅ」
慌ててムランの口をふさぐ! 危ない! てか遅い。
「師匠! 落ち込まないで! 大丈夫だから! これから成長するよ!」
体育座りをしたメイディが俺を見て顔を伏せる。ああ、ダメだった。
「ホント、あんたたちってバカ! 大丈夫よメイディ。あたしがいるから…」
シンシアが俺たちに怒り、メイディを慰め始める。
ちらりと俺を見たメイディが宣言する。
「……絶対、泊めない!」
ああ、やっぱり。スネた。
シンシアが優しくメイディの背中をさする。
「わかった。あたしの所へ泊めるよ。それでいいでしょ?」
「……うん」
メイディがうなずく。ムランが何かを言おうと口を開きかけるがシンシアが睨んで止めさせる。
くそ! そこは避けたかったのに。シンシアの所に泊めたら俺が困るが言えない。無理。
しばらくして立ち直ったメイディを連れシンシアが自宅へ戻る。ついでムランも預けていく。あとは、仲良く過ごしてくれる事を祈るのみ。
俺はそのまま酒場へ直行した。
「あら、一人なんて珍しいわね」
カウンターに座った俺を見てアンジェロが驚いている。言われて気がついた、確かにそうだ。
「ムランが大きくなったからね。今は別行動してるよ」
「聞いたわよ。ホントはかわいい女の子だったんでしょ? 次は連れてきてね」
アンジェロが酒を注ぎながらウインクする。さすが耳が早い。
これからどうしたものかと酒をチビチビ飲みながら考えていると、ふいに肩を叩かれる。
振り返るとマルイドとジェルドがそこにいた。
「よお! 探す手間が省けて良かったぜ。話しがある、そこでいいか?」
マルイドがテーブルに視線を向けるのでカウンターから移動する。
適当に注文して何事かとマルイドを見るとニヤリとして話し始めた。




