荒野は遠く
ヨシオやメイディたちが荒野に旅立ち早三日。
誰もいないカウンターでため息をつく。隣にいるエアルの接客している声が時折聞こえるが気にならない。
こういうときはムランちゃんやメイディがうらやましい。でも、あまりベッタリも自分が許せない。全部あのバカのせい!
「……輩」
はぁ。目を閉じるとあの顔が浮かんでくるし。付き合ってるっていっても、そんなに二人でってないし……。
「シンシア先輩!」
「ハッ。な、何!? どうしたのエアル?」
ビックリして隣のエアルを見ると苦笑している。
「お客さんですよ。先輩」
エアルが目で示す先に冒険者のマイが面白そうな顔をして待っていた。
「あ、ぁああああ。ごめんなさい! ボーっとしてた!」
慌てて取り繕うが右往左往するだけ。マイは口に手を当ててクククと笑っている。ああ、もう! 恥ずかしい。
「いいの。彼氏が南の荒野にいるんでしょ? 心配だもんね」
「ヨシオを知っているの?」
「そりゃ、あんな告白、みんな見てたよ。それに調査団で一緒だったんだ」
ニッと笑みをくれるマイ。今更ながらすごく恥ずかしい! せっかちの自分が恨めしい。
でも、あの勢いがなければヨシオはきっと何も言わなかった。あたしの気持ちを知ってたくせに、バカ。
「そ、そうなんだ。でも大丈夫よ。そう、あいつは戻ってくるから平気だし、寂しくないよ!」
ああ、何を言ってるんだろ? 落ち着けあたし!
「クク…。シンシアが慌てる姿も面白いねぇ。ま、お互い早く仕事を終わらそうか?」
「そ、そうね。ごめんなさい……」
ベテラン冒険者のマイらしくテキパキと対処している。あたしも頑張らないと!
それから依頼の契約手続きなどを済ませ、マイはギルドを後にした。
しばらくしてギルドマスターに呼ばれる。
何かしたかな? そう思いつつ二階へ向かう。
マスターの部屋のドアをノックし中へと入ると、書斎机でいつものように大柄な叔父さんが窮屈そうに座っているのが見えた。
「何か用ですかドノバンさん?」
近づきつつ先に声をかける。
「おお、よく来たなシンシア。さ、座って」
叔父さんは水差しを傾けコップに水を注ぎ前へ出してくる。受け取りイスに座り一口すする。
「ふむ。噂でどうやらヨシオと付き合い始めたようだな」
「それが何か?」
なるべく澄まして答えるが顔が熱くなるのがわかる。もう! みんな知ってる!
叔父さんは片眉を上げ、面白そうに前にかがむ。
「ほう、それは良かった。で、いつ紹介してくれるのかな?」
「え!? ええ、その内に……」
いやだ、すっかり忘れてた。でも叔父さんに紹介するのは早い気がする。まだ付き合ってから短いし。
「しかし良かったよ、君もだいぶ変わってきたようでチラホラと聞いてるからな」
楽しそうに叔父さんは顔を崩すとイスに深く腰掛け直し、あたしを見つめる。
「ヨシオはブロンズだったな? 報告によるとメイディに師事し、ド派手な魔法を使ったそうじゃないか。使い魔も妖精とか? 何か聞いてないか?」
ああ、わかった。これが本命なんだ、それで呼ばれたのね。どうしよう?
「魔法に関しては詳しくはわかりません。ただ、ヨシオたちは遠くからやって来たと。ムランちゃんは古代種族の末裔とか聞きましたけど」
「ふむ、一緒だな。ガットがランクアップを押していてな。ちょっと前にブロンズになったばかりなのに、いささか早いと思ってな」
「確かに早いと思います。しばらくは様子を見ては?」
「はは、心配か?」
ニヤリとする叔父さんに図星を突かれた。違うの! あのアホが無茶しないかが心配なの!
「き、急にランクを上げると本人が勘違いするかもしれませんから」
「ハハハ! そうか。それではしかたないな。しばらくは様子を見てみよう」
目を細めうなずく叔父さん。ああ、恥ずかしくて帰りたい。
「他に無ければ戻りますけど、いいですか?」
叔父さんの答えを聞く前に立ち上がり、水を飲み干すと机の上に置いてドアに向かう。
ちょうどドアノブに手をかけたときに叔父さんが声をかけた。
「しかし、通り道で大胆だな?」
一瞬で全身が熱くなる。ああ、もう!
何も答えずそっと部屋を出ると後ろ手にドアを閉める。部屋からは叔父さんの笑い声が聞こえた。
あのバカが突然してきたからよ! バカ! バカ!
……嬉しいけど。
足早に下の階へ向かう。本人たちはいないのに、まるで忘れさせないように周りがしているみたい。
早く帰ってきて。あたしの安心のために。
□ □
そろそろ目的地に近いはずだ。
荒野を旅して思ったことは意外と退屈な事。前を歩く以外することがない。
時折ストーンオーガが現れたが数が少なく俺たちで楽に対処ができた。
ジェルドはへっぴり腰だがなんとか剣を振るえていて修行の成果が出ている。
岩ばかりの殺風景な景色を進むと前に見た事のある四角い遺跡が見えてきた。
「あれだな。先に行って様子を見てくる」
マルイドが軽い足取りで駆けていく。おお、頼もしい! それに引き換えムランは寝てるし。
「師匠、大丈夫か?」
「……平気」
ローブの中にある口の両端が上がる。メイディは大丈夫そう。
「ジェルドは?」
「私もまだまだ行けますよ」
握りこぶしを作ってアピールしている。いや、見たらわかるから!
ふと前を見るとマルイドがダッシュで戻ってくる。
「ヤバい! ゴーレムがいた! 見つかっちまった!」
大声を上げるマルイドの後方に視線を向けると砂煙が見えた。あれがそう?
メイディは立ち止まると腕を伸ばし、人差し指を砂煙に向ける。カッコつけてるのか?
「……行け!」
「師匠、もう少し優しい言葉が欲しい!」
睨んで言うがガン無視される。犬じゃないって! ああ、くそ!
マルイドに向かって走っていく。
見えた! 砂煙の中から人型の岩の化け物が出てきた。
重そうな足を踏み鳴らすたびに砂埃が舞い上がる。動きは鈍そうだが全身凶器だな。
マルイドと入れ替わりで相手に近づく。
「ムラン! 起きろ! 敵だ!」
「うぅん~ん。うるさいなー。ムニャムニャ」
ムランは手を伸ばし、見えない何かを払っている。寝ぼけてるんじゃねぇよ!
「師匠~! 援護してくれーーー!」
叫びつつ突進する。
近くに来てわかったけど、デカい! トロルぐらいあるぞ!
俺の存在に気がついたゴーレムが立ち止まり様子を見ているようだ。
素早く横に回り、構えたハルバートに魔力を込めてゴーレムのすね辺りに当ててみる。
ゴィイイン!
あまりの固さに手がシビレル! ゴーレムが拳を繰り出してきたので素早く回避する。
少し離れて武器を当てた部分を見ると、わずかに削れているのが確認できた。
ダメじゃん! 全然効いてない!
と、火の玉がゴーレムに当たり爆発する。メイディだな。
しかし、当たった個所が黒ずんだだけでダメージはなさそう。
これって相当強いんじゃないか?




