お前を修行で鍛えるぞ
俺たちが再び姿を見せるとムランとメイディは驚いていた。
案の定、シンシアとムランの口論が始まり、ヒマな俺はメイディに魔法の授業を初めて受けた。
授業といっても魔法に関する基礎知識や注意などだ。とりあえず、何とかなるという事だけはわかった。
あの二人は無視。しかしよく続くな。ある意味感心してしまう。
やがて夕方になり、シンシアがご馳走するというので皆で隣に移動する。
「う、美味い! この世界で一番美味い!」
褒めるとシンシアがニコリと応える。なんてこったい! 手料理すごい!
「ムランもゆっくり食えよ! いくら美味いからって」
「ち、違う! お腹がめちゃくちゃ減ってたんだよ! アンポンタン!」
ムランはどこから取り出したかわからないが、小さなスプーンで料理にむさぼりついている。
「……さすが!」
メイディも嬉しそうに食べている。やっぱ食事は楽しくだよな。
「ありがと。お代わりあるよ?」
「「お願い!」」
シンシアの言葉に俺とムランが同時に皿を出す。おい! よく食うな!
フフと笑ってシンシアがお代わりを装う。
「お前ってどこにそんなに入るんだ? 前もよく食べてたけどさ」
「オレは成長期なの! だからいっぱい入るの!」
飯でほっぺを膨らませて言うな! 説得力がまるでない。
「その割には小さいままだな。ハハ、そうか、ずっと成長期?」
「うるさい! トウヘンボク! オタンコナス!」
ムランが皿を持って俺の手を蹴っている。痛くないがうざい。
「ほら、ほら。二人とも楽しく食べる!」
シンシアが怒ってきた。相変わらずだ。それをメイディが目を細めて見ている。楽しいか?
食後はお礼に片付けと皿洗いを手伝い、お茶を飲んで一服する。
いつの間にかムランは寝ていた。ホント、寝るの早いなコイツ。
帰ろうかと考えていると、メイディが寝ているムランをそっと手に持ち俺に向く。
「……がんばれ」
そう告げ、外へと出て行った。マジかよ! 初めて師匠を尊敬した。今まで悪口言ってゴメン。
振り返ると真っ赤なシンシアがモジモジしている。
初デートのはずが、いろいろすっ飛ばしてる気がする。いいのか? いや、幸せだけど。
その日は長く刺激的で心安らぐ夜を過ごした──
翌日、膨れているムランを交え朝食をとり、仕立て屋へ行く。すっかり忘れてた。
アイルばあさんから出来上がったポケット付きベルトを受け取り装着する。
なんかサスペンダーっぽい。ポケットは穴に合わせ紐で固定するようになっている。おお!さすがだ!
早速、胸の部分にポケットを付けムランを入れてみる。
「どうだ?」
「いいんじゃない? これなら寝れそう」
笑顔のムランが入り心地を確かめている。寝るのは確定かよ!
「気に入ってもらえて良かったよ。また何かあればきなさい」
「ありがと! 助かったよ!」
アイルばあさんに礼を言い、金を渡して店を出る。
ギルドに行くとまだ誰も来ていなかった。あれ? メイディでも来てるかと思った。
「それで大丈夫なの? ムランちゃんは」
シンシアが疑いの目で新たに付けたポケットを見ている。なぜ信用ないのか。
「大丈夫だよな?」
「当たり前だろ! シンシアは羨ましいんだろ?」
何故か流し目でシンシアを見るムラン。やめろムラン! 挑発するな!
「フッ、別に羨ましくないよ。よかったね」
腕を組んで余裕の笑みで返すシンシアを見たムランが憤慨しはじめる。
「キーーー! ムカツク!! 何かあったなーー!」
ポケットの中で暴れ始める。ああ、コイツっていつも騒いでるな。メンドクサイ。
ちょうどその時、マルイドとジェルドがやって来た。良かった!
「よお! 相変わらずだな」
マルイドが苦笑いで俺たちを見回し、ジェルドは手を上げて挨拶する。
「二人を待ってたんだよ。さ、広場に行こう!」
「ちょっと待て! 俺たちを待ってた? メイディじゃないのか?」
驚いたマルイドが疑問を挟む。
「今日は違う。とにかくジェルドを特訓する。マルイドは付き合ってくれ」
「えぇええ!! わ、私ですか!? そんなぁ~」
ジェルドがたじろいで後ずさる。何故、訓練というだけで、そんな顔が青くなるんだよ! 頑張れよ! 同じ冒険者だろ!
「俺は調査団に行った時に決めた。ジェルドを鍛えるって」
青い顔のジェルドを見つめるとマルイドはジェルドの肩を叩く。
「ま、災難だと思って付き合え」
「ひぇええええ~!!」
嫌がるジェルドをマルイドと二人で広場まで引きずって行く。
「よし! それじゃあ始めよう! ところでジェルドって武器を持ってないの?」
「当たり前ですよ! 私は戦わないから持っていません!」
無理やり広場に連れてきたのはいいが手ぶらだった。しかもジェルドは逆ギレ。それじゃあ、しょうがない。
「盾は俺のを貸すよ。剣は無いけどマトックでいい?」
「嫌ですよ! 血を見たら倒れますよ、私!」
必死に抗議するジェルド。だが遅い。俺は決めたのだ。
無理矢理、マトックと盾を持たせる。
「ま、なんだな。でかいからオモチャに見えるな」
それを見たマルイドが率直に感想を言う横でジェルドが抗議の目を向けている。
「ジェルドのために説明すると、いざとなった時に自分で身を守って欲しい。だから鍛える」
「ええーー! そ、そんな急に! まだ心の準備が…」
「相手は準備なんか待ってないぞ。だからスグ始める。とりあえず素振りから」
ジェルドに素振りの仕方を教えて始めさせると、ヒーヒー言いながら凄い音をさせながらマトックを振っている。
元々力があるのかいいスイングをしている。なんかマトックの先だけ飛んでいきそう。
マルイドがジェルドの素振りを見ながら近寄ってくる。
「ありゃ大丈夫なのか? 腰が引けてるぞ」
「明日は剣と盾を用意して本格的に始める予定だから大丈夫」
「ホント、ヨシオは突然だな。ま、ジェルドを鍛えるのは賛成だ」
ニヤリとするマルイド。本当の目的は別にあるけど今度話そう。てか、薄々気がついていそうだな。
それからジェルドが手足を引っ込め抗議するまで素振りを続けた。ホントに手も足も出ないをされると何もできない。
まだ日が明るいが、汗だくでクタクタのジェルドとマルイドと一緒に風呂屋に行く。
そこで問題が発覚した。
「おい、ムランは女だろ。一緒に入っていいのか?」
「あ、そうだった!」
マルイドの疑問で思い出した。そっとポケットを見るとムランが頬を膨らませている。怒っているよ…。
「このアンポンタン! オレを何だと思ってるんだ! スケベ!」
「そう言うけど、この間まで男湯に来てたろ?」
「それとこれとは違うの! アンポンタン!」
ムランがポカポカ叩いて言うが棚に上げすぎだ。
「あー、先に入ってる。行くぞジェルド」
面倒になったマルイドがジェルドと共に男湯へ消えて行った。いい知恵はないのか?
よく考えたらいつも通りでいいことに気がつき、ムランの叫びを無視して脱衣所へ向かう。
「それじゃぁ、ここで金を見張っててくれ。よろしくなムラン」
「もぉーーー! 自分勝手だーー! トウヘンボク!」
脱衣カゴの中で背中を向けてムランが怒っている。耳が真っ赤だ。ヒヒ、面白い。
そのまま風呂に入り、汗を流してさっぱりする。あ~~やっぱり風呂だな。
湯船でまったりしているマルイドたちを残して脱衣所に戻るとムランは寝ていた。現金なヤツ。
着替えてそっとムランをポケットに入れ。風呂屋を後にする。
帰りすがら武器屋にお邪魔して店主のヤバロにジェルドに合いそうな片手剣と盾を見繕ってもらう。
「シルバー三枚。ちなみに盾の方が高いぞ」
「マジかよ! 俺のハルバートより安い! 騙された!?」
「バッカモーン! それでも安いんだぞォ!」
ヤバロに怒られた。慌てて謝って機嫌を直してもらう。トホホ。
剣の鞘も購入して宿屋へ戻るとおやじに深めの皿を借りて水を満たした。
「ほら、ムラン。起きろ! 寝ぼすけ!」
「うぅん~ん。あと少し……」
指で肩を押すと手ではらわれる。あー面倒! ユサユサ揺すると起き上がった。
「は! 何してんだ! オタンコナス!」
「お前に風呂を作ったぞ。まだ温かいから入れよ」
ムランを無視して目の前に湯気の立つ皿を置く。ちなみに水は試しに魔法でお湯に変えたら成功した。
「あ? お風呂?」
「そう。これは体を拭く布」
ハンカチをムランに渡す。受け取り俺を見るムラン。
「のぞくなよ?」
「アホか! 見えても小さいから!」
「ふざけんな! イヤラシイ目をしてるくせにーー!」
俺の手を蹴ってきた。あーうざい。
「わかったから、背を向けてるからゆっくり入れ。な?」
「……ホントだな。のぞくなよ!?」
疑いの目をしているムランに背を向ける。早くチャッチャと入って欲しい。
しばらくするとチャプチャプ音がして鼻歌を奏で始めた。おい! リラックスしすぎ!
「お前らなにやってんの?」
戻って来たマルイドが不思議そうな顔で見ている。
「いや、ムランを風呂に入れてたんだ」
「ぎゃぁああああああああぁぁぁ!! 見るなぁあああああ!」
後ろで叫ぶムラン! メガホン無くてもうるさいぞ。
「まあ、そこは遠いからよく見えないぞ。あと、うるさい。俺は寝るわ」
バシャバシャ慌てているムランに構わずマルイドはベッドに寝転んだ。何その冷静さ?
そうこうして風呂から上がるとホカホカのムランは上機嫌。
使った皿を洗って宿屋のおやじに礼を言って返却してベッドに戻ると、すでにムランは寝ていた。早っ!
俺もベッドに横になると明日からの計画に思いをはせ目を閉じた。




