それはデートじゃない
翌日、身だしなみを整えると意気揚々とシンシアの家へ向かう。
ドアの前に立ちノックをすると隣のドアが半開きになり、よく知った顔が半分覗かせる。
師匠…怖いよ。そこにはメイディが目を細めて俺を見ていた。
ニッと笑いかけるとドアを閉じてしまった。何か言ってくれ! 怖い!
「誰?」
中からシンシアの声が聞こえる。
「俺だよ。ヨシオ」
なんかオレオレ詐欺みたいな問答。いいのか?
そんな思いをよそにドアが開いてシンシアが現れる。
「ずいぶん早いね。中に入る? それとも出かける?」
少し嬉しそうな顔のシンシア。くっ、付き合って良かった。
「いや、出かけよう。いいか?」
「もちろん。少し待ってて」
言うが早いが部屋に駆け足で戻って準備し始める。いや、ゆっくりでいいんだけど。
シンシアが急いで戻ってくると二人で家を出る。
階段を下り路面に出たところでシンシアの手を取ってつなぐ。
無言で握った手に力を入れてくる。反応があると嬉しい。
しばらく歩いたところでシンシアが顔を向ける。
「ねえ、どこが見たいの?」
「一通りかな? 難しい?」
「全然、大丈夫! どこへでも連れて行くから!」
決意も固いシンシア。いや、さらっとでいいよ?
「でもまずは昼食をとろう! 屋台で買って広場で食べない?」
「わかった。でも、あんたって広場が好きね」
「ハハ。あそこはいろいろ思い出深いからさ」
というわけで、パンと串焼き、飲み物を買って広場に腰を降ろす。
「言ってくれれば作ったのに」
「マジで? 今度、お願いしていい?」
「当たり前よ、バカ」
嬉しそうなシンシア。でも一言多い。くそ! それが許せる俺。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
シンシアは顔を向けて困惑している。
「調査団で出発するときもらったペンダントだけどさ、なんて書いてあんの?」
「それは…」
背を向けるシンシア。耳が真っ赤だぞ。
「いや、無理には聞かないけどさ。少し気になって」
「いつまでもオレを無視するなーーー! アンポンタンのトウヘンボク!!」
俺の肩に立ってムランがメガホン片手に叫ぶ! ああ、くそ! いい所だろうが!
「静かにしてろ! 今日はシンシアとデートなの! お前がいるとデートじゃないだろ!」
「ああ、そうかい、そうかい。わかったよ!」
ムランがふてくされて俺の頬をつねる。どこか行くかと思いきや、そこかよ。
「ほら、ヨシオもそんなこと言わないの。寂しいんでしょ? ムランちゃんは」
「はぁ? 何言ってんのこのオタンコナス!」
せっかくかばったシンシアに文句を言い始めるムラン。おい! 俺の彼女だぞ!
するとムランが小さな機械を手に持ちメガホンに当てる。嫌な予感がする。
「カチッ。『頼むよムラン…。お前がいないとダメ…』」
「わぁああああ! やめろって言ってんだろ! ああああああぁぁ!」
慌てて大声を上げさえぎる! 何やってんだよ! このアホ!
シンシアが冷たい目で俺を見る。ま、待て!
「ち、違うんだシンシア。これは、ほら、話したろ? ムランの本体がいるとは思わなかったからさ」
「うるさい! あんたは黙ってて!」
シンシアに怒られる。俺って立場、弱くない?
「ムランちゃん妬いてるの? でも残念。もうあたしとヨシオは愛し合ってるから!」
おい! ムランを挑発するな!
「ふざけんな! オレは嫉妬なんかしてないよ! お前みたいなアバズレが嫌いなだけだーー!!」
ムランが俺の耳元で叫ぶ。うるさいよ! 見ろ、シンシアの眉が険しくなってるぞ!
そして二人が言い合いを始める。俺はのけ者。もうデートはいいや。無理。
しばらくして二人が黙ったところで声をかける。
「二人とも気が済んだか?」
「「全然!!」」
シンシアとムラン同時に睨まれる。いい加減にしろ!
「ムラン、俺はシンシアが好きなの! わかった? シンシア、もう挑発するな!」
「わかった」
シンシアだけが返事してムランは膨れている。はぁ、どうしてだ?
とりあえず昼食を済ますとシンシアの家へ向かう。
「あれ? 町の見学は?」
「このままだと無理。なので一旦、出直す」
シンシアの疑問に答え歩みを進める。その間、ずっとムランは膨れっぱなし。
やがて戻ってくるとシンシアの家ではなくメイディの家のドアに向かう。
「師匠! いるか?」
ドアを叩きながら声をかける。
「……何?」
けげんな顔でメイディがドアを開く。
「助かった。ちょっと聞いてもらってもいいかな?」
「……わかった」
皆でゾロゾロ入ってテーブルに着く。その間、シンシアとムランは口を堅く閉ざしたまま。
腕を組んだメイディが俺たちを見回して口を開く。
「……で、何?」
「それがさぁ、聞いてくれよ師匠──」
今までの経緯を説明する。メイディは黙って話しを聞いてくれた。
「……なるほど。ムラン、お前はここに残る」
「えぇーーー! そりゃないよ!」
メイディの判決にムランが声を上げる。
「ホントにごめんなさい。あたしも悪いけどムランちゃんも悪いの」
シンシアが謝るが、どうも違う気もする。ムランは逆上しているし。
「オレは悪くない! シンシアのバカ!」
「……黙って!」
メイディの一言に二人が黙る。さすがだ師匠。
さらにメイディが手を伸ばし、俺の肩にいるムランをつかんで自分の元へ引き寄せる。
「……お前には話しがある」
「ヒイイイィ。ごめんよーーー!」
冷たい目に震えあがるムラン。そんなに怖いか? 確かに怖いけど。
そして俺とシンシアを見る。何?
「……行け」
「ありがとう、メイディ」
シンシアはメイディの肩に手を置いて席を立ち、つられて俺も立ち上がると揃って家を後にした。
やっとうるさいのがいなくなって二人きりで道を歩く。が、顔が優れないシンシアは黙ったまま。やっぱりこうなるのか…。
「シンシア?」
思案顔のシンシアに声をかけると、ハッとして俺を見る。
「ああもう! あたしってダメな女! ごめんなさい、やっぱり戻ろうよ」
「そう言うと思った。帰るか」
つないだ手をギュッとしてシンシアが笑う。ヤバい、今までで一番自然で美しい。
「あたしのどこがいいの?」
「その優しさだな」
即答すると抱きしめてきたので俺もシンシアの背中に手を回す。
「変な男」
「よく言われるよ」
胸に顔をうずめ呟くシンシア。
やがて身体を離そうとするが引き止め唇を奪う。
もう今しかない。絶対に邪魔が入るから、しばらくはお預けだ。
顔を離すと頬を染めたシンシアがいた。照れてるのか?
「バカ。帰りましょ」
再び手をつなぎメイディの家へと戻って行った。




