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ギルド受付嬢エアルは見た

 

──それは衝撃的だった。

 シンシア先輩が声を荒げて催促している。

 二人に何があったかわからないが、どうやら恋が芽生えたみたい。

 私は押していたから嬉しいけど、他の冒険者や受付の人にはショックだった感じ。

 皆の注目を集める中、ヨシオは先輩の手を取ってギルドから出て行く。

 もちろん私たちも後を追いかける。

 先輩たちはギルドの建物の横にいて、短いやり取りをするとヨシオからキスをしてきた! キャー大胆!

 やがてヨシオが振り向くと私たちは慌てて元の場所へ逃げるように帰っていく。

 今日は仕事にならないな。今の出来事でギルド中がザワザワしている。

 実はシンシア先輩はひそかに人気があり、遠巻きに見ている人は何人もいた。だが直接声をかける勇気は無かったようだ。先輩の物言いにくじける人が多いから。

 それでもチャンスがあると思っていた人の希望を今、砕いたのかも。

 ヨシオが駆け足でギルドを出るのを確認してから先輩に声をかける。

「先輩! やりましたね! 私、嬉しいです!」

「え、ええ。ありがとう。でも恥ずかしいね」

 赤い顔で照れている先輩。そりゃ、あんなオープンに告白してたら恥ずかしいよ。私には無理。

 その日は一緒に酒場でメイディさんと合流して飲んだ。

 アンジェロさんも祝福してくれて先輩は終始、照れっぱなしだった。私もがんばろう!


 翌日、メイディさんたちパーティーが調査団と出発する時、シンシア先輩はヨシオに近づくと何かを渡していた。

 カウンターへ戻って来た先輩は真っ赤だ。かわいいな。

 それから通常の業務へ戻っていった。

 ただいつもと変化があったのは、先輩のカウンターに男の人がポツポツと並び始めた事だ。

 先輩のあがり症が少し収まったのか柔らかい対応をしている。でも表情は硬いけど。

 これもヨシオが変えたとしたら恋のパワーってスゴイ! 私も新しい恋がしたい!


 調査団が旅立って三日。

 今日もお仕事です。

 でも、シンシア先輩がボーっとしてため息をついている時間が増えてきたみたい。

 心配だな、今日は一緒に飲もう!


「先輩大丈夫ですか?」

 酒場のカウンターでカップを傾けつつ聞く。

「ええ、大丈夫。ただ、少し心配で」

「ふふっ。浮気? それとも魔物?」

 カウンター越しにアンジェロさんがからかう。

「違うって! あのバカ、モテそうにないし、死にそうにないし」

 慌てて否定してるけど先輩、わかってますから。

「だけどいつも賑やかだったから少し寂しいかも……」

 目を伏せてコップを眺める先輩。そうか…確かにヨシオたちが来てから先輩のカウンターはいつもひと騒動起こしていたな。

 賑やかかどうかはともかく。

「そうね、気晴らししたら? 美味しいもの食べたりとか?」

 アンジェロさんが気を利かせて提案する。さすが! 憧れの人!

「…確かに。気を詰めてもしょうがない」

 ふーっと息を吐きニコッと笑う先輩。私はいつも応援してますから!


 やがて何日か過ぎた頃、調査団がギルドに戻って来た。

 冒険者たちの姿を見たシンシア先輩はソワソワしている。

 あ、ヨシオたちがやってきた。

 先輩はカウンターを飛び出すとメイディさんに抱きつき再会を喜んでいる。

 そしてヨシオにも抱きつき何か話しているようだ。何か騒がしくなってきたがここからは遠いので聞こえない。

 すると先輩は驚いてヨシオをグーで殴っている!

 えぇ!? 何があったの?

 プリプリしてカウンターへ戻ってくるシンシア先輩。

「先輩! どうしたんですか!?」

「い、いいえ。大丈夫だから! ちょっとね!」

 慌てて言いつくろう先輩。何があったの?

 するとヨシオが凄い勢いで来る。

「違うんだって! 俺は知らなかったの! まさか……見てる?」

 先輩に言いかけて、私の視線に気づいたヨシオが顔をこちらへ向ける。

「あ、あははは。見てますよー」

 愛想笑いで誤魔化すとヨシオはけげんな顔をするがまたシンシア先輩に向き直る。

「で、まさか何?」

 冷たい目でヨシオに尋ねる先輩。恋が冷めたのかな?

「いや、待て! こら、ムラン! お前も説明しろよ!」

 ヨシオがムランちゃんに言っている。あれ? いつも頭にいるのに今日はいないな。

 するとヨシオの肩口に小さい女性が現れ手に丸い筒を持ち、それを口に近づける。

「シンシア! ビックリしたと思うけどオレがムランだ! 詳しくは後で説明するけどヨシオは何もしてないよ」

 あ、いつものムランちゃんの声だ。不思議! なんで?

 先輩も困惑しているようで身を乗り出している。

「えぇ!? あなたがムランちゃんなの? あの気持ち悪い丸い頭と触手は?」

「いや、あれは仮の姿で本体はこっち!」

 ヨシオがムランちゃんをフォローしている。仮の姿ってなんだろ?

「ホントなんだ! 信じてくれ! ほ、ほら! 最初に会った時、気持ち悪がっただろ?」

 焦っているムランちゃんが言い訳している。なんか小さくてかわいい。

「うーん。ホントなのヨシオ?」

「いや、ホントだって!」

 疑いの眼差しでヨシオを見る先輩。そして必死なヨシオ。私は温かく見守ってます!

 そこにメイディさんがやってきた。

「……コイツ、ムラン」

「本当なのね」

 いつものメイディさんの一言。よく先輩はわかるなぁ。

「たまには俺を信じろよ! 付き合ってんだろ!」

「そうよ。それが?」

 ヨシオの言葉を意に介せず平然とする先輩。カッコいい!

「くそ! あーーー! 釈然としない! 八つ当たりしてぇ!」

 ヨシオが頭をかきむしって叫んでいる。その肩には苦笑いしているムランちゃんがいた。

「……後で来て。説明する」

 メイディさんはそう告げると背を向けてギルドを出ていく。

 ヨシオが悶絶しているとシンシア先輩が歩み寄りヨシオの手を握ってくる。

「ほんと、バカね」

 シンシア先輩が優しい目を向けている姿。ああ、そうなんだ。好きなんだな、この人が。

「よし! 今すぐ行こう! 今日はギルドは終わり! シンシア?」

「はぁ。わかった。エアル、ごめん。早引けするわ」

「わかりました! 今度話しを聞かせてください」

 先輩に返事をすると、ありがとうと言われヨシオと共に去っていく。

 ……まるで嵐のよう。あの人たちがいると騒がしいけど、いないととても静かに感じる。

 それもあっという間の出来事。

 なんとなく人恋しくなってしまった。そうだ! 今日はデートしよう!

 私は恋に生きる女、エアル。少し先輩がうらやましいです。



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