見上げる星からきた人たち
いつまでもこんなところでボーっとしていてもしかたない。
「シンシア、少し休まないか?」
「……そうね。探し疲れた」
夕日が赤く照らす中、人混みから離れた所へ行き座る。
少し待ってもらって近くの露店で飲み物を買ってくる。
「はい、これはおごり」
「…ありがと」
ぶすっとして受け取るシンシア。相変わらずだ。だが、今日は素直だな。
隣に腰かけて賑やかに行き交う人々を眺める。しかし、ムランの影は見えない。
ふと横を見るとシンシアが同じように人混みを眺めている。黙っていると美人。そういえば歳を聞いてなかったな。
「……聞いてくれる?」
前を見ながらシンシアが俺に語りかける。
「何を?」
すると顔を背ける。話す気あんの?
「あ、あたし、お、男の人と話すのが苦手で、目の前にいると、き、緊張しちゃうの」
「ん? 緊張すんのか?」
「そう。だから、怒ったり腹を立ててると緊張がやわらいで話せる……」
なるほど、わかった。だからいつも威嚇したりしてんのか。
「いや、そもそも何で受付してんの?」
「うっさいバカ! それが仕事だから!」
どこに向かって怒ってるんだ。こっち向いて顔見せろよ。
「ハハ。なれたからいいけど。じゃあ、こうすれば? 男も女に見立てて応対する」
「何いってんのバカ!」
「いや、本気だ。つまり男みたいな女と思えば緊張が少しは解けない?」
「……」
今度は黙った。つか、いつまで背を向けてるんだ。
「例えばだけど、誰か男の人が『付き合ってくれ』って言っ…」
「付き合う!」
言い終わる前に、いきなりこちらに向いて目を合わせる。おい! 怖いよ!
「た、たとえば…」
「付き合う!!」
グイっと身体を寄せてくる。顔が近いよ! くそ! そんな潤んだ瞳で見るな! ドキドキしてきた。
「し、シンシア…」
そう言いながらシンシアの両肩をつかむ。自分が何してんのか、わからなくなってきた。
なんか目を閉じてるんですけど。急な展開に頭がついていかない。
「ダメだ!!」
突然メイディが現れシンシアをもの凄い勢いで離す!
「あ!?」
ビックリしたシンシアが目を見開いてメイディに顔を向ける。
「お、脅かすなよ!」
強がって言うが心臓はバクバクしている。あぶなかった…。もう少しで理性が飛ぶとこだった。
「……バカ!」
メイディがシンシアを抱き寄せ俺を威嚇する。いや、師匠、俺だけ悪いってわけじゃ…。
「メイディ、聞いてくれ!」
「……聞かない! 帰るよ!」
固まっているシンシアを立ち上がらせると連れてその場を離れる。
茫然と見送ってると振り返ったメイディがイーっとして向き直り行ってしまった。
はぁ、なんだよ。あれか、シンシアって俺が好きなのか? いや、俺も好きだけど。違う! そうじゃなくて。
頭が混乱してきた。
考えるのは止めよう。とりあえずムランを探そう。そうしよう。
と、前を見るとワナワナしているムランがいた……。
「ムラン……」
「バカ! 心配して探していたら、何やってんだトウヘンボク!!」
なんかムランが激怒している。
「ち、違うんだムラン。なんていうか成り行きで……」
「成り行きでなるかアンポンタン!」
なんで怒ってんだよ! 訳が分からん。
「悪かったよ。機嫌直せよ、な?」
「はぁ~。このアホはわかってないよ!」
「会えてよかったよ。ホント、心配してたんだよ」
すると少しは収まったのかムランが近づいてくる。
「本当に心配してたのか?」
「当たり前だろ。これでも探したんだぞ!」
「本当に?」
「本当に」
むふーとしてムランがいそいそと体をよじ登って来た。機嫌は直ったのか?
定位置にくると頭を叩きだす。なんだよ!
「まあいいや、帰ろう。疲れたよ」
「俺も」
ポコポコと頭を叩かれながら宿へと夜道を戻って行く。明日どうしよう……。
□ □
まさか、はぐれてあんな事態になっているとは思わなかった。
シンシアを引っ張って家路を急ぎ私の家へ直行する。
無言でイスに座らせお茶を出す。
「ありがとうメイディ…」
気まずそうにお礼を言うシンシア。反対側に私も座る。
「……どうして?」
テーブルを挟んで向き合いシンシアに聞く。彼女の想いに全く気がつかなかった。
「わかんない。でも、胸が締め付けられて苦しくなるの」
「……あの男はダメだ。シンシアが不幸になる」
シンシアはコップを両手でギュッとにぎり私を見つめる。
「どうして? 何がいけないの?」
「……彼はここに留まらないから」
彼女の目に混乱が見て取れる。ちゃんと説明すればわかるだろうか? 私はシンシアが幸せになって欲しい。
「……他言無用。なら話す」
「話して! 誰にもいわないから…」
すがるように言葉を吐き出すその姿に本気だとわかった。まったく、なんであの男なんだ?
でも、わかる気もする。私の知る限りこんなに親しい異性は初めてだ。だけど…。
「……わかった。実は────」
「ウソ」
語り終えたがシンシアは信じられないようだ。
「……本当だ。私は証拠を見た」
私の目を見たシンシアの顔が青くなる。わかってくれた?
「で、でも遠い国なんでしょ? 帰るっていっても会えないわけじゃないでしょ?」
必死に聞いてくるが本当はわかっているはずだ。なのに…もう!
おもむろに立ち上がると窓の扉を開き、強引にシンシアを連れてくる。
「……いいか? あの二人はどこかの星の住人なんだ!」
輝く夜空の星をシンシアに指し示す。見上げる闇夜に揺れる無数の小さな灯り、一体あの二人はどこの星から来たのだろうか。
「うそ…」
一歩後ずさりシンシアは腰を落とした。
「……もちろん船では行けない。まして、歩いてなど無理」
しゃがんで、うなだれているシンシアの肩に手を置き、これから言うことに躊躇する。
私は残酷なのだろうか? でも、これ以上シンシアに傷ついて欲しくない。
「……いつか、ここからいなくなる」
「嫌! そんなの無理!」
顔を上げたシンシアの目には決意があった。けっして弱い目では無い。
「あたし決めた! あの星に帰るなら一緒に行く!」
私が想像していない答えを導びいたシンシアに驚く。本当にそれが望みなの?
「それに今すぐ帰れる状態じゃないでしょ? もし実現するなら大規模な召喚魔法が必要よ。でも、できる人間のほとんどはこの世にいない!」
確かにそうだ。帰れる保証のないまま彼らはここにいる。ひょとすると一生この世界で生きていくかもしれない。
「……わかった。だけど約束して、あなたが悲しむ事があれば絶対に別れさせる」
シンシアは微笑んで私を抱きしめる。
「ありがとうメイディ」
彼女の背中をさすりながら思う。はたしてこれが正解なのか、と。
私の心のモヤモヤは晴れないままだ。
シンシアは体をそっと離し窓際へ行くと夜空を見上げる。
「遠い星の人が今ここにいる。不思議ね」
その笑みをたたえる横顔は、迷いが晴れ希望にあふれている。恋する女そのもの。
……まったく不思議なめぐり合わせだ。嫌になる。




