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俺は普通の仲間が欲しい

 

 いつものようにギルドの受付に行くといつものシンシアが待っている。

「マルイドはどうしたの?」

「おはよー。後で来るってさ」

 仏頂面のシンシアは挨拶せずこの調子。いいかげん愛想良くして欲しい。

「……来た」

「おはよう、師匠!」

 後から来たメイディがうなずいて応える。もう一声欲しい。

「一人足りないけど、ハイ、依頼よ」

 シンシアが一枚の紙をカウンターに置く。相変わらず何が書いてあるか読めない。

 俺の険しい表情を見たのかシンシアが怒ってくる。

「いい加減、文字を覚えろバカ!」

「もう少し優しくしろよ! 傷ついて眠れないだろ!」

「あんたがそんな繊細なわけないでしょ!」

 怒るどころか呆れるシンシア。ああムカつく!

「聞いたかムラン? ヒドイよな?」

「オレに振るなよ。巻き込まれたくないから嫌だよ!」

 逃げやがったな、このタコ。

「……うるさい二人とも!」

 メイディが止めてきた。シンシアは俺に向かって舌を出している。いつか覚えてろよ!

 そして俺の頭をポコポコ叩くムラン。こっちもウザい。

 ああ、早くこないかなマルイド。


 □ □


 市場の一角にある食堂は朝飯を求める冒険者や商人で賑わっている。

 あまり広くない店内ではテーブルの数が限られているため、必然と相席が当たり前で知らぬ他人同士が肩を寄せ合い安い食事をせっせと胃に詰めている。

「で、どうだ? 何か変わったことは?」

「特に無いな」

 テーブルの隅にいる帽子を深く被る男の隣で周りにわからないように答える。こいつは俺の仲間というか連絡係だ。

「ほう。あの新人については?」

「ヨシオか? あいつは変わってるが別におかしな所はないな」

 帽子の奥からの視線を感じる。疑う気持ちはわかるが何も無いからしょうがない。

 逆にこちらから話しを振ってみるか。

「そういや次の王は決まったのか?」

「いや、まだだ。城にいた有力貴族が軒並み死んだからな。外にいて難を逃れたハイネ伯爵は毒殺された。隣国も知るところとなったから戦争が近いかもしれない」

「おだやかじゃないな」

「いつだってそうさ。ここが特殊なのさ」

 相手が口元をゆがめているのが目の端に映る。硬いパンをかみちぎりスープで流し込む。前に食べたあの白いパンは美味かった。あんなパンは一部の商人や役人、上位ランクの冒険者だけが食べれる代物だな。

「今度の調査団にはメイディのチームも入る事になったようだ。お前はどうする?」

 木のカップを傾けながら聞いてくる。これは初耳だな、答えは当然決まっている。

「もちろん行くさ」

「報告をくれれば俺は何も言わないよ。じゃ、いつもの時間に」

 男は帽子を深く被り直し立ち上がると木製の食器を手に持ち、食堂のカウンターへと消えていった。

 調査団か……。フフ、面白そうだ。

 この町へ派遣された当初は左遷同然だったから、腹を立てて一人で過ごした。

 まあ、当たり前の話しだ。この町に貴族はいないし、領主もいない。代わりに王都より派遣された執行部の役人一人がギルドマスターと共同で管理している。

 俺達はいわば見張り役だ。町に不穏な気配がないか、または上層部の腐敗、横領などを監視するのが仕事だ。

 だが、常に魔物の脅威にさらされてるこの町では私服を肥やす連中は少ない。もう少し安定してくると腐敗が始まるかもしれないが。

 商人の数が足りないし、人口もまだ少ない。常に移住の募集を行っているのが現状だ。

 だから冒険者ギルドに現れた新人の噂は瞬く間に広がった。

 美人だが難のある受付嬢の常連なだけでも十分だが、メイディの弟子となって町の外壁を駆け回っているとなればなおさらだ。

 いい加減、町で飽き飽きしていた俺は、安宿に泊まりヨシオに近づきパーティーに加わった。

 俺の予想通り、無茶苦茶でやかましく、面白い。

 特にあの使い魔は普通じゃない。言葉をしゃべる使い魔は聞いたことがあるので不思議に思わなかったが、あの容姿には驚いた。確か東方にある国には手足が細長い使い魔がいると聞いていたが、それだろうか?

 だが、調べた限り彼等に不信な点は無かった。ただ一つ、ふらりと突然現れた以外は。

 彼らと付き合ってわかったことだが、たまに意味不明な単語を言う時がある。チキュウジン、イプシロン、ウチュウセン、タコなどだ。

 噂では遠くから魔法で飛ばされてきたから現地の言葉をたまに話すようだ。まあ、俺の仕事の範ちゅうではないので気にしないが。

 おっと、そろそろ行かないと。シンシア嬢がイライラして待っていそうだ。そしてそれをからかうヨシオに騒ぎを止めるメイディ。

 あいつらの行動が目に浮かぶようだ。しかし本人達は気がついているのかね? 俺から見るとそっちのほうが気をもむが。

 まあ、いい。少なくとも今は充実している。

 あのパーティーには頼れる俺、マルイドが必要だからな。


 □ □


「よお! すまんね!」

「遅いよマルイド。シンシアが暴れて困ってたんだ」

 遅れてきたマルイドが気にもしない風に手を頭につけて挨拶してくる。一緒に宿を出たのにこれだ。

「ちょっと! 暴れてないし、あんたがアホな事を言ってたんでしょ!」

 目くじら立てて声を上げるシンシア。はは、面白い。

「……行く!」

 呆れ顔のメイディはその一言を残しギルドの出口へ向かって行く。

 シンシアにお別れの笑みをあげると睨まれて返された。もう少し俺にも笑顔が欲しい。スマイルは〇円だぞ!


 町から出た俺たちは森の中へと入って行く。

 今回受けた依頼はイビルオーク討伐のようだ。なんでも数が多いので少しでも減らしたいらしい。

 いつものように先頭を歩くメイディが魔物の気配を探している。

 マルイドの稽古のおかげか最近は武器の扱いが上達しているようで、以前のように力任せではなく次を見据えた行動を起こせるようになってきている。

 それにムランがいるおかげで周囲に目を配る心配がいらないので楽だ。

 大小さまざまな木々が乱立する森を移動していく中、突然メイディが歩みを止めた。

「師匠?」

「……倒れてる」

 振り向き杖を持っていない手で指し示す。いや、わかってんなら自分で行こうよ。

 マルイドを見ると目が“俺は動かない”と語っている。はぁ。

 しぶしぶメイディの指す場所へ行くと大柄な男が倒れているのが見えた。

 おい! ヤバいんじゃないのか?

 慌てて近寄り傷が無いか見てみるが、特に外傷はなさそうだ。

 膝をつき顔をみると爬虫類っぽい顔立ち。……人間じゃないな。

 勝手がわからず途方に暮れていると横から見慣れた小瓶が出てきた。

 見るとメイディがポーションを差し出している。うなずいて受け取りクチバシのような口を無理やり開けポーションを流し込む。

「……死んでる?」

「いや、全然わからない。彼は何者かわかるか?」

 メイディに視線を向けると無言で目が泳いでる。絶対、今の質問の答えをまとめたいけどまとまらない感じだ。

「そいつは獣人だな。たしかトータス族だろ。この辺りじゃあ、珍しいな」

 代わりに近づいてきたマルイドが説明してくれる。メイディは口をパクパクさせているだけ。しゃべろうとチャレンジしてるのか?


 反応が無いのでこの場にしばらく待つことになり、メイディが周囲を警戒してマルイドが偵察に出かけた。

「もうほっとこうぜ。きっと死んでるんだよ!」

 無慈悲なムランが俺の頭を叩いて主張する。んなわないだろ! だよね?

「もう少し待てよ。せっかちタコ」

「ふざけんな! オレは気が長いんだぞ! アンポンタン!」

 興奮しているムランが頭を連打し始めた。あーうざい。

「……静かに!」

 メイディに怒られた。

「お前らも学習しろ。今の所は周囲には魔物はいないな」

 ちょうどマルイドが戻ってくるや文句を言い始める。何故だ? ニヤニヤしやがって!


「う……うぅ……」

 トータス族の男は気がついたようで、モソモソと体を起こし頭を振っている。

「大丈夫か?」

 隣に腰を降ろして聞くとビックリしたようでぎこちなく首を回して俺を見る。

「ど、どなた?」

「俺はヨシオ、頭のこいつはムラン。あそこの女性はメイディで、隣のおっさんはマルイド」

「おい! まだ若いぞ!」

 すかさずマルイドの突っ込みがくる。抜け目ないな、おっさん。

「私はジェルド。助けてくれてありがとう」

 静かに語るジェルド。おお、今まで一番まともなやつかも。

「ところで何で倒れてたんだ?」

「ふむ。あまり語りたくないが、魔物を見かけたら気が遠くなった」

 ジェルドの言葉に場が一瞬止まった。振り返ってメイディとマルイドを見ると固まっている。

「えーと、確認だけどジェルドは冒険者だよな?」

「いかにも。アイアンの冒険者だ。それが?」

 誇らしげなジェルド。いや、それが聞きたいわけじゃないよ。

「な、なんの魔物を見たのかな?」

「そう、あれはオークのようだった。薬草を採りに来たんだが震えあがったよ」

 渋い感じで話すが、めちゃビビりじゃん! よし、見なかったことにしよう。

「なるほどね、帰りは気をつけてな。俺たちは先を急ぐから」

 立ち上がりジェルドに愛想笑いしてメイディたちの元へ行こうとすると声が刺さった。

「ま、待ってくれ! 私も一緒に連れてって欲しい!」

 慌てたジェルドが懇願(こんがん)してくる。

 ええー! どうする?



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