馴染むと離れるのが辛くなる
しばらくはマルイドに稽古をつけてもらいながらパーティー連携を含め練習がてらに簡単な依頼をこなした。
金の心配は無くなったがその日暮らしは相変わらずで、師匠からの借金はまだ返せていない。宿も相変わらずだ。
ある夜、ふと気がついた。
「ムラン。俺たちこの世界に馴染んでる。ってか、すっかり住人だ」
「そりゃそうだ、トンチンカン。今頃気がついたのかよ!」
ベッドで横になってムランが呆れている。しかし、いつになったらその口の悪さは治るのか?
「いや、ダメだ! 俺たちは帰るんだろ! お前だってペペロンチーノ星に帰りたいだろ?」
「ふざけんな地球人が! イプシロン星だ! ぶっ殺す!!」
タコが腕を振り回して襲ってくる!
ははっ、ワンパターンだな! 俺はデコピンで対抗する!
しばらく、すったもんだを繰り返しお互い疲れたところで引き分けにした。
「はっ! 違う! 俺が言いたいことはそこじゃねぇ。いや、ちょっとこい!」
「ええ、いいよ。いやだぁーー! 連れて行くなーーー!」
無理やりムランをつかんで宿を出ていく。
「あんまり迷惑かけるなよー」
後ろからマルイドが声が聞こえる。今じゃ、なれて止めやしない。
走っていつもの広場に行く。
「いったい何だよ! オレは眠いよ!」
人のいない場所でムランを前に置くと抗議してくる。もう、うっさいな。
「いや、ムラン。前に俺がやったけど、星に帰る魔法をお前がやってくれ!」
「突然なんだよ。失敗したろ」
疑っている目を向けるムラン。確かに俺は失敗したけれども。
「このままだと誰かを好きになっちゃいそう。したら帰る気が無くなるのが怖い」
「はぁ? 誰が好きなんだよ? シンシアか? メイディ? もしやデカパイのアンジェロか!」
「おい! 他にも出会いがあるかもしれないだろ!?」
なんで身近な女限定なんだ。しかも目くじら立ててるのは何故だ?
「頼むよムラン。お前だって帰りたいだろ? 故郷にさ」
「そりゃそうだけど。すっかり諦めてたかと思ったよ」
何故かスネ始めるムラン。帰りたくないのか?
「そう。さっきまですっかり忘れてた。だからこのままだとダメだと思って」
「前から知ってたけど、ホント突然だな」
「だから頼むよムラン。正直、頼りになるのはお前だけだ。相棒だろ?」
「そ、そう? そうか! よし、わかったよ」
二本の手を上げて気合を入れるムラン。いきなり機嫌が良くなったな。
「それじゃあ、やってみてくれ。故郷の星に帰ることを念じるんだ」
「わかった。オレが成功したら後に続いてくれ」
ムランは静かに目を閉じると集中するように体の動きがピタリと止まる。
しばらく見ているとムランの目の前に光が現れ辺りを照らし始める。おおースゲー!
やがて光が大きくなると共に輝きが強くなる。うっ、眩しくて見てられない!
あまりの大量の光に目をつぶる。
──ふと、目を開けるとさっきより近くにムランがいる。はぁ?
「あれ? なんでお前がいるんだよ!?」
逆にムランがビックリしている。俺もビックリだよ!
「いるも何も、お前もずっといるぞ?」
「な!? あぁあああ、失敗した!」
ガックリうなだれるタコ。俺よりも魔法が得意なくせして失敗するタコ。
「はぁ。お前がダメだとすると魔法で帰るのは無理かもしれないな」
「うぅうう、対象が漠然としすぎるんだよぉ」
泣き言かよムラン。だが、その気持ちはわかる。俺もそうだった。
「いや、お前さ。最後の方で俺を思い浮かべたのか?」
「な、なんでわかるんだ? ま、まさか前失敗した時もアンジェロを思い浮かべたのか?」
ムランは顔を上げて確認してくる。くそ、一言多かった。失敗した。
「実はそうなんだ。あの胸が最後にちらついて……」
「お前が好きなのはアンジェロなのか! このスケコマシ!! そんなデカパイがいいか!」
突然ムランが襲ってきた! 言ってること無茶苦茶だぞ!
「おわぁ!」
ムランのヘッドバッドを浴びてひっくり返ると上に乗ってきて三本の腕で殴ってくる!
が、あまり痛くない。
「このオッパイ好きのトーヘンボクがーーー!」
キレてるムランの高速パンチ。あまり痛くないけど鬱陶しい。
反撃しようとするときに他所から声がかかってきた。
「ちょっといいですか? これ以上見てるのもつらいから」
ピタリと止まった俺たちが声の方を向くと、身なりのきちんとして大きなショルダーバッグを持った若い男が立っていた。
前に宿屋の食堂で見た男だ。確か……。
「あ、知ってる。コルサバだよね? ミレアちゃんを見てた」
「そうです、ご存知でしたか。あと、ミレアさんのはちょっと……」
コルサバが頬を染めてもじもじし始める。これはアレか? 片思いってやつか。
固まっているムランを頭に乗せ起き上がる。思ったよりも小柄だなコルサバは。
「で、何の用?」
「そうでした。僕は学者でして、あなたの使い魔が使った魔法が気になって」
コルサバは俺の頭にいるムランをマジマジ見ている。そして固まるタコ。人見知りか?
「あれは失敗したよ。だから気にしないでくれ。な、ムラン?」
「そうそう。光がドバーっと出ただけで何もなかったよ」
慌ててムランが同意するがコルサバは気落ちするような様子。
「なるほど。ちなみにどういった魔法を使ったんです?」
少し持ち直したコルサバが俺に向く。ヤバい。核心的な事を聞くな。さすが学者だ。
「ち、長距離を一瞬に行ける魔法の実験をしていたんだ」
なんとか誤魔化すとコルサバの顔色が明るくなった。
「ああ、そうだったんですね。なるほど、それなら納得です。あの魔法量は普通じゃなかったですから。それにしても移動魔法を実験するなんてなかなか凄いですね」
「そ、そうか?」
愛想笑いをするが、魔法については知らない事が多いからな。今度メイディに相談するか。
「そうですよ。普通、個人ではできませんからね。王都にいた主席魔法使い様ならできたかもしれませんが、今はいませんから。それをチャレンジするなんて凄いですよ!」
なんか気に入ってもらえたのか力説している。
しかし、マジヤバい事聞いた。主席魔法使いだって。あの円盤から見た光景が目に浮かぶ。爆発に巻き込まれたのか……。
よし、知らんふりしてよう。それに俺は関係ないし、いざとなったらタコを差し出して煮てもらおう。
「あの、大丈夫ですか?」
過去に思いを巡らせていると、心配そうにコルサバが聞いてくる。あ、忘れてた。
「あ! ああ、大丈夫。ちょっと魔法を使ったからボーっとしただけだ」
「そうですよね、あれだけの魔法、使い魔だけでは無理ですもんね。なるほど、勉強になります!」
イカン、俺の苦手なタイプだ。今日は帰って寝よう。そうしよう!
「いや、参考になって良かったよ。それじゃあ俺たちは帰るから!」
「わかりました。また会いましょう!」
手を振るコルサバに振り返し、足早に広場を去って行った。
「お、早いな。ヨシオも少しは落ち着けよ。な?」
まだ起きていたマルイドがニヤリとしてる。くっ、待ってたな。
「すごい言い返したいが眠いからパス」
手を振って自分のベッドに戻る。ムランは既に寝ていた。早っ!
仰向けになって天井を見つめる。黒ずんだ木の板が模様みたいなシミを作っている。
今回の失敗で確信したのは、やはり想像力と精神統一が必要なことだ。対象が漠然としたものには魔法が効かない。
確固たるイメージがないと無理なのか。地球のイメージって何?
映像とかで見る地球を想像したとしても、戻る場所が地球の見える宇宙空間かもしれない。
かといって特定の場所──東京タ〇ーとかならイケるのか? むしろ目標の建物だけが目の前にきそうだ。
なんだか最近はすっかり故郷を思い出すことも減った気がする。いつも仲間や変な宇宙人がいるからかな?
よく考えたら俺もこの星では宇宙人になるのか。不思議な気分だ。
俺の胸で寝ているムランを見る。幸せな顔しやがって。
……のんきそうだな。こいつ。




