パンは黒くないヤツもある
俺がガックリしているのも構わずリリエラが提案してくる。
「あの、先ほど言いかけたことなんですけど、お礼をしたくて。いいですか?」
「もちろんありがたいけど、ホントに何もしてないよ」
「フフ、いいんです。ヨシオさんはそうかもしれませんけど、私は助かりましたから」
少し顔を下げ頬を染めるリリエラ。照れてんのか? そして頭を叩くムラン。うざい。
「よし! じゃあお礼を受けに行くか。な?」
何故かマルイドが仕切り始める。お前は関係ないだろ!
「それではこちらへ」
リリエラが先導して歩き始めるので俺たちもその後をついていった。
連れてこられたのは町の一角にある工場のような大きい建物の前だった。
これは…? お嬢様?
マルイドに目で話すと両肩を上げて分からないとの返答。ムランは沈黙している。
「ここです。どうぞ中へ入ってください」
リリエラが嬉しそうに大きな扉の横にあるドアを開けて招き入れる。
中へ一歩踏み入れると、あの焼きたての匂いが立ち込め、口の中によだれがたまる。
も、もしや……。広い空間にいくつもの窯が並び、おなじみのパンを焼いている人々の光景が目に映る。
「ぱ、パン工場?」
「はい、そうです。私の父が経営してまして、お礼にパンをと」
ニコニコとリリエラが答えるのを見てマルイドが俺の肩を叩く。
「やったな! 来て良かったぜ!」
嬉しそうな顔を向けるが間違いなく俺もニヤついている。興奮しているのかムランも頭を叩いてくる。
「喜んでもらえて良かった! こちらへ!」
そう案内されたのは出荷前のパンが並べられている所のよう。何人もの職人がいろいろなパンを仕分けている。
おもむろにリリエラがバスケットを手に取ると目の前のパンを詰めていく。
おぉー。白いパンだ! 黒くないぞ! 俺たちは固唾を飲んでその様子を見守る。
パスケットいっぱいになったパンを差し出すリリエラ。
「お待たせしました。お礼です!」
「あ、ありがとう! 逆にお礼したいよ!」
感激して受け取るとフフフと笑っている。なんていい娘なんだ。どこかの受付嬢とは違うな。
全員でお礼を言い、手を振る笑顔のリリエラと工場で別れた。
「よし! 師匠のいないうちに三等分だ」
広場へ戻ってきた俺たちはさっそく白いパンを分けることにする。みんな目が輝いてるな!
ちょうど手を伸ばした時にマルイドがその腕をつかむ。
「残念だが運がなかったようだ、な」
マルイドが顔を向ける先を見るとシンシアとメイディがこちらに向かってくる所だった。
「おい、ウソだろ……。師匠ならまだしもシンシアまで……」
「やっぱり! お前が元凶だったんだ! アンポンタン!」
何かを悟ったムランが頭を叩く! 何言ってんだよ!
ああ、もう目の前だ。五等分だなこれは。
□ □
思わずお礼を言ってしまった。あのヨシオに。
あたしのバカ! 恥ずかしくてしばらく下を向いていた。きっと顔が赤いから。
それから頭を低くして帰っていくメイディをほっておけなくて、ギルドを早退して後を追う。
メイディがパーティーに憧れていることは前から気がついていた。
だからいくつものパーティーを紹介したり、個人の冒険者と引き合わせたりメイディに合うような相手を探していたが成功しなかった。それは、あたしのやり方が悪かったかもしれない。
でも、ヨシオ達が仲間になったことで図らずも希望が叶えられ、とても嬉しかったはずだ。
きっと誰よりもランクを高くしてパーティーを引っ張りたいと思っていたのかもしれない。
あのバカはそんな事は気にしないのに。というか考えてすらいないと思う。
足早に見慣れた道を急ぐ。きっと自宅に戻っているに違いない。
たどり着きドアをノックする。
……居留守かな?
「あたし、シンシア。メイディ? いるでしょ?」
声をかけ、少しドアの前で待つと静かに開く。そこにはメイディが顔半分を覗かせている。
「……ほっといて」
「ほっとけないよ! 友達でしょ? 悩みなら聞くから、開けて?」
しばらく見つめていたがドアを開けてくれた。
部屋に通されると、すかさずメイディはベッドで毛布をかぶり丸くなっている。
もう、落ち込むとすぐこれだ。
大きな丸い毛布の隣に腰掛け抱きしめる。
「大丈夫だよ。みんなランクなんか気にしないよ?」
「……」
「それにパーティーのリーダーはメイディじゃない。それじゃ不満?」
「……リーダー?」
毛布の隙間から顔を出してきた。ふふっ。やっぱり思った通りだ。
「そうよ! 間違いなくメイディがリーダーじゃない。でしょ?」
「……そうね。そう!」
目に力が出てきた。あと少し!
「リーダーがいつまでもクヨクヨしてないでみんなを引っ張らなくちゃ!」
「……うん!」
毛布から抜け出したメイディはハンガーにかかっているローブに手を伸ばす。
「でも、変に気負わないで。悩み事は二人で解決しましょ? ね?」
あたしも立ち上がり近づきローブを着たメイディの目を見つめる。
「……相談する!」
「ふふ、そうね。あ! 広場に行かない? あそこの屋台で美味しい串焼きがあるよ」
うなずいて了解するメイディ。信頼してもらえるのは嬉しい。あたしも力になれるよう頑張ろう!
二人で家を飛び出し広場へ向かう。これで一安心だ。
ヨシオ達を見るまでは。
□ □
「あんたたち何でそんなにパンを持ってるのよ! 盗んだの?」
俺たちの所にきてシンシアの第一声がコレ。他に言いようがあるだろ!
「違う! この前助けたリリエラからお礼にもらったんだよ!」
慌てて説明すると眉をひそめて迫ってくる。いや、何か失言したか?
「リリエラ?」
「あー、ヨシオが助けた娘だ。俺も行ったから本当だ」
ここで頬をかいてるマルイドが助け船。ありがたい!
「そんな怒ってると腹が空くだろ? とりあえずみんなで食べよう!」
パンの分け前が減るのはしょうがない。機嫌を直してもらう方が優先だな。
「ふ~ん。五等分?」
「ご、五等分!」
シンシアが確認してきた! なんて抜け目のないやつ。くそ、この場で一つあげたら逃げようと思ってたのに。
「アハハ! ヨシオの負けだよ!」
ムランが笑って頭を叩く。あーくそ! このタコ! 八つ当たりしてぇ。
マルイドが苦笑しメイディがパンを凝視する中、きっちり五等分にして、それぞれが手に持つ。ちなみにバスケットは俺がいただいた。
とりあえず皆座ってパンを頬張る。
「やわらかい! あと美味い!」
あの黒パンと比べるのもはばかれるほど違う物だ。日本のパン屋とそう変わらない!
「あら? ホント美味しい…」
シンシアも感想をもらす。俺より良さげな食事をしているイメージだったが、ひょっとして同じかもしれない。
思わず同情してシンシアの肩を叩く。
「なっ!? ちょっと! あんたと違うから!」
「無理すんな」
グーで殴られた。なんて手が早いんだ、この女!
「ハハハ! いやぁ、いいねぇ~」
両手にパンを持ち面白そうなマルイド。メイディも目を細めてパンをちぎりながら食べていて楽しそうにしている。
ムランは黙々とパンを頬張っていて、胃につめるのに夢中でこちらには気が回らないようだ。
一息ついたところで飲み物を買ってくる。もちろん金は徴収した。ビンボーな俺におごりの文字はない。
「とこで師匠」
「……何?」
飲みながらメイディがこちらを向く。なんか普通に戻ってるな。
「いや、元気になったらそれでいいけど。頼りないけどさ、悩みがあったら聞くよ?」
「プ、ククク……」
おい! なんで吹き出しているんだよ! 俺の優しさ返せ!
メイディはちらっと眉をひそめるシンシアに目をやりこちらを向くと、気まずそうにしている。
「……悪い。そうする」
照れてるのか?
いつの間にか頭に登ったムランが連打している。なんだよコイツは! 視界がブレブレだよ!
「まあ、これから良くなっていくんじゃねぇの? まだ始まったばかりだ」
ニヤニヤしているマルイドが皆を見渡す。なんかリーダーっぽいな。
「……そうね」
「そうそう、あんたら人に迷惑かけないようにしなさいよ?」
メイディのうなずきにシンシアが続ける。俺を見て言うな! 全く迷惑はかけてないぞ!
青い空が暗くなり始めた頃、解散して別れた。
今日は疲れた、稽古は明日も続けよう。




