そりゃないよ師匠!
「遅いぞお前ら! 俺はもう疲れた! 何とかしろ!」
「わりい!」
振り向きもせずマルイドが声を上げる。
俺に目を向けた一体に武器を振るうと上手く避けられた! むぅ、やっぱり。
「ヘタクソ!」
ムランが魔法を行使してストーンオーガを串刺しにしていく! 俺のお株を奪われた!?
一体が倒れる間にマルイドに気を取られている残りに肉薄し、低くハルバートを振るって片足を両断する!
「ゥガアアアアアア!」
叫ぶストーンオーガにマルイドが蹴りをくれると仰向けに倒れた!
すかさず頭に武器を突き刺すと動きが止まる。
「ふー。こんな討伐は初めてだぜ。お前らって強いけどアホだな」
額の汗をぬぐってマルイドが二カッとする。
「悪かったよ。マルイドがいてくれて助かった」
「ハハ! だろ?」
笑ってマルイドが近づき肩を叩く。
ふと思ってメイディの方を見るとドヤ顔で見守っている。ちょっとは助けてよ!
「……依頼達成!」
拳を上げて宣言するメイディ。達成なのか? まあ、いいや。
それから討伐証明の部位を切り取り、町へと戻る。
「まあ、初めてにしちゃあ上出来か」
マルイドがニッとメイディに笑いかける。
「……そうだね」
満足気にメイディが応じている。お前らって気楽だな。
「いや、ダメだろ! どう考えても変だ。もっと連携しようよ!」
「おい、おい。まさかヨシオから“連携”なんて出てくるとはなー」
マルイドが突っ込む。って、違うだろ! 俺は慎重派なの!
「……無理」
すまし顔でメイディ。なんでそうなの師匠。しかも今回は特に活躍してないぞ。
あーだこーだと話しをしている内に町へたどり着き、ギルドへ向かう。
しかも不毛な会話が続き、俺はグッタリだ。
「あら? 思ったより早いね」
ギルドに戻るとシンシアは少しビックリしている。
「……これ」
カウンターに討伐証明を置くメイディ。マルイドは頭に両手を置いて気楽にしている。
シンシアは出た物を見て目を見張る。
「ウソ! 四体も倒したの! 凄い! さすがメイディね!」
ドヤ顔のメイディの手を取り喜ぶシンシア。俺にもその笑顔が欲しい。
「……私がやった」
「おいコラ! お…」メイディにすごい勢いで睨まれ言葉を失う。
口をパクパクしてる俺。ああ、この師匠は性悪だ! 誰かと取り換えて欲しい!
「やっぱりメイディは頼れるね。少し待ってて」
そう言い残しシンシアは奥へ消えていく。お前も友達なら、もっとお互い知ろうな?
急いでメイディに抗議をしようと目を向けると、めちゃ威圧してくる。
「……言ったらぶちのめす!」
「なんでだよ! ほら、マルイドも言ってくれ!」
助けを求め振り向くとそこには誰もいなかった……。は?
「マルイドなら出て行ったぞ。諦めた方がいいよ?」
ムランが諭す。つか、お前はそれでいいのか!? 何でこういうのにはスナオなんだよ!
鼻息荒くメイディは俺を凝視する。ああ、くそ!
「わかったよ、師匠……」
「……うむ。よろしい」
ニッコリ顔を傾け笑いかけるメイディ。絶対、ご褒美のつもりだこの女。こんなんいらねぇよ!
やがてシンシアが現れると今回の報酬を出してくる。
ソワソワしているメイディ。何か不満なのかジッとシンシアの目を見つめる。
「……ランク?」
「あ、ごめんなさい。メイディは頑張ってるけど実績が足りないの。ごめんね」
すまなそうにシンシアが言い訳している前で、あからさまにガッカリしているメイディ。
金だけ取ると、うなだれたままメイディが出口に消えていった。し、師匠……。
これはまた毛布かぶってんな、きっと。
「シンシア。後で師匠を見てやってくれよ」
「はぁ? 言われなくても励ますよ。あんたに心配される方がよっぽど落ち込むよ、きっと」
呆れたシンシアが答える。一言多い上に逆に俺が傷つくわ!
ふと頭の上が静かなのに気がつき首を巡らすとムランは寝ていた。魔法を使い過ぎたのか?
「ホントはどうなの?」
意外と理解の早いシンシアがムスッとして聞いてくる。
「ま、まあ、これは師匠には言うなよ? 後で俺が怒られるから」
「わかったから早くいいなさい!」
なんでこうセッカチなんだこの女は? もう少し落ち着け!
「ムランと俺で四匹倒した。マルイドもけん制とか囮とかで活躍して、師匠は…うーん、頑張ってた?」
「プ。クククク……」
顔を隠して笑っているシンシア。いや、ツボがわからん。
「ふう、わかった。メイディには言わない。ありがと、お疲れ」
「じゃあな」
残りの金を受け取ってカウンターを後にする。
ギルドの出口に近づくときに気がついた。まて! シンシアがスナオにお礼を言った!?
振り返るとカウンターにうつむいているシンシアが見えた。気のせいか……。
ギルドを出るとマルイドが待っていた。ここじゃなくて一緒にいてくれよ。
「よお。メイディが肩を落として帰っていったぞ。何かあったか?」
「師匠はランクアップしなかったんで落ち込んでた」
なーるほど、てな顔でマルイドがうなずく。
「あと、これ。マルイドの取り分。それと、相談があるんだけど」
「お! サンキュ! で、何だ?」
嬉しそうに金を受け取ると怪訝な顔で見てくる。そんな不安か?
「いや、稽古をしてもらいたくて」
「ああ、それか! 実際、戦いを見ると武器の振りはまあまあだが、他はなってない。それに約束したからな」
「助かるよ!」
そんなわけで広場へ移動していく。すっかりここは常連だな。
着いた俺たちは周りに人のいない場所へ向かう。いまだムランは寝ていた。
「よし、この辺でいいか。とりあえずやってみよう」
マルイドが短剣を抜くと笑いかける。
「人に教えた事なんてないから実戦形式でいくぞ。その中でアドバイスしてやる」
「お願いします!」
スナオに返事をして両手で武器を構え、マルイドに攻撃していくが上手くかわされ蹴りをもらい、その都度アドバイスが飛んでくる。
なるほど、これなら体で覚えるからいいかもしれない。
体力には自信があるのでマルイドがへばるまで訓練は続いた。
「はーっ、はーっ、はーっ。今日はもうムリだ! 体力化け物め!」
大の字になってマルイドが叫ぶ。どっちが稽古をしてもらっているか分からなくなるな。
「ポーション飲む?」
「アホか! 殺す気か!」
気を利かせたら目くじら立てて怒ってくる。体が細いからなぁ、マルイドは。
近くの屋台で飲み物を買ってマルイドに渡す。ちゃっかりムランは起きて自分の分を確保していた。その嗅覚はなんなの?
少しは落ち着いたのか飲み物片手に起き上がってくる。
「しかし、一体どんな訓練したんだよ?」
「体力が無くなるまでぶっ続けに動いて、ポーション飲んで倒れるまで動く。これの繰り返し」
そんな信じられない目でみるなマルイド! ひょっとしてメイディって無茶苦茶?
「ああ、そうだ。思い出した。師匠はメイディだもんな。ああ、そうだった……」
遠い目をしたマルイドが何かを忘れるようにゴクゴクと飲んでいる。
「そう言えば、マルイドもそうだけどメイディって何で一人なんだ?」
「ハハ。見りゃあわかるだろ? あの口ベタっぷり。確かに腕も容姿もいいけどな、少なくともこの町では有名だよ。俺は相性が悪くて一人が多いな。だいたいお前はどうなんだ? つき合いづらい二人と普通に話しやがって」
「いや、俺もいろいろと工夫してるわけ。なんとか」
苦笑いで答えるとムランが頭を叩いてくる。
「嘘つけ! このアンポンタン! 何も考えてないくせに!」
「うっせー。お前も知らないテクニックがあるんだよ! わかったかタコ!」
ムランがポコポコ叩いてくるので反撃していく。
「お前らが一番変だったのを忘れてた。ホント、仲良いいな」
マルイドは苦笑いしている。いつまでも頭を叩くなムラン!
しばらく三人で休んでいると後ろから声をかけられる。
「あの…この間の夜に助けてくれた人ですか?」
振り返ると後ろ姿がシンシア似の女性がおずおずと尋ねているのが見える。明るい色の服が似合っている感じ。
前から見ると全然似てないな。いや、かわいいけど。
「あー、どうも」
「良かった! あの時はいなくなってすみません。お礼を言いたくて探していました」
花咲く感じでニッコリする女性。ああ、シンシアに似ているなんて思って申し訳ない気持ちに一杯になる。
あの女はこんな顔しないし。
「いや、そんな事してないから。あ、俺はヨシオ。こいつはムラン。こっちはマルイド」
ムランとマルイドが手を上げて挨拶する。
「リリエラです。あの、もしよろしければ……」
「待て。その前に俺に話しを聞かせろ。な?」
リリエラをさえぎってマルイドがニッとしてくる。くそ! 言いたくなかった。
しぶしぶ話すとマルイドが爆笑している。ムランも笑って頭を叩く。ってお前当事者だし、聞くの二度目だろ!
「それでシンシアさんの名を呼ばれたんですね」
合点がいったリリエラが両手を合わせている。いや、待て。
「シンシアの事、知ってるの?」
「ええ。冒険者ギルドは有名ですから。それにヨシオさんの噂も聞いてましたし」
リリエラが嬉しそうに語り、マルイドを見るとニヤリとしている。おい! 言ってくれよ!
「それに頭に使い魔を乗せてる人はこの町で一人だけですから、すぐわかりました」
ははっ、なるほどね。俺たちってスゲー目立ってるのかも。
気づかないのは当人ばかりかよ。




