ランクアップは風の如し
翌日、マルイドと共にギルドへ向かう。
「よく考えたらマルイドって、あの宿の常連なのか?」
「おー、当たりだ。一匹狼で冒険者やってたわりに一人部屋が嫌いなのさ」
ニヤリとするマルイド。俺の肩にいたムランが怪訝な顔をしている。
「ヨシオ、こいつも変だぞ。なんでオレの回りにはオカシナ奴が多いんだ?」
「お前って、自分の事を棚に上げすぎだよな。一番変なのは、オ・マ・エ、だ!」
答えてやるとポコポコ頭を叩いてきた。
「ふざけんな! オレが大人しいからって調子に乗りやがって!」
俺の耳元で叫ぶな! うっとうしい!
「おたくらもよく飽きないな? 一日中ケンカしてさ」
物珍しそうにマルイドが見て笑う。
ムランはピタリと攻撃を止め、いそいそと頭に避難しだした。根性なしが!
そうこうしてギルドに着くと、すでに昨日参加していた冒険者が集まっている。皆、朝早いな。
いつものようにシンシアの所へ行くとメイディも来ていた。
「オハヨー師匠! ついでにシンシア」
「ついでって何よ! このアンポンタン!」
今日もシンシアはいい返事だ。こんな事になれている自分が怖い。そしてメイディは無言で確認している。
「もう結果は出たのか?」
今のやり取りをスルーして聞いてくるマルイド。こいつも気にしなさすぎ!
「あ、えっと。こほん。報酬は均等になったので後ほどお渡しします。後、そこの男がランクアップしました」
睨みをきかせて不愛想に口を開くシンシア。マルイドはドン引きして腰が引けている。
「え!? マジでやった! よくわからないけど嬉しいよ!」
「はぁ、わかんないなら聞きなさいよ!」
シンシアに怒られる。もうすこし喜んでくれてもいいと思う。
「お、オレは!? こいつがそうならオレも上げてくれよ!」
ムランが無茶を言い始める。こいつわかってないな? 自分の立場が。
「あのね、ムランちゃん。あなたは使い魔なの。だからムリ!」
優しそうで突き放すシンシア。ムランが腹立たしげに俺の頭を連打する。なんで反論しないんだよ!
「とにかくほら、ウッドプレートを出しなさい。早く!」
イライラするシンシアにプレートを差し出すと、ひったくるように取り上げられ、代わりに銅のプレートを渡される。
「はい。これがブロンズ。失くすな」
受け取ると材質が違うだけで木のプレートと同じような文字が彫ってある。
すると、今まで空気だったメイディがシンシアに近づく。
「……私は?」
「えっ!? メイディはとても活躍したけどまだよ。ごめんなさい」
シンシアがすまなそうにメイディの手を取る。おい! 何この差! 理不尽だろ!
俺の睨みを気にせず席に座るシンシア。
「以上よ。解散!」
しかも勝手に解散しやがった。
マルイドは苦笑しながら手を振るとギルドの出口へ向かい。メイディはガックリ肩を落として併設のバーへ直行している。
んー、魔法の修行なナシか。今日はやることがないな。
カウンターにもたれかかり、考えているとギロリとシンシアが目を向ける。
「なんで、いつまでもいるの?」
「いや、暇だから」
「あたしは忙しいから、あっちに行って!」
シッシッと手を動かすシンシア。ホントに扱いが雑。
「ハイ、ハイ。また明日!」
「もう来るな!!」
怒りのシンシアを残して俺もギルドを出る。
「で、私の所に来たの?」
「そう」
あまりの暇さにアンジェロの店に来てみたが、引きつった笑いで迎えられた。
今はカウンター越しに対面している。
「はぁ。あなたもう少しシンシアちゃんに優しくしなさいよ」
「なんでシンシアが出てくるんだ? それにいつも親切にしてるよ!」
疑いの眼差しを向けられるが真実だ。むしろ俺に優しくして欲しい。
「うちは夜店なの。わかる? 今は準備中」
「いや、すんなり入れたからさ」
「そりゃ、入れるけど見たらわかるでしょ」
確かにわかる。客がいないもん。俺しか。
「そこで相談なんだけど」
「何? ここを出てくれるなら大歓迎よ」
アンジェロが呆れながら身を乗り出すと大きな胸が揺れる。
「どこか暇をつぶせる所はないかな?」
「ホント不思議ね。今まで何やってたの?」
「え? ずっと修行しかしてなかったから町の事がわからないんだ」
はぁ、とため息をついたアンジェロは、何か考えついたのかニコッとしてくる。
「ちょうどいいのを思い出したわ。町の広場の先にある川沿いに木工所があるから手伝ったら? 日当も出るわよ」
「お! いいね! ありがとう! 暇をつぶせて金も手に入るのか! サイコーだ!」
カウンターから立ち上りアンジェロに向く。
「来てよかったよ。ありがとう! 今度はちゃんと注文するよ!」
「そうね。じゃんじゃん飲んでね。またね」
自己主張の激しい胸に別れを告げ木工所へ向かう。
「オイ! そんなに暇ならオレに優しくしろ!」
道すがら、いきなりムランが主張しだす。
「いつも優しいだろ? なんでさっきは黙ってたんだ?」
「オレは嫌いなの、あのオッパイおばけが!」
「プッ、おばけ……」
「うっさい! オタンコナス!」
怒ったムランが頭をポコポコ叩いてくる。お前の表現はワンパターンだぞ!
そんなこんなで少し道に迷ったが木工所らしき倉庫のような建物の前に着いた。
ここかな?
倉庫の開いている大きな扉から中へ入るとおっさん達がノコギリや道具で木を加工しているのがうかがえる。
誰とも無く声をかけてみる。きっと反応はあるはず。
「こんにちはー。ちょっといいですか?」
「あん? おたくら誰だい?」
ちょうど近くにいたひげ面のおっさんが、いぶかしげにノコを持つ手を止め顔を上げる。
「日雇いの仕事があると聞いてきました。ありますか?」
「ああ、そういうことか。それなら奥に居るオールマンに聞いてくれ。彼が雇い主だ」
おっさんはアゴで建物の奥を示し説明すると再び作業を始める。
お礼を言って奥へ向かう。木くずがあちこちに散乱して独特の香りが鼻をくすぐる。こういうのはどこも一緒だな。
そこには机があり、イスには太ったおっさんが作業を監視しているようにギョロギョロと周りを見ている。
俺を認めると向こうから声をかけてきた。彼がオールマンか?
「ここに来たって事は仕事だな? どの期間できる?」
「今日一日で」
挨拶も無く実務の話しを始めるおっさん。名乗りもしなくていいのか?
聞くと日雇いも大丈夫だったのでお願いすると人を呼んで案内してもらった。契約書とか無いのか…。いや、あっても読めないけど。
与えられた仕事は大木を切断するものだった。
倉庫の裏手で大木が積まれている中、巨大なノコギリを使い二人一組で切っていく。
これまた知らないおっさんと組んで木を切っていく。
最近の鍛錬のおかげか意外に楽に作業ができた。どちらかというと組んだおっさんがスグへばるので休み休みで行う。
休みの多さに焦れてきたので監督していたおっさんに言って、一人で切れるぐらいの丸太に変えてもらう。
これなら気兼ねなく切りまくれる。
その後は一心不乱に切りまくった。ある意味これも修行だ。
「なあ? お前って冒険者より、コッチの方が合ってるんじゃないか?」
頭にいるムランがつまんなそうに言ってくる。
「恐ろしいこと言うな。薄々俺もそう思ってたところだ」
ムランが頭を叩いて笑っている。なんだよ!
どんどん丸太を切りまくり同じ長さの木材が積み上がる。
やがて辺りが薄暗くなる頃に作業の終了を告げられ、給料をもらった。こういう時が労働した実感がでるな。
「良かったら明日も来てくれ。かなり助かったよ」
ホクホク顔の雇い主の太ったおっさんに礼を言われる。
「明日はわからないけど、気が向いたら来るよ。じゃあな!」
臨時の収入にウキウキして宿への道を急ぐ。
「せっかく金が入ったからアンジェロの店に行くか!」
「バカ! すぐに使うな! それにアンジェロの所は嫌だーー!」
ムランが暴れているが無視。軽い足取りで広場を横切っていく。
「いやぁー! さわんないで!」
ちょうど暗がりを通る所で女性の声が聞こえる。なんだ?




