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弟子の手柄は師匠のもの

 

 地面に転がるデカいゴブリンを追いかけ、起き上がる前に頭をハルバートで突き刺すと動きが止まる。

 メイジゴブリンを探すと、いたと思われる付近の場所が黒く焦げている。ムランがやったな。

 周りを見ると優勢になった冒険者たちが残りのゴブリンを掃討しているようだった。

 俺たちの近くにはいないようなので加勢に行くか迷っているとメイディが隣にくる。

「……もう大丈夫。残りは彼らがやる」

 肩に手を乗せると緊張が解け、いきなり身体が重くなる。だ、ダリい。

 その場に座り込むとムランが降りてくる。

「もうへばったのか? まだまだ一人前だな~!」

 腕を組んでしたり顔で俺を見る。はぁああ! 殴りたい! けど、体が重い。

「うるせー、タコ!」

 なんとか口だけで反撃をするが知らぬ顔のムラン。ちくしょー!

「……休んで」

 メイディはそう言い残し、他に足を向けて行く。

 意外な優しさ。師匠……。


 □ □


 ギルドの二階へ上がると下からの騒音が遠ざかり静寂に包まれる。

 主にここは会議室や資料を収めた図書室などの大きな部屋が並んでいて、依頼内容によって複数のパーティーがミーティングに使用したりしている。

 その中の一角にギルドマスターの部屋があり、あたしはそこに向かっている。

 ドアをノックして中へと入る。

「おー。来たかシンシア」

「何か御用で? マスター」

 大きな書斎机に座るがっしりとした大男、ギルドマスターが笑顔で迎えてくれる。いい人なんだけど、あたしは少し苦手。

「おい、おい。普通でいいんだぞ。叔父さんなんだからさ」

「ドノバンさん。何か用ですか?」

 フフフと笑い、コップに水を注ぎあたしに差し出す。目が座るよう求めている。もう、嫌だなぁ。

 コップを受け取りイスに座ると、叔父さんが両手を組んで見つめてくる。

「なんでも面白い新人が入ったようじゃないか。シンシアが担当なんだろ?」

「そうですけど。それが?」

「ふー、良かった。少しは気にしていたんだ。その、君の受付にはなかなか男性がこないからな」

 少し安堵した叔父さんが姿勢を楽にする。

 あたしの男性に対する態度の話しはこれまでもしてきたし説明してきた。だが、叔父さんはいまいち理解していないようだ。

「まあ、一人だけですけど」

「それでもいいんだ。少し噂を耳に挟んでね。なんでも毎日飽きもせず受付で騒いでるとか」

 ニッとする叔父さん。もう! あのバカのせい! 自分の顔が赤くなるのがわかる。

「ご、誤解ですから! あの男が言うことを聞かないからです!」

「ほお、私以外にも普通に接しているのかね?」

「そんな事はないですけど、あの男は何故か気にしないんで……」

 ごにょごにょと言い訳するけど、優しそうな目が痛い。ああもう!

「そうか、いい傾向だ。話しは変わるが今度のゴブリン退治にその新人も同行させたとか。まだウッドなんだろ?」

「あ、それならメイディのパーティーメンバーなので許可を出しました。彼女ならフォローもできます」

 この質問は、ずっと言われると思っていたので想定の答えを出す。でも、あのアホはどっかでくたばったほうがいい。

「ほぉ、あのメイディが、な。しかもマルイドも加わったとか?」

「え、ええ。今朝、突然加入の申し出をしたので受理しました」

 焦って答える。これは想定外。だけど二人ともアイアンの冒険者なので大丈夫なはず。

 叔父さんは水を飲み一息入れると真面目な顔つきになる。

「今度の調査団にメイディも加えようと思っていたのだが、このままではパーティーごとになるな。その新人はどうなんだ? 森の奥深くまで行けると思うか?」

 思わず息を飲んだ。そんな、あたしの親友を調査団に? あのアホは好きなだけ奥に行けばいいけど。

「わかりません。ただ、今回のゴブリン退治の結果次第です。無理な場合はパーティーを強制解散にします」

 ふーっと息を出した叔父さんはイスに深く座り直す。

「ま、そうだろうな。私も同意見だ。メイディは君の友達だからな。だが必要な人材だ」

 黙って叔父さんを見つめる。

 調査団とは開拓可能な地形、地質、魔物の生息域など多方面を調べるために町から送り出される者たちの事だ。

 王都より派遣された学者が調査をする間、魔物からその身を警護するため冒険者が集められる。

 どんなに優秀な冒険者も続けて調査団に選ばれることはない。それだけ危険な任務なのだ。だから持ち回りで対応していく。

 元々優秀な魔法使いだったメイディは幾度も候補に選ばれたが、本人のコミュニケーション不足のため回避してきた。

 だが、とうとう出番が回って来た。あたしじゃどうにもならない。


 そんなあたしの思いを代弁するように叔父さんは続ける。

「…結論は後だな、まだ時間もある。ところで、その新人はなんていったかな? ヨッシー?」

「違います! ヨシオです!」

 は! 間髪入れず答えてしまった。ああもう! 叔父さんの目が笑ってる。

「そうそう、ヨシオだ。さすがだな。用はとりあえず以上だ」

「わかりました。失礼します」

 手つかずのコップを机に置き部屋を出ようとする。

「しかし、君も大胆だな?」

 扉を開けたところで叔父さんの不意な言葉に体が熱くなる。

 何も言わずに睨むと笑顔で応える叔父さん。絶対にあたしの行動を知っているに違いない。

 乱暴に扉を閉め廊下に出ると少し冷静になれた。

「ふー、全部あのバカのせい! ホント、ムカつく」

 呟きつつ足早に二階を去り階段を急ぐ。

 受付のカウンターに座り、通常の業務に戻るがまだメイディたちは戻っていないようだ。

 女性の冒険者数名を応対し、何故か度胸試しのような男性冒険者をあしらうが特に問題はなかった。

 ふと静かな時間が流れると騒がしいあいつらが懐かしくなってくる。ウソ、あたしはそんな弱くはないはず。

 日も傾きつつある時間にギルドの入り口が騒がしくなってくる。……戻って来た!

 見飽きたあの顔が現れた時、思わず口元がゆるんでしまう。

 でもそんな事は表に出さないよう引き締める。絶対、からかわれるから。


 □ □


 どうやらゴブリンを全てかたずけたようだ。

 あちこちで冒険者が討伐証明の耳をそぎ落としている。

 ボケーっと見ていたら少し身体の重さも取れた。あんなに張り切っていたムランはグッタリしている。全然ダメじゃん、このタコ!

 ヨロヨロと立ち上がるとリーダーがこちらに来るのが見えた。

「よお! ずいぶん活躍したな! そんな体に見えないけどな?」

「あ、ども。魔法を使って強化しました」

「は!?」

 スナオに言うとリーダーが目を見開く。なんかイケないことか?

 すかさずメイディが俺を押しのけてくる。なんだ?

「……私がやった」

「あ? ああ、なるほどな! そういうことか! ハハハ! ビックリしたぜ! さすがだなメイディ!」

 納得したリーダーが爽やかな笑いを上げ、何処かへ行ってしまう。おい! おい!

「師匠! ちょっとズルイだろ!」

「……手柄は師匠!」

 すごい冷めた目で俺を見るメイディ。何、無茶苦茶いってんの?

「なんで弟子から横取りすんだよ! ヒデーだろ!!」

「……約束!」

 指を立てて凄んでくる! くそー! 確かにしたけど、鬼か!

「むぐぐ…!」

 歯を食いしばって文句を我慢しているのを見て、満足したようにメイディがニコッとする。

 ちくしょう! こんな罠があったなんて! 一時でも良い人かと思った自分を殴りたい!

「なあ、おたくら一体何者なんだよ?」

 今度はマルイドが訪ねてくる。なんなんだ?

「いや、メイディの弟子だって」

「はー。そうだな。まあ、いいか」

 何か諦めたようでマルイドは肩を落とす。そんな落胆することか? つか、何が言いたいんだ。

 その後、必要なものを回収して町のギルドへ戻る。

 上機嫌のメイディと苦笑いしているマルイド。この差は何だろうか? 謎だ。

 ムランは疲れたのかずっと寝ている。こいつは静かだと物足りないし、起きてるとうるさいから何ともいえないタコだ。


 ギルドに戻ると案の定、シンシアが仏頂面で待っていて今回の報酬やらを協議するようで明日来いと言われた。

「……飲む」

「ええ、そうしましょ」

 メイディとシンシアはこの後、飲みに行くようだ。付き合うとろくな事がないので、ダッシュで離脱して安宿で休む。

 ベッドに横たわり今回の事をよく考えると、いいように使われていただけのような気もする。

 メイディには今度、仕返しをしてやる! 待ってろよ!

 ひそかに燃えていると、ふと視線を感じる。顔を向けるとマルイドが自分のベッドに座ってニヤニヤと俺を眺めていた。

「見てたのか?」

 マルイドはうなずいて応え、横になる。

「いや、面白い。入ってよかったぜ」

 そう呟くと背を向ける。何考えてるか全然わからん。

 も、寝よ。



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