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いい思いつきは、ロクな事にならない

 

 理解したムランの目に希望が輝いている。

 俺の鋭い考察に関心しているようだ。ふふ、まいったな。

「てなわけで、これから試してみようと思うんだ」

「えらく急だな。明日でもいいじゃん」

 いぶかしげにムランが見つめる。なんでこういうのは鋭いんだこのタコ。

「いや、酒場で師匠とシンシアに殴られたから、明日、顔を合わせづらい」

「プッ! 自分が悪いんだろ!」

 吹き出してあきれ顔のムランをほっておいて俺の考えを説明する。

「この星がどこにあるのかさっぱりだが魔法なら超越できるはずだ。まずは俺が試してみるから見ててくれ」

 あぐらをかいてリラックスした姿勢になる。よし、イメージして念じればイケるはず!

「な、なあ、ヨシオ。ホントに大丈夫なのか?」

 心配そうにしてムランが寄ってくる。嘘だろ!? 初めて心配されたぞ!

「わからんが大丈夫と思いたい。ムラン、短い間だったけどお前に会えてよかったよ。じゃあ始めるぞ!」

「……ヨシオ」

 何か言いたげなムランを待たずに目を閉じて地球へ帰還するイメージを膨らませる。


 ……具体的に何も思いつかない。ヤバい、地球とかいっても対象が漠然としすぎる。

 そ、そうだ、実頼(みより)ちゃんの顔を思い出していけば帰れるかも!

 ……薄ぼんやりでダメだ。あんなに好きだったのに顔をハッキリと思い出せない。何故か変わりにシンシアの顔がちらつく。

 いかん、焦ってきた。

 くそう、俺は帰りたい! 帰るぞ!

 ……もんもんと地球についてあれこれ考えるが、どうしても酒場にいた女性の胸にたどり着く。

 だ、ダメだ。そっちの方向は危険だ。

 地球、日本、ラーメン、ステーキ、ナポリタン、コーヒー、ビール、焼き鳥、居酒屋、胸……胸……胸?

 と、体が熱くなると同時に周囲の何かの力が身体に注ぎ込まれる感覚。力が身体を駆け巡ると共に勢いよく放出していく。

 うおおおおぉ。これが星を渡るってことか!?

 ふと目を開けると目の前が光に包まれている。あれ? お馴染みのタコが光を前に目を見開いていた。

「なんでお前がいんの?」

「はあ!? ヨシオはさっきからここにいるじゃん。この光はなんなの?」

 あきれたムランが光を指す。

 すると光がフッと消え、代わりに人影が現れる。


「あら? ここは?」

 俺たちの目の前に現れたのは酒場で出会ったあの胸でか美人。突然の事でキョロキョロしている。いや、なんで地球に帰れないの?

「あ? ヨシオじゃない。あなたが何かしたの?」

 茫然としている俺を見つけると睨んできた。ヤバい。事態が悪い方向へいきそう。

「あ、どうも。少し魔法の練習をしていたら間違ったみたいで……」

「ふ~ん。本当なの? ムランちゃん?」

 突然指名されたムランはガチガチに固まっている。おい! ホント、俺と他人に差がありすぎる。

「ほ、ほほ本当だよ。このバカが魔法の使い方を間違えたんだ」

 三本の手を全て俺に向けるタコ。胸デカ美人が俺の元へ歩み寄ると頭を両手の拳でグリグリしてきた。痛い! けど逃げたらヒドイ事になりそう。

「私はアンジェロ。あそこの酒場を経営しているの。わかった? どうせ呼び出すならシンシアちゃんにしなさい!」

「す、すみません!」

 謝るがちょうどグリグリしている前にはあの胸がある。もろガン見だ。ある意味、役得かも。

 いきなり両の拳に力が入る。痛てえええ!

「あなたってホントわかりやすいのね。どこ見てるの?」

「だって目の前にあるじゃんか! 俺に言う前にその自己主張をどうにかしてくれよ!」

 破れかぶれで叫ぶと、ふと両手を離し後ろに下がるアンジェロ。

「プッ、フフフ。なるほどねェ。確かに変わっているわね。ま、いいわ。こんなところで女一人ほっぽとくの?」

 腕を前に組んで見下ろしてくる。ちっ、めんどくせー。しかし、俺が原因だからいかしかたない。

「今回はすまなかった。俺もこんなことになるなんて予想してなかったからさ。当然送っていくよ」

「そう、そう。スナオが一番。さ、行きましょう」

 送ってくれとか言いながらアンジェロが先頭で歩き始める。慌ててムランを肩車して後を追う。


「シンシアちゃんの話しだとこの町にフラリと現れたらしいのね?」

 夜道に足を進めながらアンジェロがちらりと向いてくる。一体、俺の何を話してるんだあの女。

「ま、まあ、詳しく説明できないんだけど、俺たちも突然でさ。飛ばされたっていうかさ」

「ふ~ん。今の私みたいに?」

 ギョッとした! 鋭い! ヤバい、誤魔化さないと。

「そ、そうなんだよ。遠い島国でのほほんと暮らしてたんだけど、突然?」

「へぇ、興味出てきた。また、うちの店に来て。一杯はおごるわ」

 探るような眼差し。なんか感づかれた気がする。うかつなこと言えないな。

 適当に話題をはぐらかしている内に酒場に着いた。

「ま、私がいなくても大丈夫だけどね」

 ニコリとして店内へ入る。ここで別れたかったが、しぶしぶ後に続く。

 中は来た時と違って客はまばらなようで喧噪は無くなり、しんみり飲む雰囲気になっている。もうそろそろ閉店かな?

「……良かった」

 アンジェロに気がついたメイディがホッとしたように駆け寄ってくる。

「……何故いる?」

 俺を見て一言。なんでそんな冷たい目をしてんだよ!

「ちょっとね。彼とはいろいろあったのよ。詳しくはまた今度ね」

 優しくメイディの肩に手を置いてカウンターに向かってアンジェロが行く。

 ギロリと俺を見る師匠。怖えぇ。頭を横に振って否定する。ムランも何か言えよ! 見ると寝ていた……。

「……ちょうどいい」

 気を取り直したのか俺の手を引いて導く。どこへ?

 奥のテーブルに連れてこられると、そこにはシンシアが突っ伏している。あー、酔って寝てるのか。

「……運ぶ」

 シンシアをちらりと見て俺に目を向ける。あーめんどくせー。

 ぐったりしているシンシアをおぶってメイディの後を酒場を出てついていく。

 帰り際にカウンターにいるアンジェロがウインクして見送ってくれた。またこないとな。

 しかし、メイディの後を歩いているが知っている道だぞ。

「師匠。 シンシアの家ってこっちでいいのか?」

「……大丈夫」

 横目で俺を確認して告げるメイディ。なにが大丈夫かは聞かない。いつものことだ。

 やがてメイディの住んでる二階建てのアパートに着く。自分の部屋に泊めるつもりなのか?

 階段を上がりいつもの部屋のひとつ前の扉で止まる。

「……ここ。シンシアの家」

「はぁ!? 師匠の隣だったのか! だから前に師匠の家を知ってるって言ったらロコツに嫌な顔してたんだな!」

 驚いて説明するとメイディは吹き出す。

「プッ、ウフフフ。面白い」

 笑いながら鍵を取り出して扉を開けると中へ入り明かりを点ける。

 テーブルランプの薄明りの中、シンシアをベッドに降ろすとさっさと部屋を出た。

 扉の鍵を閉めるとメイディは俺に向き直って片手を上げる。

「……明日」

「師匠も! ちなみに言っとくけどアンジェロとは何もないからな!」

 言い訳けすると苦笑いで背を向けるメイディ。

「……知ってる」

 言葉を残して自分の部屋へ向かう。ま、いいけど。


 夜も深まり通りには歩いている者はほとんどいない。

 住人の夜は早い。時計がないから時間の目安は日の動きに合わせてとなっているようだ。一応、日時計みたいのもあって、定期的にどこからか鐘の音が聞こえてくる。

 何故、今回の魔法は失敗したのか。たぶん、想いが足りなかったからか? それとも技術的なことか?

 俺がここから飛んでいくはずなのに人を呼んでしまった。謎は深まるばかりだ。

 良かった事と言えば、ムランに変な別れの言葉を言わなくてホントよかった。

 安宿へ戻り、部屋へ着くとマルイドは既に寝ているようで、他にも二人、知らない男たちがそれぞれベッドで寝ていた。

 起こさないようにそっと自分のベッドへ横たわる。

 気がつくとムランは俺の胸にしがみついて眠っている。なんなんだコイツ。そこが定位置なワケ?

 まあ、いいだろう。魔法を使ったおかげで体がものすごく重いしダルかった。

 実はシンシアを運ぶのもキツかった。見栄を張って師匠の前では何でもない風を装ったがバレてなさそうだ。

──ああ、故郷ははるか遠い。



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