気がついたら拘束されていた
「ぐ、偶然だね?」
「あんたは知らないかもしれないけど、私、ここの常連なの!」
ドカッと隣のイスにシンシアが座ってくる。おい! 元の席へ戻ってください!
「なぜ座る?」
「あなた文字を知らないのによく注文できたね?」
俺の質問をスルーして問い詰めてきた。話しの筋が読めない。
「そりゃ言葉が通じればなんとかなるさ」
「ふーん。でも覚えるべきね!」
シンシアが睨んでくる。なんかいつもより絡んでくるし。ひょっとして酔ってるのか?
と、目の前に新しい酒が運ばれてきた。
慌てて見ると店員がウインクして去っていくところだった。金は無いぞ!
「飲め!」
酒の入ったコップを持ったシンシアが凄んでくる。絡み酒だよ!
「あ、はい。いただきます」
しぶしぶコップを持ち一口つける。あれ?
「ぬるくても旨い!」
「ふふふ。でしょ? あたしが選んだから! 選んだから!!」
ナゼ二回言うんだ、この女。よく見たら目が座ってるぞ。
ふと視線を感じカウンターを見ると、メイディとギルドにいたケモ耳のかわいい娘が座っていて視線をそらした。
し、師匠……。いたのね。
「ほら! よそ見しない! 言いたいことがあるでしょ?」
シンシアがコップを持っていない手で無理やり俺の顔を回す。
「何を?」
「わかってるでしょ? 私が教えてあげるから!」
「何を?」
聞くとめちゃくちゃ睨んできた。怖えーよ! 助けて師匠!
「ほ、ほら、も、じを教えてもいいってこと」
今度はモジモジし始める。酔っ払いだわ、これ。
「いや、大丈夫です」
バシィィ!
痛てえ! グーで殴られた! イスから転がり落ちる!
すると回りの者たちがテーブルを移動し、ちょっとした空間ができる。いや、待て! 見てるなら止めて!
「ちょっとは人の好意を受け取りなさいよ!」
殴った本人が怒りながら俺をイスに再び座らせる。
「飲め」
コップを出してきた。勘弁して!
受け取り飲む。旨いはずだが味がしない。ここは何とかしないと!
「まあ、待てシンシア。その前に笑顔の練習をしよう!」
「え?」
いきなり俺の反撃に戸惑っているシンシアに追い打ちをかける!
「笑ったらかわいいんだから、もったいない! なので笑顔の練習!」
少し頬を赤らめてどうしたらいいか迷っているな。フフフ。
「ほら! 一口飲んでから笑って!」
コップを差し出すと受け取り一口飲む。そしてぎこちなくニコリとするシンシア。
「まだだ! 硬い! 硬いよシンシア! ほら、もっと飲んでから笑って!」
ゴクゴクと酒を飲んでからニッコリするシンシア。目が座ってるから怖い。だが俺は攻撃の手を緩めないぞ!
「少し良くなったよシンシア! その調子! さ、飲んで!」
また飲んでニッコリするシンシア。酔ってるから自分のやっていることが分からなくなってきたみたい。プッ、面白くなってきた。
「いいよ! すごくいい! だがまだまだああああぁぁぁ! 痛てええ!」
いきなり後頭部をぶっ叩かれた!
悶えて後ろを見るとメイディが怒りの目で見下ろしている。
「……バカ。やめて」
反論しようとしたとき、頬に強烈なパンチが当たりひっくり返った!
「あたしで遊んだわね!!」
その声を最後に記憶が飛ぶ──……
……──はっ! 気がついた。
ここは?
薄らぼんやりと視界が開ける。
ふと口に異物を感じて取ろうとするが腕が動かない。
頭を動かし体を見ると手足が縛られている。
何があった? シンシアに殴られるところは覚えているけど。しかし、腰の入ったいいパンチだった。
「おい! 起きたか?」
頭をめぐらすとムランがご立腹な様子で立っている。
「もがーもごもごがあああ!」
だめだ言葉にならない! あのタコが縛ったんだな!
「お前は女にだらしなさすぎる! お仕置きだ!」
何故か怒っているムランが二本の手を向けてくる。つか、なんでお前がお仕置きなんだよ!
「むもがー! もががが!」
「あーもう、何言ってるかわかんないよ」
トコトコとムランが来て口に突っ込んでいた布を取る。やっと口が自由になった。
「ペッ! ペッ! アホか! 何やってんだよ、お前は!」
「ん~、お仕置き?」
一本の手を頭につけるムラン。ハテナのつもりか!
「なんでお前がお仕置きするんだよ!」
「は? 当たり前だろ! オッパイばっかり見やがって!」
「あれは見るだろ! お前だってデカさにビビってたろ!」
ムググって顔で俺を睨むムラン。なんなんだよ、さっきから。
よく見たらここはいつもの安宿だ。いつの間に運んだんだ?
「ちょっといいか?」
知らない声がかかり、二人でその方を向くと細い体で背の高い鷲鼻の冒険者らしき男が呆れた顔で立っている。
「誰だ?」
「あー、そこから? お前は知ってるぞ、ヨシオとその使い魔だろ? オレはマルイド。ちなみに同室の客だ」
「あ、どうも。よろしく」
動く頭だけ振って挨拶する。よく考えたらベッドが六床あるから他の人がいてもおかしくない。今まで出会わなかったのが珍しい事なのかも。
そんな俺たちを見たマルイドは苦笑いをしている。
「ハハ。仲がいいのはわかったから、もう少し大人しくしてろ、な?」
「すまない。全てはコイツが悪いんだ。お前も謝れよ!」
ムランを見ると膨れて三本の腕を組み、そっぽを向いている。おい、ホントに頼むよ。
「ま、いいけど。また騒いでると追い出されるぞ」
後頭部をかいて自分のベッドに寝転ぶマルイド。何故助けてくれないんだ?
ムランに向き直るとジト目で俺を見ている。
「なあ? ムラン。解放してくれよ? な?」
「……なんかシラけた。これから魔法でネチネチといたぶる予定だったのに」
しょんぼりするムランが俺のところへ来て縄を外す。はー、やっと自由になった。
「お前って、やることえげつないな」
文句を言っている時に気がついた。なんで今まで思いつかなかったんだ……。俺ってバカ。
慌ててムランをつかむと肩車して部屋の扉に向かう。
「お~い。寝ないのか?」
そんなマルイドの言葉を背中に受けつつ、宿屋を出て町の広場へ向かう。
「もう眠いから帰ろうよ。一体どうしたんだよ?」
なんか嫌そうにムランが頭を叩く。お子様か! こいつは!
「いや、お前に話しがある。二人で話したいんだ。重要な事だ」
「え!? ど、どどどうしたんだよ急に!」
何故かビックリしているムラン。たぶん勘違いしてるな、コイツ。
やがてお目当ての広場に着くが、夜でもちらほらと人影が見えた。
広場は薄明るい外灯がところどころに点在して、蛍のような光を投げかけている。
あまり人のいない所へ移動して座りムランを降ろす。
「どうしたんだよ? こんな所でさ」
「いや、話しがある。俺は気がついたんだ。わかるか?」
すっごい不思議そうな顔で俺を見るムラン。ダメだ、わかってないな。
「いいか? 魔法、魔法だよムラン! さっき気がついたけど、師匠が言ってたろ? 魔法はイメージって!」
「全然わかんないぞヨシオ! ちゃんとオレにわかるように言えよ!」
段々イライラしてきているムラン。お前って気が短いのな。知ってたけど。
「わかんないか? イメージだぞ、イメージ。魔法はイメージの具現化だとすると、ひょっとして帰れるかもしれないじゃん!」
「ええっ!? ま、まさか……魔法で故郷の星に移動しようってことか!?」
驚いて立ち上がったムランにニヤリとする。
「アタリ!」




