森へ出かけてみる
修行を始めて早一か月。いまだ魔法を教えてもらえない。ナゼだ?
その代わり筋肉がつき、重いマトックも楽々振り回せるようになった。それにロードワークのおかげで体力もついた。
あのポーションを飲みながらの強制鍛錬は確実に俺の肉体を改造していく。今ではすっかり細マッチョ。
いったい何を目指しているんだ師匠?
ムランは数々の魔法を扱えるようになり、ますます差が開いていく。あの優越感に浸った顔を見たときに思った。ぶっ潰す、と。
金はメイディに借りたゴールドを切り崩して使っている。驚いたのはゴールドはとても価値がある貨幣だったことだ。
シルバー五〇枚分でゴールド一枚。シルバー一枚で安宿五泊分だから、ざっと二五〇日は泊まれる。すげぇ。
しかし、そろそろ稼がないとマズい。
メイディにも言って仕事をしないと。最近はなんとかコミュニケーションがとれるようになったので大丈夫だ。
今は宿屋の食堂で飯を食べている。
いつもと違ってにぎやかだ。一つのテーブルを常連ではない人たちが占領して楽しそうに話している。
その中の一人がさっきから視線でミレアちゃんを追っているのに気がついた。
ちょうどミレアちゃんが近くを通ったので聞いてみる。
「ミレアちゃん! ちょっと質問。あの人たちは?」
「あー、調査団が帰ってきたんですよー。それでですね」
「なるほど。ところでさっきからミレアちゃんを見ているあの男は?」
「あっ、コルサバさんです。学者さんで王都から来たんですよ! すごいね!」
明るく紹介してカウンターへと引っ込んでいく。
そういえば町の壁に沿って走っている時に集団が門を通るのを見たな。調査団か……。
「どっちにしろお前には関係ないだろ? ヨシオは体づくりに専念してろよ」
「待てタコ。一応俺も魔法使いの弟子なんだぞ」
まさかぁ~てな顔で俺を見るムラン。ムカつく。
「ハハハ! 勘違いしているようだけどオレが一番弟子だから」
「おいコラ。いつの間になってんだよ!」
ムランの頭をつかもうとすると素早く逃げられる。くそっ。
「ほら、シンシアの所にいくんだろ? 早くしな!」
今度は頭によじ登ってくる。最近慣れすぎだろ、このタコ。
しかたがないギルドに出かけよう。
「今日はなんなの?」
ムスッとしているシンシア。俺が何をしたんだ?
「いや、楽な仕事がないか聞きに来た」
「あるわけないでしょ! ここがどこかわかってるの? 昨日言ったよね?」
すごく怖い顔で迫ってくる。ハハ、面白い。
「ところでメイディはまだかな?」
「聞いてるの!? 用がないなら帰りなさいよ!」
カウンターを叩き怒り顔のシンシアをスルーしてカウンターでメイディを待つ。
やがてメイディがギルドに入ってくる。
「……いたな」
「ねぇ。あなたたち、ここで待ち合わせるのはやめてくれない?」
シンシアが俺とメイディを交互に見やる。メイディは苦笑しうなずく。
「いいじゃん。どうせ誰もこな…痛て!」
反論しようとした途中でメイディに杖で叩かれる。目が“これ以上言うな”といってる。頼むよ師匠、しゃべって!
「ところで師匠、相談があるんだけど」
「……何?」
意外な顔つきで俺を見る。つられてシンシアも。お前ら俺をなんだと思ってるの?
「そろそろ仕事したいんだ。紹介してもらえると助かる」
「あんた、さっきのあたしと態度が違うじゃない!」
何故かシンシアが憤慨している。当たり前だろ! 師匠だぞ!
思案顔のメイディがうなずいて目を見つめる。
「……ある」
「マジか! さすが師匠! で、何を?」
「……薬草」
「ん? 薬草を採るのか?」
うなずくメイディ。おお当たった! 最近は正解率が上がって嬉しい。少し不毛だが。
「仕事ってそういう事だったの!? 早く言ってよ!」
「言ってたよ俺は!」
驚いたシンシアに答えると険しい顔で睨まれる。なんで俺が悪くなるんだ?
するとカウンターの下から紙を取り出すシンシア。
「これよ。一応ギルド依頼にするから、好きなだけ薬草採ってきて。わかった? アンポンタン」
ムカつく心を抑えてうなずく。一言多いだろ!
俺の依頼なのに、何故かメイディがサインして行ってしまうので後を追っていく。
町を出て森の中へ入っていく。
比較的浅い所を歩いているようで木々の合間から遠くに町の壁が見える。
「師匠。目的地は近いのか?」
「……もうすぐ」
沈黙に耐えられず聞くと一言返事をくれた。なんでいつもうるさいムランは黙ってるんだ? と見たら寝ていた。
もくもくと歩くメイディについていくと、やがてひらけた草花が多くある場所に出た。ここか?
日光に照らされて気持ちのいい場所だ。メイディはそこから木の幹近くの影で腰を降ろし、ある草を採る。
「……これ」
目の前に差し出される草は一見雑草のようだが少し葉の形状が独特なようだ。素人の俺にはさっぱり。
「ヤバい。全然違いがわからない。師匠?」
「……気合」
何言ってるかわからないよ。気合ってなんだよ! そんなんでわかるなら苦労しないって!
「じゃあ、それを借りて同じものを探すよ」
「……そう」
メイディから草を借りて同じ物を探す。
やはり見本があると違うな。辺りを回って同じ草を探し採取する。
と、思ったよりも順調にいかず、なかなか探しても無い。
ふとメイディを見ると片手いっぱいに薬草を採っている。さすがだ師匠……。
「おい! ムラン! 起きろ!」
「うぅん…。うっさいなー」
なんで寝起きのコイツはこうなんだ? 変態か?
「それはやめろ! 気持ち悪い!」
「は! んだと、地球人が!」
「よし、じゃあ薬草探すの手伝え!」
返事の代わりに頭をポコポコ叩いてくる。あぁ、めんどくせ!
ムランを起こして手伝わせようとしたが逆に頭を叩かれて邪魔される結果になった。ああ、ついてない。
なんとか三本ぐらいを見つけて採りメイディの元へ行く。
「師匠! 全然ダメっす!」
「……アホ」
スゴい! さすが師匠。一言に全てが集約されている。ってバカにされてる!
「いや、違うんだって! 難しいから、探すの!」
「……よく見て!」
段々メイディが腹を立ててきたようだ。慌てて回り右をして再び探す。
少しはコツをつかめてきたらしく、だいたいありそうな場所が見えてくる。
そうなると先ほどよりは採れるようになってきた。
ふーっと汗をぬぐって立ち上がると、少し離れた前方にでっかいクマが突っ立ってこちらを凝視していた。
「あ、えーと、師匠ーーー! 助けてぇ~~!」
目をクマから離さないようにして叫ぶ。なんてついてないんだ、俺。
しかし、メイディの返事は無い。何故!?
危険を顧みず後ろを一瞬振り返る。と、大木の影にひっそりと隠れているメイディが映った。
「師匠~~~! ズリいぃいい~~!」
呟くがどうしようもない。するとジリジリとクマがこちらににじり寄ってくる。
ヤバい! ここは魔法か?
「ムラン! 魔法でやって…あれ?」
いなくなってる! どうりで首が軽いと思った。どこだ? ホント、ピンチの時はすぐ逃げやがる!
再び後ろを一瞬振り返ると、木の影にいるメイディの足元にムランが隠れていた。
「おい!! ふざけんな! 助けろよ! このクソタコ!!」
ムランに叫ぶと手を頭につけてハテナのポーズをしている。くそ、あのタコ!
「ガアアアアアアアアアアアアァァァ!」
威嚇と勘違いしたクマが突進してくる!
「違うから! お前に言ったんじゃないって!」
慌てて逃げる! って無理!
「ふざけんなぁあああ! クマーーー!」
片手を前にして魔法の盾を展開しながらクマに突っ込む!
バウゥン!!
あはは! 跳ね飛ばされた! 俺が!
二、三メートル飛ばされて地面を転がる。痛てぇえええええ!
なんとか両手両足を地面につき、起き上がると突進の勢いを殺してこちらへUターンしてきたクマが見えた。
「いいか! それ以上来ると串刺しだぞ!」
忠告したのに再び突進してくる。
串刺しなんて生ぬるい! 電ノコの刑にしてやる!
「うぉおおおおおお! 出現しろーーー!」
気合で叫ぶと高速で回転する巨大な丸ノコの刃が出現して突進してきたクマに向かう。
危機を察知したクマは慌てて急ブレーキをかけるが、その体重が裏目に出て止まらない!
そのままクマは丸ノコの刃に突っ込み両断した。グロい。まともに見てしまった。
「師匠! どうだ! 全然教わってないけど、なんとかなったぞ!」
メイディの方へ笑顔で向くと、冷たい目をしてツカツカとやってくる。
「……ダメ! 剣で戦う!」
ボカッ。杖で頭を叩かれる。
「え? なんで? 魔法使いの弟子でしょ、俺」
「……まだ早い!」
怒られた。意味がわかんねぇ。魔法を使ったら怒られる。なんなの?
「プッ。アハハハ! まだまだ早いんだよ、ヨシオくん!」
ムランがメイディの足元で笑っている。ホント、ムカつく! 細かく切って、酢の和え物にしたい。
だが、クマの元へ行ったメイディは皮をそぎ始める。持って帰るのか?
メイディの行動を見ていたら、ちらりと振り返る。
「……手伝う!」
何かご立腹のようなので、しぶしぶと大人しく手伝う。
その間、ムランは俺をバカにしていた。絶対、仕返しすると心に決める。覚えてろよ!




