中堅冒険者メイディの話し
子供の頃、おとぎ話しに出てくる冒険者に憧れていた。
私の村ではそんな事を言う者は愚かだとさげすまされる。だが、私の胸にある情念の火は消えなかった。
成人した私は村を逃げるように出て近くの町に行き、憧れの冒険者に登録すると新しい生活の第一歩を踏み出す。
だが、現実は厳しかった。そう。私は口下手だったのを忘れていたのだ。
頭であれこれ考えても上手く言葉にできない。
そのため、仲間同士での話し合いでも噛み合わないことが多く、いつしか一人で行動するようになった。
おとぎ話しの冒険者は仲間と共に旅をしていた。いつか自分もそうなると思っていたが無理。
そうやって一人でできる事をしながら冒険者として実力をつけていく。
幸いにも私には魔法の才能があった。といっても種族的特性なのだが、これも才能だ。
もうろくした老人の師匠につき数年。師匠は川に体を洗いに行き、そのまま流されていってしまった。
当時、小屋で留守番をしていた私は、帰りの遅い師匠を心配して川へ探しに出たが、人の気配すらない岸辺に残されていた靴と桶をだた見つめていただけだった。
再び一人になったとき、以前噂に聞いた辺境の開拓地に行こうと決めた。
そこでなら私の事を誰も気に留めないだろうし、新たな出会いがあるかもしれない。
バンガラに着いた私はそこでシンシアに出会う。
冒険者ギルドで誰も並ばないカウンターにいたシンシア。不思議とすぐに友達になれた。
シンシアは私の少ない言葉にも理解してくれている。それがたまらなく嬉しい。
私も彼女の力になれれば良かったけど難しい。
だけど一人の男が変えそうだ。無理やりに。
あの男を初めて見たのはいつもの魔物狩りをした帰り道でのこと。
町の壁が見える所を歩いているとき、遠くで爆発が起こるのを目撃する。目を向けると一人の男がゴブリン三匹から逃げているところだった。
よく見ると男の首には丸い生き物が取りついて声を上げている。初めて見るが、使い魔か?
自然と足が男の方へ向く。なんてお節介をするんだ私。でも見捨てられない。
彼らを助け、早々にギルドへ戻る。あまり話しをすると人が離れていくから。
だが、彼らもギルドに来た。どうやら冒険者のようだった。
私を見た彼、ヨシオはなんと弟子入りを志願してきた。
嘘みたい、夢のよう。私に教わりたいなんて。
最初は断ったが、ある考えが浮かんできて彼の願いを受け入れた。
そう、私は冒険者の仲間が欲しい!
パーティーを組んで冒険をしたいのだ!
だが、またここで問題が起きた。
あまりにも彼らの言動が変なのだ。まるでこの世界を知らないような。
そこで問い詰めると彼らは他の星からここに飛ばされと語った。嘘みたいな話しだが。
話しの中に出た赤く光る輪とその中に浮かんだ文字というのは魔法陣かもしれない。
とすると、大掛かりな召喚が行われた可能性が高い。この世界でそんな大それた事ができるのは国王に属する魔法使い達だけだろう。
確か城が爆破されているとか言っていたが。もし、その王冠をつけた人物が国王様としたら……よそう、これ以上考えるのが怖くなってきた。
しかし、身寄りのない彼らがこの辺境で暮らしていく事は難しい。
この町は戦うことができないと生活していけないからだ。
後付けだが、弟子を受け入れた自分の判断が間違っていないと思いたい。
そんな私の思いとは裏腹に彼らはいともたやすく魔法を習得してしまった。
おかしい…普通は魔法を発現させるには少なくとも数週間は必要なはずだ。しかし彼らは一日もしないうちに発現し、魔法を繰り出せるようになっていた。
特によくしゃべるムランの魔力は異常だ。少なくとも私の三倍以上はありそう。
感心して見ているとなぜか私の目の前で仲たがいし、お互いに魔法をぶつけ合う二人。
ムランは私の魔法を見まねで覚え、洗練させていく。対してヨシオは今まで見たこともない魔法を使う。
私はこれまでの常識が音を立てて崩れるのを聞き、ショックで落ち込んだ。
だが、そんな私の事などお構いなしに彼らは教えを求めてきた。こんなことも初めて。
だから私は決めた。あんな無茶苦茶な彼らの思い通りにさせない。
ヨシオは剣士にするよう体を鍛える。ムランは魔法使いの使い魔として私の理想のパーティーに仕立て上げる!
そうだ。別の星から来ようがこの地にいる限りは同じ立場なのだ。いや、私は師匠なのだ。
彼らと出会って一か月余り、こうしてシンシアとエアルちゃんを交え、たまに酒場で飲んでいるが話題の六割はヨシオたちのことだ。
良くも悪くもあの二人は目立つ。男でただ一人、シンシアの受付の常連なのだから。
今日も楽しそうにエアルちゃんが話題を振ってきた。
「あー、そいえば聞きました? 王城が爆発したって」
「ブーーー」
吹いた。エアルちゃんがびっくりしている。
「あれ? どうしましたメイディさん」
「……なんでもない」
私が取り繕う横でシンシアがうなずく。
「聞いたよ。なんでも大規模な召喚術を行使中に失敗したって噂でしょ?」
「そうそう! お城の半分が吹き飛んで王様や宮廷術師様たちがお亡くなりになったみたい」
エアルちゃんが相槌を打つのを見て確信した。頬に冷たい汗が流れる。
彼らは真実を語っていたのだと……。口留めしてよかった。
「……国はどうなる?」
「んーそうねぇ。王都では有力貴族が争い始めるでしょうね。誰が次の国王になるかで」
シンシアは酒の入ったコップを覗きながら語る。
「でもこの町には影響はないんじゃない? 辺境すぎるし。貴族もいないしね」
「あーなるほど! さすが先輩!」
エアルちゃんが頼もしそうにシンシアを見てお酒のお替りを注文する。
「でもどうですか? 進展ありました?」
「な、なにを? 誰と?」
唐突なエアルちゃんの話題にどもりながら顔を向けるシンシア。
「わかってるくせに。一人しかいないですよ先輩!」
「ヨシオとは何もないよ。だいたい今日だって来たけどろくな事ばっかり! 呆れるよ」
顔を伏せてシンシアが文句を言っているが私は知っている。
たまに笑顔になっていることを。
あの男は不思議だ。元々この世界の人間ではないからかもしれないが。
そういえば私がエルフって事に気がついているのか? 怪しい。
と、エアルちゃんが私に振ってきた。
「メイディさんはどう思います?」
「……ダメだ! 不幸になる」
「えー! もっと応援してあげてくださいよ~。ねー先輩?」
「ホント、不幸になりそう」
ため息をついてシンシアが再びコップの酒を眺める。そう、ヨシオはいい加減だ。私達と価値観が違う。
「も~。そんなんだからダメなんです二人とも!」
頬を膨らませて抗議するエアルちゃん。そのかわいい仕草にあざとさはない。さすが男をとっかえひっかえしているだけの事はある。
そうして楽しい酒の席もやがて終わり、それぞれが家路につく。
夜空に輝く星を眺めながら、木の扉を閉じた窓からところどころ薄明かりの漏れる住宅街を二人で歩いていく。
あの星のどこかに彼らの住む場所があるというのか?
まるで想像がつかない。
そんな気の遠くなるほどの長距離を瞬きする間に呼び寄せる召喚の術とは一体……。
何が目的だったのだろうか?
その当事者もいない今、誰がわかるというのか? 呼ばれた当人たちもわからないのに。
答えの無い問で頭を悩ますのはやめよう。
明日もあの二人を鍛えなければ。
そう、パーティーを組んで冒険だ! それが私の当面の目標。




