修行をすると金がなくなる
いつの間にかシンシアがお茶を淹れたようで皆にコップを配る。
お礼を言って受け取ると睨まれる。さっきのメイディにした表情が欲しい。
シンシアがメイディにお茶を渡しながら聞いている。
「それでどうして落ち込んでたの?」
「……この二人」
俺らを指さすメイディ。視線を送るシンシアは呆れている。つか、理由を言ってくれ!
「気にしない方がいいよ、こいつら変だから。大変だと思うけど教えるの頑張ってね」
「……ありがとう」
なんかすごく優しいシンシア。メイディの手を握って励ましている。安心したのかメイディも微笑んでるし。
まあ、意外な一面が見られたので良しとするか。
それから食堂に移動して昼を食べ、シンシアはギルドへ戻っていった。
俺達は昨日と同じく町の外へ出て門の前にいる。
メイディが壁を指さす。嫌な予感がする。
「……走る」
「マジで! またかよ……」
冷たい目をするメイディ。くっ、仕方がない。約束したからな。
走ろうとすると止められムランを指さす。
「……置いて行く」
「いや、オレはこのままでいいから!」
嫌がるムランをつかんでメイディに渡す。
「ヒヒ。頑張れよ!」
「裏切り者ーーーーー!!」
ムランの叫びを背中に受けて走り始める。これであのタコも会話に苦労するがいい! ワハハハ!
一周走って門の前を通過するとメイディとムランが何かやっているのが見える。
どうやら魔法の講義をしているようだ。弟子の俺がほったらかしなんですけど師匠。
二周目には前にやった魔力の放出をしているのが視界に入る。いいなぁ、俺もやりたい。
四周になると段々きつくなってくるので周りが見えなくなってくる。
六周目でヨロヨロになり、なんとかメイディの元へたどり着く。
「し、師匠! もうムリ!」
「……わかった」
メイディはうなずき、陶器の小瓶を取り出して差し出す。
いやいや受け取り飲み干す。うげぇー不味い。だが疲れが吹っ飛んだ。
そんな俺を満足そうに見てメイディは地面を指さす。
「……腕立て」
「ええ! まだやんの!?」
すると目を細めるメイディ。視界の端にニヤニヤ笑っているムランが映る。くそ!
しぶしぶ地面に両手をつき、腕立てを始める。
なんとか五〇回すぎたあたりでダウンした。もうムリ。
寝そべったままメイディを見ると例の小瓶を出してきた。勘弁して!
「……振る」
俺の腰にあるマトックを指さす。ああもう、わかったよ!
ひったくるように小瓶を奪い一気に飲み干す。
無言で武器を取り出し構えると、高校の頃に授業で習った剣道の形を思い出しながら素振りする。
しかし、この武器、先端が重いから振るのが難しい。
ヒーヒーしながら素振りをこなす。
結局その日は鍛錬だけど終わってしまった。
ムランは魔法のイロハを教わったようで非常に満足していた。俺にも教えて欲しい。
それから数日を鍛錬に費やし過ごした。が、ある問題が俺を襲う。
「金が尽きた……」
「いい加減にしろよ! このトウヘンボク!」
いきなりムランがののしる。お前も働けよ!
「仕方が無い。これはやりたくなかったが最後の手段だ」
「頑張れよ! じゃないと飢え死ぬよ。それだけは勘弁してくれ!」
今度は泣き落としでくるムラン。いちいちムカつく。わざと言ってるだろ、このタコ。
速攻、ギルドにいるシンシアのカウンターに向かう。
「な、何! そんな急いできて」
驚いているシンシアに頭を下げる。
「金! 金を貸してくれ!」
「は?」
さらにビックリしているシンシアの手を握る。
「お願いだ! 絶対に返すから金を貸してくれ!」
ボグ!!「いてぇえ!」
後頭部を思い切り殴られ悶絶する。
「……バカ」
振り返るとメイディが杖を両手で握って振りかぶっているところだった。
慌てて両手を出し止める。
「待て! 違う! 今、シンシアに頼んでいたんだよ!」
俺を冷たい目で睨んだ後、シンシアに向くメイディ。別に襲ってないからね?
「あ…えと、確かに金を貸してくれってきたよ?」
固まっていたシンシアがかろうじて口を開くが目が点だ。放心状態?
「ほら!」
「……バカ」
メイディが俺をひっぱってギルドから外へ出る。な、なんだ?
「……はい」
メイディは懐から金貨を取り出し差し出す。
「え!? いいのか?」
うなずくメイディ。マジかよ! 神様ってこんな身近にいたんだな!
「ありがとう師匠! 倍にして返すよ!」
金貨と一緒に手を握り感謝をするが、嫌そうに体をのけぞらせている。ナゼだ!
「お前もお礼を言えよ」
ムランにも催促するが頭をポコポコ叩くだけ。一体どういう星に生まれたんだコイツ。
「……謝る!」
今度はギルドの中へメイディに引っ張られていく。嫌だ。行きたくない!
いまだ目が点になっているシンシアの前に出される。何で謝るんだ? ああ、ついてない。
「えっと、突然すまなかった。切羽詰まっていたんだが解決したよ。だからさっきのは気にしないでくれよ?」
目をぱちくりさせてシンシアがこの世に戻ってくると歯をかみしめて怒ってきた。目が座ってるぞ。怖い。
「ちょっと顔を出しなさい」
意味がわからないが言う通りにするとグーで殴ってきた!
バクゥ!「ぶぁああ!」
頬に当たり吹っ飛ばされる。
「言い方!! 人に頼むとき!」
怒りすぎて言葉がなっていない。荒く息を立てるシンシアを慌てたメイディがなだめている。
「ふー。ふー」
「……勘弁して」
ダメだ。二人とも変だ。会話が成り立ってないぞ。
そんな俺の感想をよそに通じているようだ。不思議。
その後、なんとか立ち上がってシンシアに事情を説明して怒りを鎮めてもらった。
金を借りた代償は後頭部のタンコブと頬にできた赤い腫れ。
頭にいたムランは彼女たちの行動にプルプル震えているだけだった。怯え過ぎだぞ。




