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魔法の修行をはじめる

 

「また来たのか……。騒ぎは起こすなよ?」

 宿屋のおやじにギロリと睨まれ、姿勢を正して愛想笑いする。

「大丈夫です! な? ムラン?」

 聞くとムランが肩に降りて半目で視線を送る。

「何言ってんだよ! それはヨシオ次第だろ?」

「ふざけんな! オメーだろ!」

「お前らだろーーーが!!」

 おやじに二人一緒に殴られた。

 とりあえず五泊分を先払いし、有り金のほとんどを費やす。明日から頑張って稼ごう!

 ついで食事を頼みテーブルに着く。

 しばらくしてミレアちゃんが料理を運んでくる。

「お待たせ! あんたたちも懲りないねー」

「できれば宿を変えたいが金がないんだ」

 苦笑いしてミレアちゃんが引っ込んでいく。言った後に気づく、主人にチクらない事を祈るのみ。

 食事を終え二階に上がる。今日からは二番の部屋だ。

 空いてるベッドに横になると疲れたのかすぐに(まぶた)が重くなった。


 朝起きるとムランが胸にへばりついている。お前の寝床は俺じゃねーよ。

 めんどくさいのでそのまま支度をして下階で朝食を済ませギルドへ行く。

 ギルドは既に開いていてカウンターにはシンシアが見えた。相変わらず列は無い。今日ぐらいは休んでいいのに。

 俺と目が合うと怒ったような顔で手招きする。ホント、行きたくない。

「やっと普通になった。で、今日は?」

 俺を上から下まで見て一言。似合うとか褒めるとかはないの?

「いや、メイディは?」

「なんであたしが知ってるのよ」

「昨日言ったよね? 待ち合わせ場所を聞き忘れたって」

 仏頂面で片眉を上げるシンシア。

「それで?」

「わからないからここに来た」

「あたしは暇じゃないの! ほら、どっか行きな!」

 カウンター越しに押し出そうとして俺の胸に引っついているムランをさわる。

「感触が気持ちワル!」

 苦虫をかんだ顔ですぐ手を引っ込めるシンシア。ハハハ。ざまあ!


「ん、うぅん。……ん!?」

 起きたムランは状況がのみ込めていないようでキョロキョロしている。

「な? 俺はコイツの寝起きが気持ち悪い」

「んー。そうね」

 嫌そうな顔で初めてシンシアが同意した。

「ふざけんな地球人! なんでここにいんだよ! 飯は!?」

 いきなり暴れるムラン。時すでに遅し。

「遅いよ。ワハハハ!」

「ぶっ殺してやる! 絶対にだ!!」

 殺意丸出しの表情でリモコンを取り出し俺に向けると、一生懸命ボタンを連打するが無反応。いやあ、今日はいい日だ。

「落ち着けムラン。もうすぐお昼だ。そしたら食おう、な?」

「うぅうう…調子に乗りやがって! 覚えてろよ~」

 観念したムランはリモコンをしまうと頭の後ろに移動する。すっかり定位置だけど、いいのか?

 呆れたシンシアがムランを指さす。

「ホントに使い魔なの? なんで“殺す!”とか出てくるのよ」

「まあ、いろいろあってさ」

「プ、フフフ」

 体を横に向け顔を崩して笑いをこらえているが、漏れている。あれ?

「笑うとすごくカワイイじゃん。いつもそうしたら?」

 すると真っ赤な鬼の表情になったシンシアがくってかかる。

「うるさい! どっか行け! このクズ! マヌケ!」

 激しい暴言に慌てて逃げるようにギルドを出る。どうしてこうなった……。


 行く当ても無いのでギルドの前に座ってメイディが通りがかるのを待つ。

「なあ。お前に聞きたいことがあるんだけど…」

 下に降りてきたムランが俺を見上げる。

「何を?」

「お前がたびたび言ってる“タコ”って何だ?」

「ああ! それね!」

 地面にタコの絵を描いていく。というよりコイツは知らずにキレてたのか?

「できた。この形がタコだ。こいつは地球の海に生息している生物で……」

 はっ! しまった。普通に説明してしまった。もっと違うこと言っとけばよかった。

 と、先ほどよりも殺意あふれる顔で俺を睨むタコ。

「なんとなくわかってたけど侮辱してたんだな! バカだから自分で説明しやがって!」

 キレたムランが襲ってくる!

 三本の手でグルグルパンチしてくる。全然痛くない。

 だが俺も黙ってやられっぱなしにはしない。隙を見てはデコピンで応戦する。


「……やめろ!!」

 突然怒鳴られ、ビックリして声の方を向くと杖を持ち仁王立ちしているメイディがいた。フードを被って顔は隠れている。

「……思いやられる」

 顔に手を当て頭を振っている。カッコいい美人だから、何やっても様になるな。

「よう! メイディ。待ってたよ」

「……大人しく待て」

「すみません。ほら、お前も謝れよ!」

 ムランに催促すると腕を組んで膨れた顔を横に向ける。拒否かよ!

「……こい」

 一言告げるとメイディは先を歩き始める。慌てて俺も膨れているムランを肩車すると後を追って行く。

 町の門へ来ると見張り小屋をメイディが見上げる。

 すると門が開いていく。お、何も言わなくてもいいのか? 見上げるとダンとベルドが顔を出している。

 手を振ると返してくれた。この間、会話無し。

 門を出るとメイディが足を止め、振り返る。

「……走れ」

 壁を指さす。

「え? 壁に沿って走れって事?」

 うなずいて肯定された。あれ? 魔法は?

「……ひ弱だ。体力つけろ」

「わかった。いつまで?」

「……戻るまで」

 くるりと背を向けると森の方へ歩き始めるメイディ。なんか意思疎通が難しいんですけど。大丈夫か?

 去りゆく後ろ姿を見送っていると頭だけ向け睨んでくる。

 ああ、わかったよ。

「ほら! 走れよ!」

 ムランが頭をポコポコ叩いて催促してくる。ちくしょう! お前も走れ!

 仕方ないので壁沿いにチンタラ走る。と、後ろが爆発した!

 ビックリして振り返ると遠くの方でメイディが片手を出しているのが見える。

 怖えええ! 猛然とダッシュしていく。


 町の壁沿いを走っていて気がついたが思ったよりも小さいようで、体感で東京デ〇ズニーランドぐらいの広さしかないようだ。一部では川を引いている場所があり、外から侵入できないように分厚い鉄格子がはまっていた。

 門は俺とムランが入って来た所と反対側の二ヵ所にあった。それぞれ見張り小屋が建ち辺りを監視している。見張り小屋は他にも点在していた。

 三周を回るところまではダンとベルドが手を振っていたが、それ以降は飽きたのか無視されているようだ。

 しかし、走ってから気がついたが、ビジネスシューズではダメだ。道が平坦じゃないから小石を踏んだだけでも痛い。もっと底の厚いアウトドアシューズが欲しい。町に戻ったら靴を買おう。

 五周を回ったところで体力が尽きた。もう、無理。

 ヨロヨロと走っているか歩いているか分からなくなり門に近づくとすでにメイディが待っていた。

「終わったぁーーー」

 メイディの足元で倒れる。こんなに走ったのは高校の部活以来。疲れて目が回るよ。

 見下ろしながら冷めた目でメイディが見ている。

「……だらしない」

「ハハ! ダセエなヨシオ! もっと頑張れよ!」

 このタコ! 言うに事欠いて調子に乗りやがって!

 ムランを引きはがしてシェイクする!

「ふざけんな! お前も走れ!」

「やめろーーー! バカーー!!」

 ボコッ!「痛た!」

 メイディに杖でぶたれた。

「……もう一周!」

 威圧されて恐ろしくなり、ヨロヨロと走り出す。覚えてろよ、くそタコ!

 ムランは俺の頭を激しくポコポコしている。なんで待たずに一緒にいるんだよ!



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