ゆでダコウインナー
「あ、おにぃ起きたんだ」
「唯智華、お前何してた」
「マダナニモシテナイヨー」
「しようと思ってたんだな!」
「っち・・・。」
「舌打ち!?」
「だって、おにぃ最近構ってくれねぇんだもん・・・。いいじゃん!意識ないおにぃに馬乗りするくらい!」
「意識ないのが問題あるんだよ!それにお前もう中3だろ?そんなんじゃ彼氏できねえぞ」
「いらねぇーし・・・」
黒髪のサイドテールがちょこちょこ揺れる。
おにぃは妹の将来が心配です・・・。
「ねえねえおにぃ。おにぃがゲームやるなんて珍しいね?いつも小難しい本か、教科書か、なんかエッチな本読んでるだけなのに」
「えええええ、えっちな本なんて読んでねえし!?」
「机の下から2番目のノートの下」
妹は早口で告げる。
「なんでしって」
「ちなみにお母さんが言ってた」
「お母さん!?」
お母さんだけは、部屋に入ってこないと信じていたのに!
と心の中で叫ぶ。俺はもう何も信じれないかもしれない。
「そ、それはさておき。今やってるのは戦国ゲームだよ。VWの」
すると、唯智華は少し目を見開く。最新機種のゲームの名前を聞いて、少し驚いたのだろう。
「ふーん。それが噂の」
まるで興味持ち始めた猫みたいに、つんつんとつついたり転がしたり持って色々な角度から観察する。
「んで、いくらしたの?」
「7万円」
「おにぃ!今から警察行けばまだ間に合うよ!」
「何もしてねえよ!!」
たしかに俺はバイトもしてないし、お小遣いもそんなに貰えてない。月5000円位だ。
それを知って心配したのだろう、でも警察行くのはおにぃショックかな・・・。
この時、少しだけ家族との信用度を確認した。だめだこりゃ!
犯罪じゃない事をきちんと伝え、鈴森からこ貰い物という事と、貰うまでに何があったかも話した。
だが、まだ唯智華の顔は納得しきっていない。
「おにぃだけずるい・・・」
まあ、そうだろうなとは思う。
実際に、逆の立場だったらすごい羨ましいと感じるだろう。最新機種を貰えるなんてな、普通じゃ有り得ない。
改めて鈴森に感謝する。
時計を見たらもう12時、唯智華と話していたら30分も過ぎていた。
「俺はそろそろ寝るぞ・・・てかこんな時間まで起きてていいのか?」
「おにぃが起きてるならいいの」
ま、俺も人の事言えないしなーと布団に潜る。
「いちも一緒に寝る!」
何を思ったのか、急に俺の横へダイブする。
「うわっ!?」
「えへへ〜」
そう言いながら腕を絡めてくる唯智華に、俺はもう引き離せないと察して「もういいか」と呟き目を瞑った。
そして朝、母親に二人揃ってこっぴどく叱られた。
「うーっす、卯付」
「おはよー、鈴森」
「察した」
「早いよ、まだ何も言ってねえよ」
以心伝心、これが真の親友か・・・。身に染みて実感した。
「えろ本バレたからって、そう落ち込むな」
前言撤回、最悪だ。
特にいつもと変わらない学校を過ごし、気づいたらもう放課後だった。
「今日は何する?」
「すまん、俺今日は用事ができてやれそうにないわ」
「そっかー・・・」
少し楽しみにしていた分、内心ちょっと落ち込む。
まあ、1人でやるのも悪くないか。と切り替え、鈴森と別れた。
家に帰り、時刻は4時半。シャワーを浴びて「よし」と一言呟くとVWをセットする。
玄関から「ただいまー!」と妹の声が聴こえたが、返事する間もなく意識が切れた。
そして瞼を開けると、いつもの大広間・・・と思ったが鏡の前でポーズをとっている濃綺さんが視界の端っこに映っていた。
(よかったあ、1人じゃなくて)
心の中で呟きホッとする。
話しかけるのも気が引けるので、そっと暖かい目で見守っていた。
ちょっと根暗だと思ってたけど、 割と1人だとテンション高いのかな・・・
「でもそのポーズ、どっかで見たことが」
そう一人でつぶやくと聴こえたのか、ビクッ!?と反射的にこっちを振り向く。
「いいいいい、いつからいたんですか!?」
顔が真っ赤になり、よく俺のお弁当に入ってるタコさんウインナーにソックリだった。
「んー、5分くらい・・・前かな」
「そ、そんなに・・・!?」
首が一瞬落ちたんじゃないかと錯覚するくらい、ストんと項垂れる。
「案外面白い人なんだね、ポーズ似合ってたよ」
少し微笑みながら、言葉をかける。すると「面白くないです・・・」と言うが「ありがと・・・」とギリギリ聞こえる程度の小声で呟いた。