プロローグ
初投稿となります。海無れい という者です。
切なくてもどかしい感じの恋愛作品を書いてみたいと思い立ち、拙い文章力で気ままに執筆してみようかと思います。
本当に今日何もする事がなくて暇だ暇だという日に、読んで頂ければ幸いです!
執筆開始日
2015.12.14
「君は冷蔵庫の気持ちを知っているかい?」
彼女は昔から突拍子も無いことを言うのが好きだった。
どう突拍子もないのかというと、さっきまでキンキンに冷えたアイスクリームを頬張りながら、今日の一連のニュースを淡々と伝える、報道キャスターを真顔で見つめながら、僕にそんな意味のわからないことを言うぐらいに。
「ね、聞いてるんだから答えてはいかが?」
折角、気を使って無視を決め込んだのに、彼女は僕の期待を裏切るように答えを急いた。
「そうだね、さっきまでアイスクリームを食べていたせいで頭をやられたようだ。もう一度質問内容から言ってくれるかい?」
僕がそう言うと、
男の子のくせに弱っちいねぇー、だから彼女できないんだよ?
と、とてもとても不愉快だが、正真正銘の事実をさも残念そうにぼやいた。
しかし、ここは僕が残念がるところだ。決して彼女が大きなため息をついて、まぁそんな君にはもう一度だけチャンスをあげよう!と声高らかに宣言する場面ではない。
「だからね、さっき私達が食べたアイスクリームを冷やしてくれていた冷蔵庫様の気持ちが君には分かるかっていう質問を私はしてるんだよ。」
台所の付近に設置された、その白くて夏場には僕の拠り所となる機械を指さして彼女は言う。
彼女の喜々とした表情とは裏腹に、僕はこのとんちんかんな質問に答えてやらないと、明日の夜明けをこのまま迎えてしまうと察し、とりあえず、知らない、と答える。案の定彼女には、それは駄目、とつっ返される。
「前も言ったでしょ。無機物にだって気持ちはあるし、人より数倍も分かりやすいって。だから感情の機微に敏感でいろいろ気の使える良い男なのに彼女ができない君に、分からないはずがないんだよ。」
「今の絶対僕のことバカにしてるよね。」
「ん、誉めたよ。良い男だって。」
彼女の眼をじっと見返したが、相変わらずむかつく笑顔をぶら下げながら、さあさあ、と答えを強請っている。
僕は甘ったるいアイスクリームで乾いた口内を自分の唾液で潤しながら、彼女に発する。
「暑いな、とか。」
「君にしては安直すぎるね。」
ばっさりと切られる。
しかし、この異常な気温の中、無機物も有機物も皆関係なく、暑いということだけは感じとっているのなら、今の答えは彼女の言う通り安直すぎたのかもしれない。
「さて、一応君のあんちょくな意見も聞けたことだし、ここで私が彼女の気持ちを代弁してしまおうかな。」
彼女という単語に僕が首をかしげると、また先程と同様のそれを指さした。
いつから我が家の冷蔵庫の性別が女、いやメス、になったのか全く検討がつかないが、それを突っ込むと、また彼女の意味不明な哲学的見解を聞かされるので、やめておく。
とりあえず、静かに話を聞いてやるのが彼女に接する時の得策となるのは最近理解してきた。
彼女の言う通り、僕は気を使える良い男なので、そんな無粋な真似はしないのだ。
「彼女はね、最近胃もたれが酷いようでね、思うように氷を出すことが出来ないんだ。それでね、今にでも壊れてしまいそうでね、早急に」
彼女が最後まで言い終わる前に、そうだ、と言わんばかりに例の彼女から、今まで聞いたこともないような鈍い音がした。
僕が目を点にして見つめていると、悠長に先程まで話していた彼女は、あちゃー一足遅かったか。と、まるでこうなることが予めわかっていたような口ぶりで例の彼女の側まで近づいた。
「もう少し耐えてくれると思っていたけど、ごめんね、彼が余りにも理解するのに時間を要する奴でね。今から修理を頼むよ。」
そう彼女に語りかける彼女は、あの時、初めて彼女を見た時と、同じ瞳で笑っていた。
けれど、それが僕に向くことは無いのだろう。
いや、有機物、である僕に向くことは無いのだろう。
あくまで彼女のあの瞳が向けられるのは、例の彼女のような一般的には無機物と呼ばれる生命を持たぬ者たちで、僕ら人間のように自ら自我を発信できる存在ではないのだ。
そしてそんな彼女が何故、無機物たちの心情を理解できるのか、これは僕の単なる憶測に過ぎないけれど、彼女の半分は無機物。だからかもしれない。